59:仲本 聡志の遺書

 

 イーサへ

 

 

 遺書を書くように言われて、最初に思い浮かんだのがイーサ、お前だ。

 

というか、お前以外誰も思い浮かばなかった。

 

 だって、この世界で、こんなに俺と話してくれたのは(実際には喋ってはいないけど、まぁそう言う事じゃない。分かるよな?)イーサだけだったからだ。

 

 ありがとう。

 お陰で、こうして遺書を書く相手が出来た。

 

 そんな訳で、迷惑かもしれないが、俺には他に、遺書を渡してまで何か言葉を遺したい相手が居ないので、ともかく、お前宛てにした。気持ち悪いなぁと思ったら、ノートごと捨てるか、このページだけ破り捨ててもらっても構わない。

 

 

 イーサ。

 

 その部屋の居心地は良いか?

 暗くないか?

 寒くないか?

 

苦しくないか?

 

 まぁ、俺が死なずに戻って来たら、また色々なお話をお前にしてやれるから、気も紛れるだろう。

 でも、もし俺が死んだら、もうお話はしてやれない。

 

 そうなったら、イーサは悲しいか?

 いや、まぁ。そうでもないのかな。

 

 エルフの寿命は長いから、俺と一緒に過ごした時間なんて、ほんと瞬きと同じくらいの時間なのかもしれない。

 人間の俺にはよく分からないけどさ。

 

 でも、もし少でも俺が居ない事で、なんというか。そうだな。

 

 そう、俺と関わってしまった事で、その部屋の中が、以前より少し暗かったり、寒かったり、暇だなと思う事が増えたり、苦しかったりしたら……それは「寂しい」って事だ。

 

 一人が当たり前だった時には気付かなかった事に、“俺”のせいで気付いてしまったかもしれない。そうなったら、前よりその部屋の中に居る事に、安心感を覚えられなくなっているだろう。

 

 それだけが、俺には心配だ。

 だから、その「寂しい」を治す方法を、俺なりに考えてみたので、それも書いておく事にする。

 

 もし、そんな気持ちになっていたらどうすればいいのか。

 治す方法は一つだけだ。

 

 

 イーサ、外へ出ろ。

 怖いかもしれない、辛いかもしれない、嫌かもしれない。

 でも、外に出ない限り、その暗かったり、寒かったり、苦しかったりするのは治らないと思う。

 

 外に出たら、きっと俺みたいな奴がいるだろうから。

 

 イーサ。

 「仲間」を作れ。

 

 大丈夫、作り方は簡単だ。

 

 まず、相手の目を見て自己紹介をする。

 次に、握手をする。

 最後に、相手の名前を聞いて、笑ってやる。

 

 

 相手が手を握り返してくれたら、きっと「仲間」になれるだろうから、そうやって少しずつイーサの仲間を増やして、楽しく過ごせ。

 

 あと、あんまり我儘ばかり、言わないように。

 俺から教えてやれるのは、それくらいだ。

 

 俺と仲良くなれたんだ。きっと、イーサなら誰とでも仲良くなれる筈だ。そうしたら、きっと今よりは苦しい事も増えるだろうが、楽しい事も増える。

 

 そうそう。また会えたら、俺もイーサの声を聴かせてくれると嬉しい。ちょっとお前の声には興味があるんだ。

 

 まぁ。嫌なら、無理にとは言わない。

 そんな軽いお願いだ。

 

 そろそろページが無くなってきた。

 遺書の締め方なんて分からないから、とりあえずここで終わらせとく事にする。

 イーサ、手紙でも最後まで俺のお話を聴いてくれてありがとう。

 

 

 仲本 聡志より。