2:頭でっかち

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 俺は、昔からそりゃあもう理屈っぽいヤツだった。

 頭でっかちと言ってもいい。

 

 キャラの声を初めて己の中に偶像する時、ともかく俺はキャラに関する情報を、集めるだけ集めた。外堀を埋め、じわじわとそのキャラの芯まで到達する橋を架けるように。

 

 お手本も正解も示される事のない演技の世界での、それが、俺の“声”の掴み方だった。

 

 

——-え? サトシ! 何してんの? キャラ研究ノート⁉ スッゲェ! さすが、サトシ!え? オレ? オレはいつも何となく、こんなキャラかなって思ってやってるけど!

 

 

その辺が、さならが主人公然とした金弥との大きな違いで、成長するにつれ、そんな自分の性質を余り好まなくなった。

 

 けれど、そうは言っても、俺はコレしかやり方を知らない。だから、俺は形のない“声”を新しく、この世界に呼び起こす時、いつだって机の上に開いたノートに、腰を丸めて文字を書き殴るのだ。

 

『へぇ、クリプラントってエルフ国自体は、シリーズ一作目から登場するのか』

 

 イーサ役のオーディションを受けるように事務所から言われた時、俺はともかく、まだ情報の少ない製作段階のゲームの情報を得るべく、ゲーム雑誌を漁りまくった。

 

『って、今回の新作は初代の八百年後が舞台⁉ うわー! 時代背景的に……一作目くらいはプレイしとくか? 中古だと今は安いよな? ……でも、乙女ゲームかぁぁぁぁっ』

 

 ただ、速報が出て、解禁されている情報をかき集め、わかった事はそれだけ。

 

『……でも、』

 

 なにせキャラの一人もまだ公には提示されていないのだ。声優すらこれから決められていこうという段階なのだから、仕方ないと言えば仕方ないだろう。

 

『へぇ』

 

 唯一、解禁されている映像は、壮大なオーケストラ調のBGMに乗せられてながれる、美しいビジュアルボードと、人々が争いあう様子のみ。

 これは本当に恋愛シュミレーションの乙女ゲームか?

 

『なんか、スゲェ。……面白そうだな』

 

 ただ、それだけでファンが歓喜で沸いている事は、ネットの海から情報をかき集める中で、ハッキリと分かった。

 

『っし、買いに行くか!コレでオーディション受かったら……俺も、人気声優の仲間入りだ!』

 

 未来の事が分からないなら、過去から学ぶしかない。

 俺はシリーズの原点に立ち返り、課題として提示されている台本と照らし合わせながら、【セブンスナイト】を、居酒屋のバイトと事務所からの仕事の合間に必死にプレイした。

 

 そして、

 

『はぁぁぁっ』

 

 面白かった……!

 いや、ストーリー的には二作目が神ってた。最高。

 ただ、ゲームシステム的には三作目が好きだ。最高。

 

 ただし、やっぱり伝説の始まりは、やはり第一作目だ。

 

『神作品だった……!』

 

 ……と、完全にいつの間にか全シリーズを制覇してしまった俺は、最早セブンスナイトの事を知り尽くしてしまっていた。

というか、普通にファンになってしまっていた。

 

『まぁ、乙女ゲームっちゃ、乙女ゲームなんだけどな』

 

いや、乙女ゲームって事を度外視してもマジで面白かったんだって!

 さすがに誰にも言えやしねぇけどな⁉ 特に金弥にはぜってーバレないように、棚の奥の奥に隠してたし!

 

気持ち的に、エロゲの方がまだ手前に置ける!

 

 その中で、ファンタジー世界の構図として、エルフの大国“クリプラント”は、初代から必ず登場する国だった。なんなら前作でもある三作目は、クリプラントが舞台だった程だ。

 

 人間とは異なり、長命なエルフ達の住まう、マナに満ちた太古の歴史を持つ国。魔法を扱う種族の国で、その国の紋章は地味にお洒落なキャラグッズとして、何度となく売り出されていた。

 

 マナの原石たる鉱石をモチーフにしたソレは、シンプルなひし形の文様だ。上下を別けるように切り離されたソレは、上は知恵、下は勇気を示すらしい。いつの間にか、そんな事まで調べあげてしまった。

 

 そう、俺は頭でっかちなのだ。

 金弥みたいな、“なんとなく”でキャラの機微に気付ける感性なんて微塵もないから、情報で埋めてキャラに近づくより他ない。

 

ただただ、俺は必死だった。

 

『普通にお洒落なんだよな……この模様』

 

 キャラグッズとして身に着けていても、それがそういった類のモノだと分かるのはいわゆる“お仲間”だけだろう。

 

『……』

 

 いや、さすがに!さすがにグッズまでは買ってないからな!

……一回だけ、モチーフのガチャガチャをやっただけだから!

 

『と、誰も居ない一人の部屋で、仲本聡志は誰に言うでもない言い訳を、虚しく口にしたのだった』

 

 けれど、そんな語り部の俺の口元は、虚しさなんてモノとは全く別の表情を浮かべていた。なにせ、ちゃんと俺は欲しかったモノを手にしていたのだから。

 

『おっしゃれー!』

 

 

 エルフの大国。

 クリプラントの国章のキーホルダーを!

 

 

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