173:新しいマップが解禁しました!

 

 

 ここに来て、新しいマップが解禁されるなんて思ってもみなかった。

 

 

「へー、ここがゲットーかぁ。なんか、窮屈そうな街だな」

「え?サトシ、ちょっといい?」

「ん?」

 

 隣から聞こえてきた丸みを帯びた声に、俺は鞄を掛け直しながら顔を向けた。ヤバイ、少し荷物を減らしてくれば良かった。重い。

しかし隣には、俺よりも大きな荷物を平気そうな顔で背負うエーイチの姿があった。マジか。

 

「サトシってゲットーは初めて……なワケじゃないよね?」

「え?初めてだけど」

「え?」

 

 俺の返答に、エーイチが眉を顰める。何かおかしな事でも言っただろうか。俺が目を瞬かせてエーイチを眺めていると、今度は反対側から呆れたような声が聞こえてきた。

 

「お前、何を言っている」

 

 テザー先輩だ。

相変わらず、その全身から放たれる美しく洗練された出で立ちに、周囲を通り過ぎて行く人間達もチラチラと振り返って先輩を見ている。

 

「人間はどこで産まれても必ず戸籍登録の為に、一旦ゲットーに集中移住させられる。初めてなワケないだろう」

「へぇ」

「いや、へぇって……」

 知らなかった。クリプラントでは、人間は戸籍で全てを管理されるワケか。人間差別も甚だしいな。

……とは言ったものの、それって日本と同じじゃん。。

 

「サトシってさ、なんか掴み所ないよね」

「は?」

「謎が多いっていうか。馬鹿正直なようでいて、意外と色々隠してるし」

「いや、別に何も隠してるわけじゃねぇよ」

 

 本当に俺自身、何も分かってないだけだ。そもそも、この世界の人間でもないし

 とは、さすがに口に出せない。そんな事を言っても、エーイチを混乱させるだけだ。

 

「何言ってるの。イーサ王子と良い仲だって事も、隠してたじゃん」

「う……」

「他にも隠してる事、色々あるんじゃない?」

 

 エーイチは、その大きな目を少しだけ細め、探るような視線を向けてくる。エーイチのこの目は苦手だ。数秒見つめられただけで、心を読まれているような感覚に陥ってしまう。

 

「……ねぇよ」

 

 そう、やっとの事で吐き出した俺の答えに、返事をしたのはエーイチではなくテザー先輩だった。

 

「本当か?」

「テザー先輩まで……何も隠してないですってば」

「どうだかな。いつの間にか、王子と夜伽を行う仲にまでなっていたようだし」

「夜伽なんかしてませんってば!」

 

 両脇から向けられる、探りを入れるような視線に、俺は勢いよく首を横に振った。あぁ、もう!この話はこれで終わり!

 

「そんな事より!エイダだよ!エイダ!明日会うんだから、ちゃんと準備しねぇと!」

 

 そう、そもそも俺が二人とゲットーに来た目的はソコにある。“エイダ”というハーフエルフに会い、リーガラントの情報を得る事。

それこそが、俺というプレイヤーに与えられた役割であり、このセブンスナイト4の世界で、戦争を回避する為の鍵なのだ。

 

「ま、そうだね。今回はその任務が最優先だよ。報酬もたんまり貰ったし、頑張らないと」

「ヴィタリック王が亡くなって、まだ喪の明けきらぬうちから任務の呼び出しを受けた時は何事がと思ったが……まさか、リーガラントがそこまで迫っているとはな」

 

 そして、ゲットーへの派遣をカナニ様から命じられた時、俺の同行者として名を上げられたのが、この二人だった。どうやら、ナンス鉱山からの報告書で、俺と最も仲の良い二人を選抜してくれたらしい。

 

『エイダは基本、エルフには会おうとしない。アイツが直接会えるエルフは、ヴィタリックと私……あとは、人間だけだ』

 

 エイダはエルフには絶対に正体を明かさないらしい。まぁ、そりゃあそうだ。見つかれば極刑を言い渡してくる種族に、おいそれと自らの正体を明かせる筈もない。

 

『そこで、キミにエイダとの接触を図ってもらいたい』

 

 ヴィタリック王は、もうこの世に居ない。そして、政務から離れられないカナニ様を除けば、この任務に携われるのは“信用のおける人間”という事になる。

 

『サトシ。君はイーサ様にネックレスを渡されている。だから、君に行ってもらいたい』

 

 期待しているよ。

 と、マティックによく似た笑みを浮かべて肩を叩いてくるカナニ様に、俺はもう前のように手放しではしゃいだりはしなかった。

 だって、カナニ様は俺を信用しているからこの任務を任せてくれたワケではない。その位、俺にだって分かる。

 

『わかりました』

 

 俺にはネックレスという王、直々にかけられた手綱が付けられている。何かあったら、イーサが直接俺に手を下せるからこそ、俺はこの任務に選ばれたのだ。

 

 でも、それでいい。結果は同じ事だ。

 “俺”が選ばれたのには変わりない。

 

「エイダに会って、情報を出来るだけ聞き出せるようにする。そして、城まで付いて来てもらう」

 

 どうやら、エイダというのは大分偏屈な人物らしく、気に入らなければ何も教えてくれない可能性だってあるとの事なのだ。

 だから、エイダに会ったら、それなりに気を遣った対応が必要になるに違いない。なにせこれは、クリプラントの未来に関わってくるのだから。

 

 それは、引いてはイーサの未来に直結するという事になる。