14:ふりんのキューピッド②

【インとレスの十月十日】

 

~妹に似てる~

イン『レスさんって、本当にうちの妹に似てる』

レス『あんまり言うから気になるわね。今度連れてきなさいよ』

イン『もう、何年も連絡とってないからなぁ』

レス『じゃあ、私に似てるかなんて分からないじゃない』

イン『似てるよ!可愛いからね!』

レス『……そ。(この人にとって可愛い女は全部、妹なのね)』

 

 

 

~お腹触らせて~

イン『ねぇ、レスさん。お腹触らせて』

レス『貴方ね。最初も思ったのだけれど、身分云々の前に、男の貴方が、女性の体に簡単に触れようとしないのよ.

お腹なんて、とんでもないわ』

バット『そうだよ、マスター。レスは俺のなんだから』

レス『……もう、バットったら』

イン『……』

 

 

イン『……みのほどは、明日からわきまえるからぁ』

レス『身の程を弁えるって言葉がここまで軽い人もそう居ないわね』

 

 

 

~お腹触らせて!!!~

イン『横から見るともう完全に赤ちゃんのお腹だねー!』

レス『……重いわ。好きなドレスも着れないし。サイアク』

バット『そのドレスも似合うよ。レス』

レス『……ふふ。ありがとう。バット』

 

 

イン『……』

レス『あぁ、もう。いいわよ。触ってもいいわよ』

イン『わーーーーい!』

レス『そ、そんなに喜ぶ?』

バット『マスターって本当に子供が好きなんだね』

 

 

イン『うん!子供はみんな可愛いからね!よしよし。かわいい、かわいい。もう、お腹が可愛い!』

レス『(お腹が可愛い……?)なんだか。貴方が父親みたいね……』

バット『っレス!?』

レス『いや、ないわ。どちらかと言うと……そうね。母親みたいよ』

 

 

イン『母親!?いいの!?俺!この子育てたい!』

レス『子供が苦手だから、私は別に構わないけど。無理よ。貴族の子だもの』

イン『……だよねぇ。俺が育てたいなー。もう、俺が産みたいよ』

バット『マスターって本当、たまに。いや、いつも凄い事言うね』

 

 

~子供苦手なの?~

イン『レスさんは子供が苦手なの?』

レス『苦手よ。何考えてるのか分からないし、すぐ泣くし。どう接していいのかわからないわ』

バット『レスは確かにそうかもね。子供の頃。転んで泣いてる子供に、金貨を渡して泣き止ませようとしてたし』

レス『バット!?もう、やめてよ!昔の話は!恥ずかしい……』

 

 

イン『ふふっ、変なの。俺は赤ちゃんじゃなくても、皆、何考えてるのか分からないからなぁ。全員分からないから、赤ちゃんも、子供も、大人も一緒だよ!あはは!』

レス『……急に的を射た事言わないでよ』

 

 

~怖いの?怖いよね?怖いー!~

イン『お腹パンパンだ!』

レス『も、もういつ生まれても、おかしくないそうよ』

バット『とうとうここまで大きくなったね』

 

 

レス『こ、怖いわ。だって、皆物凄く痛かったって言うのよ!?わ、私、死ぬんじゃないかしら……』

バット『だ、大丈夫だよ。絶対に!きっと!』

イン『お母さん、俺達を産んだ時……男はズルいって言ったらしい。種出すだけで、痛いのは全部私達女なんだからって……死ぬ程痛かったって』

 

 

バット『種って……そんな下品な』

レス『その通りよ!!!その通り!なんで!?なんで男はあんな一瞬で終わるのに、私達はこんなにお腹が重かったり、苦しかったり、死ぬ思いをしなきゃならないの!?不公平よ!』

イン『本当に不公平だと思う』

 

 

レス『こわいこわいこわいこわ!こわいぃぃ!もういや!』

バット『あー、よしよし。レス。君なら大丈夫だよ』

 

 

レス『いやいやいやいや!お屋敷じゃ、こんなのも言わせてもらえないっ!好きで妊娠した訳でもないのに!お役目だから当たり前って顔で、皆が私を見るの!立派にお役目を果たしなさいって!」

イン「そんな……」

 

レス「それに、一番腹が立つのはアイツよ!!アイツのせいで妊娠したのに、最近じゃ、物凄く一人だけ機嫌良いし!私が嫌味言っても何も反応しないのよ!お前の子供なんだから!お前が私と代われ!お前が産め!もう、誰か代わってよーー!もういやーーー!こわいーーー!』

 

バット『レスが壊れた』

イン『かわいそう……女の人ってかわいそう……かわいそう!変わってあげたい!変わってあげたいよーーー!』

レス『ますたー!がわっでーー!』

イン『わがったー!』

 

 

バット『二人共、壊れた』

 

 

——-一言——-

はいじ「イン、レスの出産に本気で怯え始める。そして、この二人の逢瀬はだいたい週1くらいの頻度です。レスも大分インに慣れ、インを男認識から外しています。こうして、しゃべっている場面を抜粋してお送りしておりますが、インもちゃんと気を遣って、すぐに買い物に出かけて二人きりにしてあげています」

 

 

 

【ビロウの子。生まれる直前】

(ビロウ編の加筆版です)

 

イン『春だね!ビロウの赤ちゃんがもうすぐ来る頃だ!ふふ。楽しみだなぁ!』

ビロウ『そんな楽しみなモンかね』

イン『楽しみだよ!春生まれは、あったかさを連れてくるから、幸福で温かい子になるって、村ではみんな言ってたよ!』

ビロウ『へぇ……』

 

 

ビロウ『じゃあ、イン。お前はいつ生まれなんだ』

イン『俺?俺は春生まれだよ!』

ビロウ『へぇ…春(春で良かったかもな)』

イン『ビロウはいつ生まれ?』

ビロウ『夏』

イン『夏は一番生き物が元気な時だよ!だからビロウはいつも元気なんだね!』

ビロウ『それは一体ナニの話をされてるのやら』

 

 

イン『でも、赤ちゃんを産む女の人は大変だよ』

ビロウ『あ?女なら皆やってんだろ。普通の事だ』

イン『皆やってるけど、たまに死んじゃう人も居るし』

ビロウ『お前の居た村と違って、こっちには医者が居る』

 

 

イン『死ななくても、死ぬ程痛いってお母さんが言ってたし……』

ビロウ『そりゃあもう、耐えてもらうしかねぇな』

イン『こ、こわいよぉ』

ビロウ『なんで、お前がそんなにビビッてんだよ』

 

 

イン『男はズルいや。種を出すのは一瞬で。それで終わりなんだから』

ビロウ『は?』

イン『女の人は、体も重くて、体調もおかしくなって、産む時は死ぬ程痛い。不公平だよ』

ビロウ『……お前』

 

 

イン『(レスさん、大丈夫かなぁ)』

ビロウ『(あれ?子供って……コイツが産むんだったか?)』

 

 

——–一言——-

はいじ『ビロウ、インの言動もあり。ちゃんと段階を踏んで狂っていってます』

 

 

 

 

【アンダー誕生!!】

イン(20)・ビロウ(19)

バット(20)・レス(19)

 

 

 

バンッ!

 

バット『今朝!レスが無事に赤ん坊を産んだよ!マスター!』

イン『っ!!!……れ、レスさんは?元気?』

バット『元気みたい。しばらくは会えないけど、また動けるようになったら……レスとここに来るよ』

イン『よかったぁぁぁぁ!!もちろん!おいで、おいで!』

 

 

バット『でも……とうとう、レスはお母さんか』

イン『バット君?』

バット『レス。もしかして子供の事、凄く可愛がって……あの貴族の旦那とも、仲良くなったりしたら。俺はもう、いらないよな』

 

 

イン『バット君。レスさんは……あんなに不安がってたんだ。赤ちゃんを産んだからって、皆がすぐにお母さんになれる訳じゃない』

バット『っ!』

イン『寂しくないように、どうにか。傍に居るよって伝えられたらいいね。会えないと……物凄く不安になるから』

 

 

バット『俺、自分の事しか考えてなかった。マスター!ありがとう!ごめん!レスに渡せるか分からないけど、手紙だけでも毎日書くよ!』

イン『そうして。きっと嬉しいよ』

バット『じゃあ、マスター早速書いてくる!』

イン『うん。またね』

 

 

イン『……そういえば、俺。全然寂しくなくなったなぁ』

———ビロウ、今日は来てくれるかなぁ。

 

 

 

【誰の子】

(ビロウ編の小説版の会話verです)

 

 

ビロウ『おい、イン。居るか?』

イン『あっ!ビロウだ!今日も来てくれ……あーっ!!』

ビロウ『(あぁ、やっぱりだ)』

——–インが一番喜ぶ。

 

イン『っうわぁぁ!!赤ちゃんだ!ビロウ!この子がビロウの子供!?』

ビロウ『あぁ、そうだ(そして、母親は―)』

イン『あぁっ、ごめんね。うるさかったね。泣かないでー!でも、良かったぁ!おめでとう!』

ビロウ『……あぁ』

 

 

イン『ビロウも、これでお父さんだ!本当に、かわいいねぇ!だっこさせて!』

ビロウ『……』

イン『かわいいねぇ。生まれて来てくれて、ありがとう』

ビロウ『(母親は、お前だ。イン)』

——–この子は、俺とお前の子だ。

 

 

——–一言——-

はいじ「はい。ちゃんと、狂い済みました」

 

 

 

【レス、復活】

レス『マスター!お久しぶりー!』

イン『レスさーん!お疲れ様―!大変だったね!頑張ったねー!』

バット『(にこにこ)レス、ずっとマスターに会いたがってたんだよ』

イン『俺も会いたかったよー!』

 

 

レス『だって!あの屋敷の人達、みんな私が死ぬ程頑張ったのに“当たり前のことです”って顔で見てくるのよ?誰も褒めてくれないの!』

イン『あぁぁぁ、それは辛い。お母さん言ってたよ。何が辛いって、ずーっと痛いのが一番辛いって。何時間も、何時間も……いつ終わるかも分からなくて。痛いのは自分だけだから、孤独だったって。よくそんなの耐えたね。凄いよ、偉いよ!よしよし。女の人ってすごいねぇ』

 

 

レス『これよ!これが欲しかったの!これが……』

バット『レス、よしよし。良かったね。マスターに褒めてもらえて』

レス『あなたからの手紙も嬉しかったわ』

バット『……レス』

 

 

イン『じゃあ、俺は買い物に行ってくるね(二人きりにさせてあげないと)』

レス『待って!!マスター!今日はここに居て!私の話を聞いて!もっと私を褒めて!!』

イン『……いいの?』

バット『レスが言ってる事だからね。マスターここに居てあげて』

 

 

イン『じゃあ!久しぶりだから、色々と話を聞かせて!』

レス『いいわ!聞いて!赤ちゃんを産んだ時ね、私死ぬかと思ったわ!あぁ、もう私このままこの子供に殺される!って思ったの!その位、痛いの!ずっとずっと痛いの!でも痛いより辛い事があるの!』

イン『(ごくり)な、なに?』

 

 

レス『誰も私を褒めないこと!それが、一番、いっちばん辛いの!報われないの!なにか物凄く……ものすごーく腹が立つの!アイツなんてね、私が死ぬ程疲れ果てた時に、心にもない“よくやったな”の一言よ?思ってない事は言わなくていいのよ!?腹立つわ!』

イン『うん、うん』

バット『(また、これ一から聞くのか。今日は本当に二人きりにはなれそうにないな。……まぁ、いっか)』

 

 

―小一時間後―

 

 

レス『はあっ。スッキリした。マスターに話すのが一番スッキリするわ……あれ?』

イン『ん?』

レス『マスター、貴方も子供が出来たの?』

イン『ううん。どうして?』

 

 

レス『だって、あそこに哺乳瓶が。あと、赤ちゃん用のよだれかけまで。あれ?何か色々あるけど!ちょっと!そう言うの言って!お祝いを用意しなきゃいけないわ!』

バット『本当だ……!俺、全然気づかなかった!』

レス『あなたって、いつもそう。あんまり周りを見てないのよねぇ』

バット『ぐぅ。申し訳ない』

 

 

イン『あっ!いや、俺の子じゃなくてね。俺の飼い主の人の子で……』

レス『あぁ、前言ってた人ね。私、いくらマスターが良い人って言っても。その飼い主って人、あまり好きになれないわ。根っからの貴族思考ね。人を“飼う”っていう、その腐りきった思考が、アイツを思い出して本当にムリ』

 

 

イン『ねぇ、レスさん。そんな事より。赤ちゃんは?みーたーいーなー』

レス『ごめんなさい。本当は見せてあげたいんだけど……私、だっこできないの』

イン『へ!』

レス『母親なのに不甲斐ないけど……でも、怖いの。ふにゃふにゃだし。すぐ泣くし。落としたら死んじゃうし』

イン『あはは』

レス『それに、よくアイツが連れ出してるから、屋敷に余り居ないのよ。意外にも子煩悩だったみたい』

 

 

イン『へぇ!良いお父さんだね!』

レス『夫としてはクズよ』

イン『はは』

 

 

レス『……そうね。でも、マスターには見せてあげたいから……あの子が、自分で歩けるようになったら、どうにか連れてくるわ』

バット『(一体、何年先の話なんだか)』

イン『うん!楽しみにしてるね!』

 

レス『あぁっ!それでね、マスター!コレも聞いて欲しいんだけど――』

 

 

続く!!

——–一言——-

はいじ「レス、自分の子供にお祝いを渡そうとする。レスとビロウ、そしてバットとインの再会は次回。思いの外、長すぎました」