イーサへ
遺書を書くように言われて、最初に思い浮かんだのがイーサ、お前だ。
というか、お前以外誰も思い浮かばなかった。
だって、この世界で、こんなに俺と話してくれたのは(実際には喋ってはいないけど、まぁそう言う事じゃない。分かるよな?)イーサだけだったからだ。
ありがとう。
お陰で、こうして遺書を書く相手が出来た。
そんな訳で、迷惑かもしれないが、俺には他に、遺書を渡してまで何か言葉を遺したい相手が居ないので、ともかく、お前宛てにした。気持ち悪いなぁと思ったら、ノートごと捨てるか、このページだけ破り捨ててもらっても構わない。
イーサ。
その部屋の居心地は良いか?
暗くないか?
寒くないか?
苦しくないか?
まぁ、俺が死なずに戻って来たら、また色々なお話をお前にしてやれるから、気も紛れるだろう。
でも、もし俺が死んだら、もうお話はしてやれない。
そうなったら、イーサは悲しいか?
いや、まぁ。そうでもないのかな。
エルフの寿命は長いから、俺と一緒に過ごした時間なんて、ほんと瞬きと同じくらいの時間なのかもしれない。
人間の俺にはよく分からないけどさ。
でも、もし少でも俺が居ない事で、なんというか。そうだな。
そう、俺と関わってしまった事で、その部屋の中が、以前より少し暗かったり、寒かったり、暇だなと思う事が増えたり、苦しかったりしたら……それは「寂しい」って事だ。
一人が当たり前だった時には気付かなかった事に、“俺”のせいで気付いてしまったかもしれない。そうなったら、前よりその部屋の中に居る事に、安心感を覚えられなくなっているだろう。
それだけが、俺には心配だ。
だから、その「寂しい」を治す方法を、俺なりに考えてみたので、それも書いておく事にする。
もし、そんな気持ちになっていたらどうすればいいのか。
治す方法は一つだけだ。
イーサ、外へ出ろ。
怖いかもしれない、辛いかもしれない、嫌かもしれない。
でも、外に出ない限り、その暗かったり、寒かったり、苦しかったりするのは治らないと思う。
外に出たら、きっと俺みたいな奴がいるだろうから。
イーサ。
「仲間」を作れ。
大丈夫、作り方は簡単だ。
まず、相手の目を見て自己紹介をする。
次に、握手をする。
最後に、相手の名前を聞いて、笑ってやる。
相手が手を握り返してくれたら、きっと「仲間」になれるだろうから、そうやって少しずつイーサの仲間を増やして、楽しく過ごせ。
あと、あんまり我儘ばかり、言わないように。
俺から教えてやれるのは、それくらいだ。
俺と仲良くなれたんだ。きっと、イーサなら誰とでも仲良くなれる筈だ。そうしたら、きっと今よりは苦しい事も増えるだろうが、楽しい事も増える。
そうそう。また会えたら、俺もイーサの声を聴かせてくれると嬉しい。ちょっとお前の声には興味があるんだ。
まぁ。嫌なら、無理にとは言わない。
そんな軽いお願いだ。
そろそろページが無くなってきた。
遺書の締め方なんて分からないから、とりあえずここで終わらせとく事にする。
イーサ、手紙でも最後まで俺のお話を聴いてくれてありがとう。
仲本 聡志より。