エピローグ1:仕事復帰

 

「アバブ。俺の代わりに入ったっていう若い男ってさ」

「プラスさんですよ。年は26歳で、とっても面白い人です!あれは破天荒受けですね!」

「同い年の、ハテンコウウケ。怖い」

 

 本日、俺、アウトは2か月以上休んでいた仕事へ復帰する事となった。正直、ウィズが色々根回しをしてくれていたとは言え、戻るのは非常に、非常に不安だった。

 なにせ、今の俺にとったら「労働って、何だっけ?」という勢いなのだ。

 

 そんな今朝の俺に、ウィズは酒場の部屋から俺を見送りつつ、俺に言った。

 

『アウト、仕事が不安なら辞めていいんだぞ?お前一人養うくらい、俺はどうという事はないからな。住む場所?何を言っている。俺の家に来ればいい。ちなみに、俺の本宅は此処ではないからな』

 

 本宅。

 家の事を本宅という人に、俺は初めて出会った。本宅があるなら別宅もあるのだろう。なんだソレ。金持ちか。

 まぁ、そうだ。金持ちなのだろう。

 

『いってきます』

 

 俺はウィズの酒場から本日、復帰初日の初出勤と相成った。ウィズはあぁ、言ってくれているが、いくらウィズが俺を「あいしている」と言っても、それとコレとは話が別だ。別問題だ。

 そして、そろそろ放置している寮の部屋にも帰りたい。何もない部屋だが、あそこには俺の”お気に入り”が詰まっているのだから。

 

「……お腹が痛くなってきた」

「アウト先輩って、肝が据わってる時と、そうでない時の差が凄いですよね……」

 

 さぁ行きますよ!遅刻します!

 そうアバブが俺の背を叩いた時だった、俺の背後から、とてつもなくご機嫌で、元気極まりない声が響いて来た。

 

「やあ!アバブおはよう!今日も俺の次に可愛いな!」

「おはようございます。プラスさん。プラスさんも、今日も非常に良い受けですね!」

 

 なに、この謎の挨拶。

 そして、誰。クルクルと、それこそ言葉通り踊り出てきた、一人の茶縁の眼鏡をかけた男。あぁ、まぁ分かってる。さっきアバブが名前を言ってたし。それに、何か圧倒的に面白い感じだし。

 いや、もうコレは面白いを通り越して、ちょっと変な奴じゃないか!

 

「む?初めて見る可愛い顔だな!俺の次……いや、俺と同じくらい可愛いかもしれない!」

「……は?」

「はー!いつも誰に対しても自分の次に可愛いとおっしゃるプラスさんの、”俺と同じくらい可愛い”なんて!!私、初めて聞きました!新なカップリングの登場かー!!」

 

 いや、待て待て。アバブ。君は朝から悶えていないで、俺にきちんと様々な諸々を説明するのが先だろう!

 っていうか、何だ!コイツ!今も踊ってるし!歌ってるし!どっちも妙に上手いせいで、思わず見入ってしまうじゃないか!

 

「で?キミの名前は?名前が無いのか?それなら俺が素敵な名前を付けてやろう!」

「あるある!あるから!勝手に名付けようとしないで!」

「残念だなー!名前がなかったら親愛を込めて“マイサン”と呼ぼうと思っていたんだが!」

「聞いて!俺の名前はアウト!アウトです!名前ならありますから!勝手に名付けないで!」

 

 マイサン。

 一体どこから走ってやって来たんだ、この名前は。俺が踊る男、プラスを前にそんな事を思っていると、プラスはご機嫌な様子で俺の前へと一歩踊り出てきた。

 そして、躍り出たかと思うと片膝を地面につけ、俺に右手を差し出してくる。

 

 え、本当に何!?

 

「俺の名はプラスだ!さぁ、アウト!週初めで非常に気分は最低だったけど、君に会えて急に元気が出てきた!一曲、俺と踊ってくれないか!?」

「待って!始業ベルが鳴ってるから!復帰早々遅刻は、お腹が痛くなるから止めて!」

「このベルはダンスの合図だ!」

「仕事の合図だよ!?」

 

 こうして、俺はめでたく仕事復帰の初日を遅刻で飾り、キリキリと胃の痛む中、上司のネチネチした朝礼での嫌味を聞く羽目になったのである。

 そして、これは最高に余談なのだが、プラスはあの俺一人きりだった寮の二人目の入寮者だった。

 

 そして、これも余談の余談。

 

「アウト!紹介しよう!この子達は、俺の次に可愛い俺の家族だ!だから今日からお前にとっても家族だぞ!」

「は!?」

 

 俺の住んでいた寂しさ極まる殺風景な寮は、プラスの拾ってきた、たくさんの可愛らしい毛のモノ達で溢れかえっていた。

 

 ミュウミュウと可愛らしい鳴き声上げて、俺の足元にすり寄ってくる毛のモノ達。

 

 しかし、まぁ、これについては、また後日お話をする事にしよう。ともかく俺の仕事復帰は、こうして初日早々、プラスという激しい環境の変化と共に幕を開けたのである。