【インとレスの十月十日】
~妹に似てる~
イン『レスさんって、本当にうちの妹に似てる』
レス『あんまり言うから気になるわね。今度連れてきなさいよ』
イン『もう、何年も連絡とってないからなぁ』
レス『じゃあ、私に似てるかなんて分からないじゃない』
イン『似てるよ!可愛いからね!』
レス『……そ。(この人にとって可愛い女は全部、妹なのね)』
~お腹触らせて~
イン『ねぇ、レスさん。お腹触らせて』
レス『貴方ね。最初も思ったのだけれど、身分云々の前に、男の貴方が、女性の体に簡単に触れようとしないのよ.
お腹なんて、とんでもないわ』
バット『そうだよ、マスター。レスは俺のなんだから』
レス『……もう、バットったら』
イン『……』
イン『……みのほどは、明日からわきまえるからぁ』
レス『身の程を弁えるって言葉がここまで軽い人もそう居ないわね』
~お腹触らせて!!!~
イン『横から見るともう完全に赤ちゃんのお腹だねー!』
レス『……重いわ。好きなドレスも着れないし。サイアク』
バット『そのドレスも似合うよ。レス』
レス『……ふふ。ありがとう。バット』
イン『……』
レス『あぁ、もう。いいわよ。触ってもいいわよ』
イン『わーーーーい!』
レス『そ、そんなに喜ぶ?』
バット『マスターって本当に子供が好きなんだね』
イン『うん!子供はみんな可愛いからね!よしよし。かわいい、かわいい。もう、お腹が可愛い!』
レス『(お腹が可愛い……?)なんだか。貴方が父親みたいね……』
バット『っレス!?』
レス『いや、ないわ。どちらかと言うと……そうね。母親みたいよ』
イン『母親!?いいの!?俺!この子育てたい!』
レス『子供が苦手だから、私は別に構わないけど。無理よ。貴族の子だもの』
イン『……だよねぇ。俺が育てたいなー。もう、俺が産みたいよ』
バット『マスターって本当、たまに。いや、いつも凄い事言うね』
~子供苦手なの?~
イン『レスさんは子供が苦手なの?』
レス『苦手よ。何考えてるのか分からないし、すぐ泣くし。どう接していいのかわからないわ』
バット『レスは確かにそうかもね。子供の頃。転んで泣いてる子供に、金貨を渡して泣き止ませようとしてたし』
レス『バット!?もう、やめてよ!昔の話は!恥ずかしい……』
イン『ふふっ、変なの。俺は赤ちゃんじゃなくても、皆、何考えてるのか分からないからなぁ。全員分からないから、赤ちゃんも、子供も、大人も一緒だよ!あはは!』
レス『……急に的を射た事言わないでよ』
~怖いの?怖いよね?怖いー!~
イン『お腹パンパンだ!』
レス『も、もういつ生まれても、おかしくないそうよ』
バット『とうとうここまで大きくなったね』
レス『こ、怖いわ。だって、皆物凄く痛かったって言うのよ!?わ、私、死ぬんじゃないかしら……』
バット『だ、大丈夫だよ。絶対に!きっと!』
イン『お母さん、俺達を産んだ時……男はズルいって言ったらしい。種出すだけで、痛いのは全部私達女なんだからって……死ぬ程痛かったって』
バット『種って……そんな下品な』
レス『その通りよ!!!その通り!なんで!?なんで男はあんな一瞬で終わるのに、私達はこんなにお腹が重かったり、苦しかったり、死ぬ思いをしなきゃならないの!?不公平よ!』
イン『本当に不公平だと思う』
レス『こわいこわいこわいこわ!こわいぃぃ!もういや!』
バット『あー、よしよし。レス。君なら大丈夫だよ』
レス『いやいやいやいや!お屋敷じゃ、こんなのも言わせてもらえないっ!好きで妊娠した訳でもないのに!お役目だから当たり前って顔で、皆が私を見るの!立派にお役目を果たしなさいって!」
イン「そんな……」
レス「それに、一番腹が立つのはアイツよ!!アイツのせいで妊娠したのに、最近じゃ、物凄く一人だけ機嫌良いし!私が嫌味言っても何も反応しないのよ!お前の子供なんだから!お前が私と代われ!お前が産め!もう、誰か代わってよーー!もういやーーー!こわいーーー!』
バット『レスが壊れた』
イン『かわいそう……女の人ってかわいそう……かわいそう!変わってあげたい!変わってあげたいよーーー!』
レス『ますたー!がわっでーー!』
イン『わがったー!』
バット『二人共、壊れた』
——-一言——-
はいじ「イン、レスの出産に本気で怯え始める。そして、この二人の逢瀬はだいたい週1くらいの頻度です。レスも大分インに慣れ、インを男認識から外しています。こうして、しゃべっている場面を抜粋してお送りしておりますが、インもちゃんと気を遣って、すぐに買い物に出かけて二人きりにしてあげています」
【ビロウの子。生まれる直前】
(ビロウ編の加筆版です)
イン『春だね!ビロウの赤ちゃんがもうすぐ来る頃だ!ふふ。楽しみだなぁ!』
ビロウ『そんな楽しみなモンかね』
イン『楽しみだよ!春生まれは、あったかさを連れてくるから、幸福で温かい子になるって、村ではみんな言ってたよ!』
ビロウ『へぇ……』
ビロウ『じゃあ、イン。お前はいつ生まれなんだ』
イン『俺?俺は春生まれだよ!』
ビロウ『へぇ…春(春で良かったかもな)』
イン『ビロウはいつ生まれ?』
ビロウ『夏』
イン『夏は一番生き物が元気な時だよ!だからビロウはいつも元気なんだね!』
ビロウ『それは一体ナニの話をされてるのやら』
イン『でも、赤ちゃんを産む女の人は大変だよ』
ビロウ『あ?女なら皆やってんだろ。普通の事だ』
イン『皆やってるけど、たまに死んじゃう人も居るし』
ビロウ『お前の居た村と違って、こっちには医者が居る』
イン『死ななくても、死ぬ程痛いってお母さんが言ってたし……』
ビロウ『そりゃあもう、耐えてもらうしかねぇな』
イン『こ、こわいよぉ』
ビロウ『なんで、お前がそんなにビビッてんだよ』
イン『男はズルいや。種を出すのは一瞬で。それで終わりなんだから』
ビロウ『は?』
イン『女の人は、体も重くて、体調もおかしくなって、産む時は死ぬ程痛い。不公平だよ』
ビロウ『……お前』
イン『(レスさん、大丈夫かなぁ)』
ビロウ『(あれ?子供って……コイツが産むんだったか?)』
——–一言——-
はいじ『ビロウ、インの言動もあり。ちゃんと段階を踏んで狂っていってます』
【アンダー誕生!!】
イン(20)・ビロウ(19)
バット(20)・レス(19)
バンッ!
バット『今朝!レスが無事に赤ん坊を産んだよ!マスター!』
イン『っ!!!……れ、レスさんは?元気?』
バット『元気みたい。しばらくは会えないけど、また動けるようになったら……レスとここに来るよ』
イン『よかったぁぁぁぁ!!もちろん!おいで、おいで!』
バット『でも……とうとう、レスはお母さんか』
イン『バット君?』
バット『レス。もしかして子供の事、凄く可愛がって……あの貴族の旦那とも、仲良くなったりしたら。俺はもう、いらないよな』
イン『バット君。レスさんは……あんなに不安がってたんだ。赤ちゃんを産んだからって、皆がすぐにお母さんになれる訳じゃない』
バット『っ!』
イン『寂しくないように、どうにか。傍に居るよって伝えられたらいいね。会えないと……物凄く不安になるから』
バット『俺、自分の事しか考えてなかった。マスター!ありがとう!ごめん!レスに渡せるか分からないけど、手紙だけでも毎日書くよ!』
イン『そうして。きっと嬉しいよ』
バット『じゃあ、マスター早速書いてくる!』
イン『うん。またね』
イン『……そういえば、俺。全然寂しくなくなったなぁ』
———ビロウ、今日は来てくれるかなぁ。
【誰の子】
(ビロウ編の小説版の会話verです)
ビロウ『おい、イン。居るか?』
イン『あっ!ビロウだ!今日も来てくれ……あーっ!!』
ビロウ『(あぁ、やっぱりだ)』
——–インが一番喜ぶ。
イン『っうわぁぁ!!赤ちゃんだ!ビロウ!この子がビロウの子供!?』
ビロウ『あぁ、そうだ(そして、母親は―)』
イン『あぁっ、ごめんね。うるさかったね。泣かないでー!でも、良かったぁ!おめでとう!』
ビロウ『……あぁ』
イン『ビロウも、これでお父さんだ!本当に、かわいいねぇ!だっこさせて!』
ビロウ『……』
イン『かわいいねぇ。生まれて来てくれて、ありがとう』
ビロウ『(母親は、お前だ。イン)』
——–この子は、俺とお前の子だ。
——–一言——-
はいじ「はい。ちゃんと、狂い済みました」
【レス、復活】
レス『マスター!お久しぶりー!』
イン『レスさーん!お疲れ様―!大変だったね!頑張ったねー!』
バット『(にこにこ)レス、ずっとマスターに会いたがってたんだよ』
イン『俺も会いたかったよー!』
レス『だって!あの屋敷の人達、みんな私が死ぬ程頑張ったのに“当たり前のことです”って顔で見てくるのよ?誰も褒めてくれないの!』
イン『あぁぁぁ、それは辛い。お母さん言ってたよ。何が辛いって、ずーっと痛いのが一番辛いって。何時間も、何時間も……いつ終わるかも分からなくて。痛いのは自分だけだから、孤独だったって。よくそんなの耐えたね。凄いよ、偉いよ!よしよし。女の人ってすごいねぇ』
レス『これよ!これが欲しかったの!これが……』
バット『レス、よしよし。良かったね。マスターに褒めてもらえて』
レス『あなたからの手紙も嬉しかったわ』
バット『……レス』
イン『じゃあ、俺は買い物に行ってくるね(二人きりにさせてあげないと)』
レス『待って!!マスター!今日はここに居て!私の話を聞いて!もっと私を褒めて!!』
イン『……いいの?』
バット『レスが言ってる事だからね。マスターここに居てあげて』
イン『じゃあ!久しぶりだから、色々と話を聞かせて!』
レス『いいわ!聞いて!赤ちゃんを産んだ時ね、私死ぬかと思ったわ!あぁ、もう私このままこの子供に殺される!って思ったの!その位、痛いの!ずっとずっと痛いの!でも痛いより辛い事があるの!』
イン『(ごくり)な、なに?』
レス『誰も私を褒めないこと!それが、一番、いっちばん辛いの!報われないの!なにか物凄く……ものすごーく腹が立つの!アイツなんてね、私が死ぬ程疲れ果てた時に、心にもない“よくやったな”の一言よ?思ってない事は言わなくていいのよ!?腹立つわ!』
イン『うん、うん』
バット『(また、これ一から聞くのか。今日は本当に二人きりにはなれそうにないな。……まぁ、いっか)』
―小一時間後―
レス『はあっ。スッキリした。マスターに話すのが一番スッキリするわ……あれ?』
イン『ん?』
レス『マスター、貴方も子供が出来たの?』
イン『ううん。どうして?』
レス『だって、あそこに哺乳瓶が。あと、赤ちゃん用のよだれかけまで。あれ?何か色々あるけど!ちょっと!そう言うの言って!お祝いを用意しなきゃいけないわ!』
バット『本当だ……!俺、全然気づかなかった!』
レス『あなたって、いつもそう。あんまり周りを見てないのよねぇ』
バット『ぐぅ。申し訳ない』
イン『あっ!いや、俺の子じゃなくてね。俺の飼い主の人の子で……』
レス『あぁ、前言ってた人ね。私、いくらマスターが良い人って言っても。その飼い主って人、あまり好きになれないわ。根っからの貴族思考ね。人を“飼う”っていう、その腐りきった思考が、アイツを思い出して本当にムリ』
イン『ねぇ、レスさん。そんな事より。赤ちゃんは?みーたーいーなー』
レス『ごめんなさい。本当は見せてあげたいんだけど……私、だっこできないの』
イン『へ!』
レス『母親なのに不甲斐ないけど……でも、怖いの。ふにゃふにゃだし。すぐ泣くし。落としたら死んじゃうし』
イン『あはは』
レス『それに、よくアイツが連れ出してるから、屋敷に余り居ないのよ。意外にも子煩悩だったみたい』
イン『へぇ!良いお父さんだね!』
レス『夫としてはクズよ』
イン『はは』
レス『……そうね。でも、マスターには見せてあげたいから……あの子が、自分で歩けるようになったら、どうにか連れてくるわ』
バット『(一体、何年先の話なんだか)』
イン『うん!楽しみにしてるね!』
レス『あぁっ!それでね、マスター!コレも聞いて欲しいんだけど――』
続く!!
——–一言——-
はいじ「レス、自分の子供にお祝いを渡そうとする。レスとビロウ、そしてバットとインの再会は次回。思いの外、長すぎました」