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あの日から、ウィズの店に新しい常連客が増えた。
「邪魔をする」
そう言って店の戸を開けたのは、あの日、プラスに完膚なきまでに振られて灰になった、マヨナカ……ではなく、ライクだった。
「邪魔だ帰れ」
「いらっしゃいませー」
ウィズがすかさず放った嫌味と、俺の客を出迎える挨拶が同時にかぶる。すると、ウィズが勢いよく俺の方を睨みつけてくるものだからたまらない。
なんでウィズは、ここまでライクの事を目の敵にするのか、俺にはサッパリわからない。
ライクは、それこそ真夜中を模したような濃紺色の背広を整えながら、スルリとカウンターの、俺の立つ前へと腰かけた。つまり、それはウィズの隣だ。
「酒を」
そう、短く口にするライクに、ウィズが親の仇であるかのような目を向ける。おいおい、一体何がどうしてそんな態度になったんだよ。
つい先日、余りに酷い態度をとるので「何故だ」とウィズに尋ねてみた。すると、尋ねた事自体が、ウィズの怒髪天となってしまったようで、俺は何故かこれまでの様々な事を上げ連ねて説教をされた。
そのせいで、ウィズがライクを目の敵にする理由は未だに分からない。言葉って、むしろ多すぎると伝わらない事もあるらしい。
「今日、プラスは夜勤だから来ないぞ」
「別に、俺は酒を呑みに来ている」
「そっか」
どうやら、ライクは俺の言葉を受けてプラスへの恋心を諦めない事にしたらしい。その証拠に、あの店での一件の次の日から、ライクはどこで調べて来たのか、この店にやって来た。
今日と同じ「邪魔をする」と一言だけ告げて。その時のウィズの顔は、今でも忘れない。そして、何がなんだかわからないがウィズは俺にこう言ったのだ。
——–だからっ!あれほど止めろと言ったんだ!?
と。もう何が何だかわからない。
別にいいじゃないか。恋心を受け入れるか、それとも受け入れないかはプラスの自由意思であるように、諦めるか、諦めないかもライクの自由なのだから。
「じゃあ、何がいい」
「アウト。お前が選べ。俺をイメージして」
「……いつもライクは難しい注文をするなぁ」
ライクの注文は、いつも難しい。抽象的なのだ。酒の風味でも、酒の種類でもない。いつも先程のような、ライクの事に関する注文をする。
昨日は「今の俺の気分を表情から読み取って、合うと思うものをくれ」と言われた。難解だ。しかし、ライクはこの殆ど常連しか来ない酒場の貴重な金を落としてくれる客だ。
ちゃんと、その要望には答えなければならない。
その為、昨日の俺はライクの顔をまじまじと何度も何度も見つめ、これでもかという程観察し酒を作ったのだった。
「おい、お前。いい加減にしろよ」
「お前には関係ないだろう。俺は客だ」
「この店の店主は俺だ。客は選ぶ」
「アウトはいらっしゃいませと言った」
「っくそ」
いつものように言い争いを始めたウィズとライクに、俺はひとまずライクの顔をジッと見つめた。ふむ、本当に見れば見る程オブそっくりだ。他人なのに、どうしてこうも似れるのだろう。
「……よく観察して作れ」
「分かった」
「おいっ!アウト!……俺もだ!」
「えっ!?ウィズも?……困ったなぁ」
俺はこういうイメージを形にするような作業は苦手なのに。
ともかく、俺は今日も今日とて、失恋をバネにそれでも諦めない選択肢を選んだライクに、少しでも元気の出るような酒を選ぶのだった。
ウィズは……どうしよう。俺と同じ酒でいいか。
「おい、観察が足らんようだぞ。もっとしっかり見た方がいいのではないか?」
「……お前、いい加減にしろ。叩き出すぞ」
こうして、新たに増えた常連客と、何故かその客に完全なる敵意を向けるウィズとの三人の酒の時間は、今日もこうして更けていった。
ただ、その後。俺とウィズの酒が同じモノである事に、静かに腹を立てたライクが、更なる無理難題とも言える注文をしてくるのは……
まだ、数刻後の話である。
了
後書き
私、主人公が活躍するのが本当に好きなんですよね……。その性癖が最後にガツンと出ました。少年漫画とかでも主人公の活躍が少なくなると、読み方がそこそこ雑になるという……主人公厨の癖を急に持ちだしたラストでした~~!
そして、アウトとプラスの対関係もまた描けて良かったです。【代用品にする側・される側】
プラスのどうでも良い奴に対する向き合い方……やばいですね。
それでは、皆様読了お疲れさまでした!最後までお付き合い頂き、感謝です!