ヤツが歩けば女子も歩く。
そんな言葉が校内を闊歩するくらい、ヤツは学校に革命を起こした。
しかもそれは転入初日から。
ホームルームの終わった瞬間、周りに大量の人間を集めた。
しかも、噂を聞きつけて集まった他のクラスの連中まで廊下や教室の中に集まってくるのだから、それはもう凄い人間がウチのクラスにごった返した。
テンション高いな、うちの学校。
まぁ、さすがに、あのレベルの男ともなると、周りには男女問わず人間が集まるようだ。
わかる。
すっげー、よくわかる。
受験生と言う窮屈で最悪な称号を持ち、更には補習付けの抑圧された毎日を送る俺らにとって、ヤツは学校に吹きぬける一筋の爽やかな旋風のような存在だから。
ヤツの近くに居れば何か起きそうな、そんな高揚した気分になる。
故に自然と惹きつけられる。
傍に居たいと、隣に居たいと自然に思える。
ヤツを見て、俺はこれが“カリスマ”って奴か、と心底納得した。
ついでに“カリスマ”って言葉を電子辞書で調べてみたら真っ先に「精霊から与えられる特別な力」と出た。
宗教的な意味合いでは、そう言う意味になるらしい。
まさか、そんな神がかった意味が出てくるとは思ってもみなかったが、ヤツを見ていたら確かにそうだな、と納得できた。
アイツの完成度は確かに神がかっている。
それこそ、学校中の女が騒ぎたてる位に。
それからだ。
俺の中で、ヤツはカリスマの代名詞になった。
だからさ、俺もホームルームが終わった後、すぐにヤツの元へ行って話しを聞いてみたかったんだ。
俺だって今までチヤホヤされてきたけれども、ただの一般人なのだから。
俺はヤツのカリスマ臭にまんまと当てられてしまっていたのだ。
だから、俺はホームルームが終わった後、話しかけるタイミングを密かに見計らっていた。
「ねぇ、一君てさぁ。前はどこに住んでたの?」
「一君!教科書とか大丈夫?ちゃんとコッチの持ってる?」
「一君て、コッチの大学受験するの?」
一君、一君、一君、一君!
そう、その殆どの声が女子の媚びるような高い声。
そこには俺の入れる隙など一瞬もなかった。
さすがにここまで人が多いんじゃ近寄る事もできない。
だから、その時、俺はヤツに話しかけるのを諦めた。
でも、まぁ同じクラスなんだから、これから喋る機会はたくさんあるだろう。
そんな風に思って俺はとりあえずヤツを自分の席からジッと見つめていた。
人ごみの隙間から見えるヤツは、やっぱり凄くカッコ良かった。
精霊から与えられたヤツの魅力は、人を飽きさせない新鮮な魅力だった。
だから、俺はその後もたびたび、アイツを見るのが癖になってしまった。
しかし、この俺のヤツへの視線が、その後周りに妙な誤解を生んでしまう事になるとは、この時の俺は知る由もなかったのだった。