幕間12:クリアデータ7 04:25

 

 

「……終わった」

 

 

 栞はコントローラーを床に投げ捨てると、ベッドの上に上半身を投げ出していた。そして画面のついたまま放置されたテレビには【ここまでの物語を、セーブしますか?】の文字。

 

「良かった……もう、ちょっと。今回はもう絶対にダメだって思ったのに。ギリギリ……助かった」

 

 栞はベッドに預けた体を無理やり起こすと、投げ捨てたコントローラーへと手をかけた。ひとまずセーブだけでもして、一旦仮眠を取ろう。さすがにここまで小休止を間に少しは挟んできたとはいえ、もう限界だ。

 

 寝る。絶対に寝てやる。

 

「でも、良かった……。無事にクリア出来て」

 

 ナンス鉱山でのデスゲームクエスト。

 栞はそれを無事にクリアした。

 

 クリアまでの残り時間、僅か。しかし、その時間よりも早くテザーのHPは尽きようとしていた。回復魔法はエーイチに使ってしまい、もう使えない。

 そんな中で、栞が取った行動は、

 

「まぁ、イーサから外すなって言われてたネックレスを外す事にはなったけど……まぁ、あれは仕方ないわよ。あれ以外に方法はなかったし」

 

 栞は装備品である【イーサから貰ったネックレス】を外すと、意識の朦朧とするテザーへと装備させたのだ。

 するとどうだ。ネックレスの効果である「全状態異常無効」の効果が発揮され、テザーの毒効果は消え去り、HPの減少は止まった。

 それこそ、栞の予想通りの結果となった訳である。

 

「でも、テザー先輩にはバレちゃったわね。主人公が女だって」

 

 ネックレスを付けてやった時だろう。体をテザーに寄せてネックレスを装備させたスチルが画面に現れた際、テザーは言ったのだ。

 

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【テザー】

シオン……お前、まさか女か?それとも俺は、良い女に抱かれて死んだのか?

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「はぁぁぁっ!私、テザー先輩も攻略したいんだけどーー!」

 

 その後、テザーはすぐに気を失ってしまい、この出来事が今後ストーリーにどのように影響があるのかは分からない。夢として流す事になるのか、それともテザーには女だとバレた状態で進むのか。

 

「はぁっ、でも。ひとまずクエストクリア出来てよかった。セーブも終わったし……ひとまず、寝よ」

 

 そうやって、栞が【ゲームを続けますか?】という問いに対し、【いいえ】を選んだ時だった。

 真っ暗な画面と共に、突然イーサの声が響き渡ってきた。

 

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【イーサ】

シオリ、お前は俺との約束を破ったな?しかも、そのネックレスを他の男に渡した。

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「え?ナニコレ?」

 

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【イーサ】

お前は、俺のモノなのに!なんで!どうして!勝手に俺の部屋から飛び出し、勝手に危険な事をした!挙句にネックレスまで……!

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 イーサの声は低く、そして静かだった。しかし、ハッキリとその声には怒気が籠っている。

 

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【イーサ】

マティックには、お前を褒めるように言われた。けれど、俺には出来そうもない。お前は“あも”と同じように、俺の傍に居て、黙って俺の事だけを見てくれるんじゃなかったのか!?どうして、シオリは俺ではない男を見る!そんなの許さない!許せない!腹が立つ!

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「も、もしかしてコレは」

 

 そう、栞が真っ暗な画面をジッと見つめていると、突然その画面に、主人公がイーサによって押し倒されるという、最高にテンションの上がるスチルが映し出された。

 

「嫉妬イベントきたーーー!よっしゃ!よっしゃーー!」

 

 先程まで、テザーを攻略したいと言っていた口で、最早栞の目は画面のイーサしか映していなかった。

 

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【イーサ】

でも一番腹が立つのはっ……!約束を破ったお前を前にしているにも関わらず、嬉しいと感じてしまっている自分だ!俺は、俺が分からない!まるで俺が二人居るようだ!こんな気持ちは初めてだ!俺は一体どうしたらいい!

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 その表情ときたら、眉を歪め、唇を噛み締め、そして拳を握りしめる「完全に嫉妬に狂うオス」に成り下がったイーサの姿があった。

 

「はーーーーっ!寝る?ノンノンノン!上白垣栞!完全にドーパミンで目が冴えました!制作スタッフの方のご意向により、ゲームを続行致します!」

 

 栞は最高潮にテンションを爆上げしながら、今やベッドになど見向きもせず、目をガンガンに見開いて、ゲームを続行したのであった。