けーたろは、いつも俺の面倒を見てくれる。
あれも、これも、言わなくても分かってくれる。
オレの事なら、なーんでも分かってくれるんだ!
でも、それはオレだって同じ。オレだって、けーたろの事なら何でも分かるよ!
ねぇ、けーたろ。
どうして、そんなに不安そうな顔で、オレの事を見るの?
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幕間:気持ちは分かってるものの
(どうしていいのか分からなかった)
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「けーたろ!ダイジョーブ!?」
オレは、けーたろが心配で、ともかく走ってけーたろの居る事務室に走った。きっと、後で先生に怒られるんだろうなーって思ったけど、まぁ、怒られるのはいい。
慣れてるし。
今は、俺はけーたろに会いたかったんだ!
なのに――。
「イチロー君?静かにね?」
オレの目に映ったのは、まるで赤ちゃんみたいにドージさんに抱っこされて目を瞑るけーたろの姿だった。すぐ傍の机の上には、オレ達の作ったカレーの入ったお皿が、綺麗になって置いてある。
けーたろ、カレーは全部食べたんだ。良かった。
でも、一緒に食べたかった。
「敬太郎君ね。多分ずっと疲れてたんでしょうね。ご飯を食べたら、すぐ寝ちゃいました」
「疲れてた?」
「そう。敬太郎君ね。いつも皆の事を考えて行動してくれてるでしょう?」
「うん」
「だから、もう疲れちゃったんですよ」
疲れた?それって、もう嫌ってこと?
オレはドージさんの体にピッタリとくっついて目を瞑るけーたろの姿に、なんだか嫌な気持ちになるのを感じた。
これ、知ってる。
前、けーたろが一郎先生とばっかり仲良しだった時になった気持ちと同じだ。
「だから、イチロー君も、もう少しだけ敬太郎君のことを、見てあげて」
「見てるよ」
「うーん、そうじゃなくて。こう……疲れてないかなーとか。無理してないかなーとか」
「けーたろは、疲れてない。無理してない。オレと一緒だと楽しいって思ってる」
「へぇ」
「分かる。けーたろは、オレの事好きだもん。だから、」
俺はどーじさんのシャツを掴んで気持ちよさそうに目を瞑るけーたろの鼻を、ギュッと掴んでやった。
けーたろ!早く、目ぇ開けろ!今日は夜も寝ずに遊ぶって約束したじゃん!
「けーたろの事返して!けーたろとオレは、このあと、一緒に肝試しするんだから!」
「……んんぅっ」
「ちょっ、イチロー君?止めてあげて。敬太郎君は、肝試しには参加しないよ。怪我して疲れてるんだから。今日はここで休ませてあげよう?」
「するの!なんで、そんなのどーじさんが決めるの!?」
どーじさんの言葉に、オレはギュッと摘んでいたけーたろの鼻から思わず手を離した。離して、どーじさんの顔を見上げる。
そこには、笑顔なのに、少し怖い顔でオレの事を見てくる、どーじさんの顔がある。
でも、オレはどーじさんなんて怖くない。
だって、オレはもっと怖い人を知ってるんだから!
「あのね?こういうのうは、周りが察してあげなきゃ。だって言いにくいでしょう。そういう事を、これからはイチロー君も敬太郎君にしていってあげなきゃいけないよ。いつも敬太郎君にしてもらってたんでしょ?イチロー君も」
察する?何それ。
意味わかんない。オレだってけーたろの気持ちは分かってる。分かってても、オレはオレのしたい事をするんだ!だって、オレはけーたろが本当に嫌がる事はしないから!
俺はけーたろと肝試しがしたいし、夜もいっぱい遊んで一緒の部屋で寝たい。
明日の朝ごはんも一緒に食べて、帰りのバスの中でもずっと喋って帰るんだ。
「けーたろ!早く目ぇ開けろ!キャンプは明日で終わりなんだよ!?今やらなきゃ、全部出来ないんだ!」
「……」
けーたろだって、きっとそう!
無理してるんじゃない!やりたいからやってたんだ!
「けーたろ!寝たふりしてるのだって、最初っから知ってるんだぞ!バレバレだ!」
そんなオレの言葉に、けーたろの目が気まずそうに薄っすら開きかけた時だった。
「ホントですよ、童子さん。イチローの方がよく分かってんじゃないですか。こういうのは、察する察しないではなく、本人が決める事ですよ」
オレの後ろから、聞き慣れた先生の声がした。あぁ、良かった。これで、けーたろを取り返せる。
これが、オレがお母さんと同じくらい怖いって思ってる人!一郎先生だ!
「敬太郎。もうすぐ肝試しが始まる。行くだろ?ほら、起きろ」
先生は、ゆっくりと目を開けるけーたろに聞いた。でも絶対に行くよな?って聞き方。うん、それであってる。
だって、敬太郎だってキャンプを楽しみにしてたんだから。
「いやだ」
あれ?今の誰の声?
オレは目の前でパチリと目を開けた敬太郎が、まるで知らない人でも見るような目でオレと先生を見てくるのを目撃してしまった!