12:ビロウ×インシリーズ(下)

【うちの息子を知りませんか】

———本家にて。

 

 

ビロウ『おい!アンダー!どこ行ったー!帰るぞ!』

オブ『ペイス。まったくどこに行ったんだ』

 

ビロウ『アンダー!おいっ!怒るぞ!』

オブ『あの、うちのペイスを見ませんでしたか?』

 

ビロウ・オブ『……ん?』

 

ビロウ『……あ』

——-おとうさま、いんのところに

 

オブ『っは』

——-お父様、ましゅまろを、

 

 

ビロウ・オブ『あーーーーっ!!』

 

 

 

【子供はお腹いっぱいになると、眠くなる】

——–ましゅまろは、こうしてビスケットに、チョコレートと挟んでも美味しいよ!

——–ココアに入れても美味しいし!

 

アンダー『おなか、いっぱい』

ペイス『おれも』

 

 

イン『さて、寝るのはおうちに帰ってからだよ。二人共』

アンダー『いんと、ねる』

ペイス『ねむい』

イン『今日は帰らないと、またいつでも来ていいから』

 

 

アンダー『……』

イン『……立ったまま寝てる』

ペイス『……あんだーは、あかちゃんだから』

イン『あーあ。ペイスも体があったかくなってる』

ペイス『……』

 

 

イン『わかった。アンダー。よいしょっ。ほら、ペイスもおいで』

アンダー『(すぷすぷすぷ)』

ペイス『……あんた、二人もだっこできないでしょ。おれ、あるける』

イン『出来るよー。俺はこう見えてね、多分力だけなら君たちのお父さんよりも強いよ。元々田舎育ちだからね。ほーら』

 

 

ペイス『……む。ほんとうだ』

イン『でしょう?』

ペイス『おとうさまは、だっこして、くれない』

イン『だろうね。ほら、眠いんでしょ?寝てていいから』

ペイス『うん』

ペイス『(すぴすぴすぴ)』

 

イン『アンダーも、重くなったなぁ。ペイスも重いや』

 

 

——–イン、お前も重くなったなぁ。10歳だもんな!さすがにもう抱っこは無理だ!

 

 

イン『……ぐす、お父さん』

 

 

【ちょっと実家に帰ります】

通行人『ふふっ』

通行人『すごいわねぇ。二人も』

通行人『かわいい』

 

 

てこてこてこ。

 

イン『ふー、お屋敷はどこだったかな。行かないから、よくわかんないんだよなぁ』

 

 

ビロウ『インッ!』

オブ『インっ!』

 

 

イン『あ!おーい!二人共―!』

 

ビロウ『やっぱりお前の所だったか……ってか!お前二人もよく抱えられたな!』

オブ『イン。ペイスが悪かったね。ほら、ペイス。起きなさい』

 

イン『オブ、抱っこしてあげて』

オブ『え?』

イン『ビロウも。アンダーを抱っこしてあげて』

ビロウ『あ?』

 

イン『あのね、子供は抱っこして、成長が分かるから、出来るうちにしておかないと損だよ』

オブ『は、はい』

ビロウ『お、おう』

イン『あとね。忙しいのは分かるけど、適当に返事しないであげて。うちの店まで二人で来たけど、本当に危ないんだよ。あの辺って。変質者いっぱいなんだから。大人の俺だって何回も誘拐されそうになったんだから』

 

オブ・ビロウ『は!?』

 

イン『あと、二人が起きても叱らないでね。忙しくたって、二人が適当に返事したのに許可を得て、この子達は俺の所に来たんだから』

 

オブ『いや、それより誘拐って』

ビロウ『そうだ!まずはその話を詳しく……』

 

イン『あ、その前に最後に一つだけいい?ビロウ』

ビロウ『なんだ!?まずは誘拐の話を……!』

イン『俺、ちょっと実家に帰らせてもらっていい?』

 

ビロウ『っ!!!!!!!!』

 

イン『(二人を見てて、お父さんに会いたくなったなんて言えないよなぁ)ダメかな?約束破りになるから、無理なら……』

 

ビロウ『ごめんっ!すみませんっ!本当に謝ります!!勘弁してくださいっ!不満があるなら直す!いや、直します!だから、帰るなんて言うな!?まだアンダーも小さい!母親が居なくてどうするっ!アンダーがどれだけ悲しむと思う!?ていうか!俺が!どうなると思う!?』

イン『え?は、母親?』

 

オブ『……び、ビロウ。お前』

ペイス『ぅぅう』

アンダー『……ぅええええ』

 

イン『ビロウ!ちょっと!落ち着いて!皆見てる!?アンダーも起きて泣いちゃってる!』

ビロウ『何でもする!だからっ』

 

———考え直してくれっ!

 

その後、しばらく公衆の面前で喚く貴族と、その貴族に縋られ、慌てる平民の男。それに対し、泣喚く子供の声が、しばらく大通りに響き渡った。

 

 

——-一言——–

はいじ「ビロウ。壊れる。その後、落ち着いて事情を飲み込ませるのに、酷く時間がかかり、インの帰省計画は一旦頓挫する事となります」

 

 

 

 

 

 

【お爺ちゃんはアンダーが一番好き】

※注釈)

エアとは:ビロウのお父さん。ヨルの兄。四兄弟の3番目。子供の頃、ヨルのカナリヤにインクを付けたりして、ヨルを虐めていた。

 

現在

エア(47)

ビロウ(24)

アンダー(5)

 

—–本家の集まり。始まりの方。

 

エア『よう、ビロウ。上手くやれてるか』

ビロウ『父さん、まぁ。ハイ。程々に』

エア『おい、アンダーはどこだ』

ビロウ『あー。その辺に居るんじゃないですか』

エア『お前は……アンダーが可愛くないのか!?俺は孫の中でアンダーが一番可愛いと思っているぞ!』

 

 

ビロウ『…あ、ハイ。ありがとうございます(いつもコレ言うよな。親父)』

エア『顔はまるきりお前の子供の頃のままなのに、なんだ!あの擦れてない性格は!?お前と違って可愛い過ぎるだろうが!』

ビロウ『教育環境と家庭環境が良いからじゃないですか』

エア『……』

ビロウ『あと”親“でしょうね』

 

 

アンダー『おじい、さまー』

エア『アンダー!』

アンダー『おじい、さま(にこ)』

エア『かわいいなぁ、本当にアンダーはどうして、この父親で、こんなに可愛くなれたんだ?』

ビロウ『…』

アンダー『へへ』

エア『あぁ、コレだ!余計な事をべらべらお前のように喋らないのがまた可愛いんだ!』

 

 

ビロウ『俺のこの口調は、ほぼ父さんから受け継いでると言われていますが?』

エア『そうなんだよ。大体、男の子っつーのは、本人が嫌がっても最終的に父親を模してくるからな。アンダーがお前のようにならないか、俺は心配でならん』

ビロウ『なりませんよ』

エア『だといいが』

アンダー『(にこ)』

 

 

——–一言——-

はいじ「エアの心配を他所に、アンダーはずっと可愛いままなのでした。インと同様、あまり余計な事を言わないところが、アンダーの可愛さの一端なのでしょう。というか。こう、小さい子って、小動物的な可愛さがありますよね」

 

 

【ビロウの知らないイン】

——インの酒場の前。

~♪

 

ビロウ『ん?』

 

オブ『やっぱりインの歌は、いつ聞いても素晴らしいね』

他の客『どこでそんな歌を覚えたんですか』

他の客『舞台には立たないの?』

 

イン『舞台なんてそんな!お父さんに習っただけだし、あんまり大勢の前でなんて歌えないよ!』

オブ『まぁ、確かにスルーさんの歌とダンスは凄かったもんね』

 

他の客『マスターのお父さんかぁ。見てみたいな』

他の客『オブさんは知ってるの?見た事がある?』

オブ『まぁ……インに顔だけは、ほんと、顔だけは!ソックリだったかな』

イン『俺はお父さん似って言われてたからね。あぁ、俺も久しぶりに会いたくなってきたなぁ、お父さんに。生きてるといいけど』

 

オブ『さすがに生きてるよ』

イン『そうなの?』

オブ『あの村……いや、もう街か。あそこも大分環境が良くなったからね。普通に元気みたいだよ』

イン『良かったー!嬉しいから、もう一曲歌いまーす!』

 

他の客『待ってましたー!』

他の客『リクエストしてもいいの?』

 

イン『知ってる曲ならどうぞー!』

他の客『じゃあ、じゃあ』

他の客『ズルイな!俺も!』

他の客『俺も!』

オブ『もちろん、俺が一番最初だろう』

 

イン『じゃあ、順番に聞きます!』

 

 

~~♪♪

 

 

ビロウ『は?』

 

——閉店後

 

ビロウ『おい、イン。イン!』

イン『は、はい!』

ビロウ『はい、じゃねぇだろ』

イン『う、うん(どうしたのかな?ビロウ。機嫌が悪いみたい)』

 

ビロウ『っち!お前……歌なんて歌うのか?』

イン『あっ!きっ聞いてたの!?ごめん、いつだろ…気付かなかった!(だから、こんなに機嫌が悪いんだ!)』

ビロウ『あ?なんで謝る?お前は別に謝るような事はしてねぇだろ』

 

 

イン『えっと。だって、ビロウ。俺が歌うの嫌いでしょ?ごめん、今度から気を付けるね』

ビロウ『はぁ!?誰がそんな事言ったよ!?まさか、オブか!?』

イン『え?いや、ビロウだよ?ほら、昔、まだ村のお屋敷にいた頃……』

 

—–♪

—–下手くそな歌うたってる暇があったら、勉強しろ!学べ!耳障りだ!

 

 

ビロウ『……っく。また、俺か(そう言えば……そんな事言ったな)』

 

イン『お店で無意識に歌ってたら、皆が上手って褒めてくれるもんだからさ。嬉しくて歌ってたんだけど、ビロウが言うなら止めるね。“みみざわり”だといけないから』(悪気なし)

 

ビロウ『万が一…俺がそう言っても止めなくていい。っはぁ。悪かった。イン、俺の前でも歌ってくれ』

イン『え、でも』

ビロウ『う、た、え!』

イン『はい!』

 

 

——-一言——-

はいじ「こうして、ペット気質の抜けないインが現存し続けるのでした」