<アウトの同窓会>編
※今回から、会話形式ではなく小説形式に移行します。
——–前書き——–
こちらは【現代版】とも言える「ビロウシリーズ」です。
ウィズが仕事で2週間の出張に出てしまった、そんなアウトの2週間を追います。
この2週間、アウトはたまたま他の酒場で出会った、ウィズの双子の兄弟であるビハインド(前世:ビロウ)と共に過ごす事になるのですが、最終的にどうなるのか、私も分かりません!
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1:同窓会
「わぁっ!すっごいな!」
俺は目の前に広がるキラキラのホールと、長机にズラリと並んだ様々な種類の酒を前に目を輝かせた。
辺りを見渡せば、もう大方の出席者が集まっているのか、所狭しと懐かしい顔が窺える。どうやら、アボードは先に到着していたらしく、なんなら見渡した際に一番最初に目についた。
「目立つなぁ、アイツ」
思わずそう零れてしまう程に、アボードの周りは人で溢れかえっていた。男も女も。皆、アボードと少しでも話そうと集まってきている。
まるで学窓の頃をそのまま見ているようだ。ただ、その表情は、なかなか悟らせないようにはしているものの、既に疲労が滲んでいる。まぁ、分かるのは俺くらいなモノだろう。
「人気者も大変だなぁ」
俺は心底他人事として、その光景を流すと、此処に入る時に貰った歓待酒を手に、大量に並んだ酒の元へと走る。右を見ても酒、左を見ても酒。さすがは、ビハインドの経営するホールだ。「この世にある酒は全部集めてやったぜ!」と両手を広げているビハインドが浮かんでくるようだ。
あぁっ、なんて最高の眺めなんだろう!
「よ、アウト!最初に酒の所に行くって、さすがだな」
俺が並ぶ酒に目移りしていると、突然背中から声が掛けられた。懐かしい声だ。
「アンド!久しぶり!」
「久しぶり。最後に会ったのは秋口だったか」
振り返った俺の視線の先には学窓時代の友人の一人である、アンドが立っていた。アンドは既に歓待酒は飲み終えたようで、その手には別の酒があった。
「アンド、また身長が伸びたんじゃないか?」
「さすがに伸びねぇよ。お前が縮んだんじゃねぇの?」
「それはあり得る」
アンドは俺よりも遥か上にある頭をコテリと傾げさせながら、酒を持っていない方の手で俺の頭に手を置いた。どうやら、本当に俺が縮んだのではないかと訝しんでいるようだ。
「うーん、わかんねぇけど。もしかしたら縮んでるかもな」
そう言って置かれた左手は、俺の頭をすっぽり覆う程に大きい。それに、身長だけで言うなら、あのトウを遥かに凌駕している。
さすがは、球走戯の達士だ。こないだ見た情報誌でも、アンドは特集記事を組まれていたし、今は各国を遠征しながらの試合の真っ最中の筈だ。
「今日、アンドは来れないかと思ってた」
「久々に皆に会いたくなって、無理して帰って来たんだよ」
「そういや、他の二人は?」
「あっちで、お前の弟みたく掴まってる」
アンドの指し示す方を見てみれば、そこには俺の他二名の親友達がアボード同様に、たくさんの同窓生達に囲まれている姿があった。いやはや、さすがである。
「アンド。お前は捕まらなかったのか?」
「掴まってたさ。サインくれとか、描画撮らせてくれとか。めんどくせぇから、逃げて来たんだよ」
「さすが、盗球王。こないだはチームの功労者に選ばれてたし、お前って本当に凄いなぁ。ところで、その手に持ってる酒……どれ?」
「おお!コレコレ!この位で皆終わってくれりゃあいいのに」
「仕方ないよ。お前ら三人とも有名人だもん」
言いながら、俺は歓待酒をゴクリと一息で飲み干した。俺は先程からアンドの手の中にある酒が気になって仕方がないのだ。酒の中にピンクの果実が入っている。これは、アレだろうか。
そこの燕尾服の人に言えば作って貰えるのだろうか。
「コレ、ちょっと飲んでみるか?」
「いいのか!?味見させてくれ、美味しかったら貰ってこよ」
アンドから貰った酒を一口飲んでみる。色の持つ印象程、甘くない。見た目に反して、この中に入っている果実は柑橘系らしい。どうしようか。どうせならこの酒は、もう少し食事と酒を楽しんだ後に飲みたい。
「アウト。お前、今日の服、ちょっとお洒落じゃん」
「わかる?」
俺がアンドの酒を手にしたまま、さて2杯目はどうすべきか考えていると、アンドから嬉しい言葉が向けられた。
「今日は同窓会があるから、ちょっと頑張ってみた!」
「似合ってる。お前、普段からまったく服とか買わねぇから、今日は心配してたんだよ。この会場、ドレスコードがあんのに、ヨレヨレの背広で来やしねぇかって」
さすがアンドだ。完全にバレている。
俺の服へのこだわりのなさは、確かに学窓の頃から余り変わっていないのだ。けれど、昨日、ビハインドに釘を刺されたのだ。
———-言っとくが、その会場はドレスコードがあっからな。だっせぇ服で行くんじゃねぇぞ。
ちゃんと参加要項を読んでいなかったので、俺はこの時初めて、この同窓会がきちんとした式典の体を成している事を知った。ビハインドが言ってくれなければ、俺はアンドの言う通り、ヨレヨレの背広どころか、普段着でこの会場に乗り込んでいたに違いない。
———-ったく、どうせその顔じゃ、服なんて大したモンは用意出来てねぇだろうから、特別だ。こないだの服を貸してやる。
「そう、俺も知り合いに聞くまでは、家にあるやつで来ようと思ってたんだけど……まぁ、色々あって知り合いから借りたんだ!この服、格好良いだろ!服は、バカにされない為の、鎧、だからな!」
両手を広げてアンドに服を見せながら、俺はビハインドの言っていた格好良い言葉を口にする。メモして何度も見返していたから、ビハインドの格好良い言葉は全部覚えた!
「へぇ、今度は誰の受け売りだ?俺達の他に、格好良い友達でも見つけたんだろ?」
「そうだ!よく分かったな!」
「お前は昔っから、顔の良いヤツばっか引っかけるからな……俺含めて」
そう言って、片目を瞬かせるアンドの姿は、そりゃあもう女性の愛好者が見たらぶっ倒れそうなほど魅力的だった。さすがは、球走戯界で最も女性愛好者の多い選手一位に選ばれるだけの事はある。
「アウト。お前も着るモノさえちゃんとしとけば、彼女も出来るだろうし、結婚だって出来ると思うぜ?あんま、マナがねぇとか気にすんなよ。お前、良いヤツなんだからさ」
そう言って俺の肩を叩いてくるアンドに、俺は心がパァと明るくなるのを感じた。そうだ、そうだ!皆と会ったのは秋口だったから、まだウィズの事を言っていないではないか!むしろ、まだその頃はウィズにも出会っていない。
今日は、皆にも俺の恋人の事を、たくさん、たくさん紹介して自慢しなければ!
「アンド、聞いてくれ!俺、恋人が出来たんだ!」
そう叫んだ俺の言葉に、アンドの目が大きく見開かれた。そして、それと同時に俺の周囲が少しだけザワついた気がした。