幼い頃、オレは、よく夢を見ていた。
何の夢だか、今となっては覚えていないけれど、お母さんが言うにはよく、夢の中の友達の話をしていたらしい。
名前は、なんて言っていただろうか。
お母さんに聞いてもよく覚えていないし、オレ自身ももう覚えていない。
あの頃は、引っ越したばかりで、周囲に友達なんてものは居なくて、ただただ毎日寂しかった。
真っ暗になる夜は本当に怖くて、眠るのも怖かった。
闇に引きずり込まれて、もう帰ってこれないんじゃないかって、不安で不安で仕方が無かったんだ。
それが、いつの頃からか、全然怖くなくなった。
夜は決して真っ暗ではない事を知った事が、始まりだったかもしれない。
夜は黒ではない。濃紺で、空には月は星が瞬いている。
一緒に飛び回ってくれる、頭の良い友人。
そして、そう。
手を繋いでくれる大切な友人も居た。
だからだろうか。
オレは夜が好きだ。今だってふと、用もないのに外へと飛び出して、夜の散歩に興じている。
あぁ、良い夜だ。
あぁ、良い星だ。
あぁ、良い月だ。
そう、オレが夜空を見上げながら散歩をしていると、遠くにオレと同じように空を見上げる一人の男の人が居た。
オレは、彼を遠くに見ながら、とても、とても懐かしい気分になった。
知らない人だ。
けれど、とても懐かしい。
ふと、目が合った。
時が止まったように、オレはその人の目を見つめる。
あぁ、懐かしい、出会いだ。
俺は感じるままに微笑むと、彼の元へと歩を進めた。
———良い、夜ですね。
そう、また出会う為に。
【前世のない俺の、一度きりの人生】
本編 了