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「あんな酒一杯で酔いつぶれて悪酔いするようなお前が、なんで、そんなゼツラン酒の最高級酒ポルフペトラエアなんかを……!死にたいのか!?」
「死にたくないから、アウト!お前の家で飲むんだよ!」
そう、ハッキリと言い切るバイに俺は今朝がた吐物まみれにされた自身の毛布と寝衣を思った。その二つは今洗濯を終えて乾かしている。毛布などは乾くのに数日は要するだろう。
故に、我が家に残るのはアボードが自分が泊まる為に用意した毛布のみ。
「寄宿舎は飲酒を禁止されてるし、俺は誰を誘っても飲みにだけは誰も一緒に来てくれないし」
「だろうな」
「昨日、お前に吐物をまき散らした時に俺は確信した」
「…………」
「俺が安心して飲める場所はここしかないってさ!」
「ふざけんな!?俺ん家なら吐物まみれにして寝こけて良い訳じゃねぇよ!?」
コイツ……!
言うに事を欠いて何を言い出すかと思えば。俺はこんな頭のおかしいヤツの頼み、普通なら二つ返事で断るべきところだ。脳内で議論する余地など欠片もない。
しかし、だ。
「俺の吐物を受け止めて、ゼツラン酒の最高級酒ポルフペトラエアを取るか。それとも、俺を吐物を拒否してゼツラン酒の最高級酒ポルフペトラエアを飲める機会を棒に振るか。アウトが選べるのは2つに一つだ!」
「なんて恐ろしい二者択一!」
俺は迷っていた。あぁ、迷っているさ。
普通の人なら絶対に断るかもしれないが、俺は……ゼツラン酒の最高級酒ポルフペトラエアが飲みたいのだ!
高級だし、なかなか手に入らないし。そして、確かにアルコール度数が高すぎて、俺ですら店で飲むのはきっと躊躇うだろう。
ゼツラン酒は別名“酒飲み殺し”。そして更に言えば“宅飲み酒”とも呼ばれる。
選ばれし者以外は外で飲むべからず。
そう、昔から酒飲みの間では脈々と語り継がれている鉄の掟だ。
「毛布は……今朝のお前の吐物で1つしかないぞ」
「仕方がない。2人で使うしかないなねぇ。本当は野郎となんて寝たくないけど」
「……あの寮は、熱結石の故障のせいで真冬の今すらシャワーは水しか出ないぞ」
「ダイジョーブ。俺、どうせ意識と記憶ないから、好きに吐物まみれの俺を洗いながしちゃって!」
「お前には男の自尊心ってもんがないのか!?」
「まぁ、もうアウトに対して、そんな自尊心あっても仕方ないしねぇ。っていうかさぁ、アウト」
——-お前、俺に断らせようとしてる時点で、お前自身は了解してるって事に気付いてる?
そう、どこか満足気な表情で俺を見下ろしてくるアボードの姿に、俺は力を込めていた拳からフッと力を抜くと、深く息を吐いた。
「酒の為なら、お前の吐物くらい平気だね!」
「よしっ!なら行こう!」
こうして吐物塗れの未来の確定した俺達二人は、それでも楽しい気分で俺の職場を後にした。
さぁ、高級な酒が俺を待っている!