【うちの息子を知りませんか】
———本家にて。
ビロウ『おい!アンダー!どこ行ったー!帰るぞ!』
オブ『ペイス。まったくどこに行ったんだ』
ビロウ『アンダー!おいっ!怒るぞ!』
オブ『あの、うちのペイスを見ませんでしたか?』
ビロウ・オブ『……ん?』
ビロウ『……あ』
——-おとうさま、いんのところに
オブ『っは』
——-お父様、ましゅまろを、
ビロウ・オブ『あーーーーっ!!』
【子供はお腹いっぱいになると、眠くなる】
——–ましゅまろは、こうしてビスケットに、チョコレートと挟んでも美味しいよ!
——–ココアに入れても美味しいし!
アンダー『おなか、いっぱい』
ペイス『おれも』
イン『さて、寝るのはおうちに帰ってからだよ。二人共』
アンダー『いんと、ねる』
ペイス『ねむい』
イン『今日は帰らないと、またいつでも来ていいから』
アンダー『……』
イン『……立ったまま寝てる』
ペイス『……あんだーは、あかちゃんだから』
イン『あーあ。ペイスも体があったかくなってる』
ペイス『……』
イン『わかった。アンダー。よいしょっ。ほら、ペイスもおいで』
アンダー『(すぷすぷすぷ)』
ペイス『……あんた、二人もだっこできないでしょ。おれ、あるける』
イン『出来るよー。俺はこう見えてね、多分力だけなら君たちのお父さんよりも強いよ。元々田舎育ちだからね。ほーら』
ペイス『……む。ほんとうだ』
イン『でしょう?』
ペイス『おとうさまは、だっこして、くれない』
イン『だろうね。ほら、眠いんでしょ?寝てていいから』
ペイス『うん』
ペイス『(すぴすぴすぴ)』
イン『アンダーも、重くなったなぁ。ペイスも重いや』
——–イン、お前も重くなったなぁ。10歳だもんな!さすがにもう抱っこは無理だ!
イン『……ぐす、お父さん』
【ちょっと実家に帰ります】
通行人『ふふっ』
通行人『すごいわねぇ。二人も』
通行人『かわいい』
てこてこてこ。
イン『ふー、お屋敷はどこだったかな。行かないから、よくわかんないんだよなぁ』
ビロウ『インッ!』
オブ『インっ!』
イン『あ!おーい!二人共―!』
ビロウ『やっぱりお前の所だったか……ってか!お前二人もよく抱えられたな!』
オブ『イン。ペイスが悪かったね。ほら、ペイス。起きなさい』
イン『オブ、抱っこしてあげて』
オブ『え?』
イン『ビロウも。アンダーを抱っこしてあげて』
ビロウ『あ?』
イン『あのね、子供は抱っこして、成長が分かるから、出来るうちにしておかないと損だよ』
オブ『は、はい』
ビロウ『お、おう』
イン『あとね。忙しいのは分かるけど、適当に返事しないであげて。うちの店まで二人で来たけど、本当に危ないんだよ。あの辺って。変質者いっぱいなんだから。大人の俺だって何回も誘拐されそうになったんだから』
オブ・ビロウ『は!?』
イン『あと、二人が起きても叱らないでね。忙しくたって、二人が適当に返事したのに許可を得て、この子達は俺の所に来たんだから』
オブ『いや、それより誘拐って』
ビロウ『そうだ!まずはその話を詳しく……』
イン『あ、その前に最後に一つだけいい?ビロウ』
ビロウ『なんだ!?まずは誘拐の話を……!』
イン『俺、ちょっと実家に帰らせてもらっていい?』
ビロウ『っ!!!!!!!!』
イン『(二人を見てて、お父さんに会いたくなったなんて言えないよなぁ)ダメかな?約束破りになるから、無理なら……』
ビロウ『ごめんっ!すみませんっ!本当に謝ります!!勘弁してくださいっ!不満があるなら直す!いや、直します!だから、帰るなんて言うな!?まだアンダーも小さい!母親が居なくてどうするっ!アンダーがどれだけ悲しむと思う!?ていうか!俺が!どうなると思う!?』
イン『え?は、母親?』
オブ『……び、ビロウ。お前』
ペイス『ぅぅう』
アンダー『……ぅええええ』
イン『ビロウ!ちょっと!落ち着いて!皆見てる!?アンダーも起きて泣いちゃってる!』
ビロウ『何でもする!だからっ』
———考え直してくれっ!
その後、しばらく公衆の面前で喚く貴族と、その貴族に縋られ、慌てる平民の男。それに対し、泣喚く子供の声が、しばらく大通りに響き渡った。
——-一言——–
はいじ「ビロウ。壊れる。その後、落ち着いて事情を飲み込ませるのに、酷く時間がかかり、インの帰省計画は一旦頓挫する事となります」
【お爺ちゃんはアンダーが一番好き】
※注釈)
エアとは:ビロウのお父さん。ヨルの兄。四兄弟の3番目。子供の頃、ヨルのカナリヤにインクを付けたりして、ヨルを虐めていた。
現在
エア(47)
ビロウ(24)
アンダー(5)
—–本家の集まり。始まりの方。
エア『よう、ビロウ。上手くやれてるか』
ビロウ『父さん、まぁ。ハイ。程々に』
エア『おい、アンダーはどこだ』
ビロウ『あー。その辺に居るんじゃないですか』
エア『お前は……アンダーが可愛くないのか!?俺は孫の中でアンダーが一番可愛いと思っているぞ!』
ビロウ『…あ、ハイ。ありがとうございます(いつもコレ言うよな。親父)』
エア『顔はまるきりお前の子供の頃のままなのに、なんだ!あの擦れてない性格は!?お前と違って可愛い過ぎるだろうが!』
ビロウ『教育環境と家庭環境が良いからじゃないですか』
エア『……』
ビロウ『あと”親“でしょうね』
アンダー『おじい、さまー』
エア『アンダー!』
アンダー『おじい、さま(にこ)』
エア『かわいいなぁ、本当にアンダーはどうして、この父親で、こんなに可愛くなれたんだ?』
ビロウ『…』
アンダー『へへ』
エア『あぁ、コレだ!余計な事をべらべらお前のように喋らないのがまた可愛いんだ!』
ビロウ『俺のこの口調は、ほぼ父さんから受け継いでると言われていますが?』
エア『そうなんだよ。大体、男の子っつーのは、本人が嫌がっても最終的に父親を模してくるからな。アンダーがお前のようにならないか、俺は心配でならん』
ビロウ『なりませんよ』
エア『だといいが』
アンダー『(にこ)』
——–一言——-
はいじ「エアの心配を他所に、アンダーはずっと可愛いままなのでした。インと同様、あまり余計な事を言わないところが、アンダーの可愛さの一端なのでしょう。というか。こう、小さい子って、小動物的な可愛さがありますよね」
【ビロウの知らないイン】
——インの酒場の前。
~♪
ビロウ『ん?』
オブ『やっぱりインの歌は、いつ聞いても素晴らしいね』
他の客『どこでそんな歌を覚えたんですか』
他の客『舞台には立たないの?』
イン『舞台なんてそんな!お父さんに習っただけだし、あんまり大勢の前でなんて歌えないよ!』
オブ『まぁ、確かにスルーさんの歌とダンスは凄かったもんね』
他の客『マスターのお父さんかぁ。見てみたいな』
他の客『オブさんは知ってるの?見た事がある?』
オブ『まぁ……インに顔だけは、ほんと、顔だけは!ソックリだったかな』
イン『俺はお父さん似って言われてたからね。あぁ、俺も久しぶりに会いたくなってきたなぁ、お父さんに。生きてるといいけど』
オブ『さすがに生きてるよ』
イン『そうなの?』
オブ『あの村……いや、もう街か。あそこも大分環境が良くなったからね。普通に元気みたいだよ』
イン『良かったー!嬉しいから、もう一曲歌いまーす!』
他の客『待ってましたー!』
他の客『リクエストしてもいいの?』
イン『知ってる曲ならどうぞー!』
他の客『じゃあ、じゃあ』
他の客『ズルイな!俺も!』
他の客『俺も!』
オブ『もちろん、俺が一番最初だろう』
イン『じゃあ、順番に聞きます!』
~~♪♪
ビロウ『は?』
——閉店後
ビロウ『おい、イン。イン!』
イン『は、はい!』
ビロウ『はい、じゃねぇだろ』
イン『う、うん(どうしたのかな?ビロウ。機嫌が悪いみたい)』
ビロウ『っち!お前……歌なんて歌うのか?』
イン『あっ!きっ聞いてたの!?ごめん、いつだろ…気付かなかった!(だから、こんなに機嫌が悪いんだ!)』
ビロウ『あ?なんで謝る?お前は別に謝るような事はしてねぇだろ』
イン『えっと。だって、ビロウ。俺が歌うの嫌いでしょ?ごめん、今度から気を付けるね』
ビロウ『はぁ!?誰がそんな事言ったよ!?まさか、オブか!?』
イン『え?いや、ビロウだよ?ほら、昔、まだ村のお屋敷にいた頃……』
—–♪
—–下手くそな歌うたってる暇があったら、勉強しろ!学べ!耳障りだ!
ビロウ『……っく。また、俺か(そう言えば……そんな事言ったな)』
イン『お店で無意識に歌ってたら、皆が上手って褒めてくれるもんだからさ。嬉しくて歌ってたんだけど、ビロウが言うなら止めるね。“みみざわり”だといけないから』(悪気なし)
ビロウ『万が一…俺がそう言っても止めなくていい。っはぁ。悪かった。イン、俺の前でも歌ってくれ』
イン『え、でも』
ビロウ『う、た、え!』
イン『はい!』
——-一言——-
はいじ「こうして、ペット気質の抜けないインが現存し続けるのでした」