番外編19:お前に傷を残していいのは俺だけだ!(初代×犬)
—再会して十年後くらい
魔王城に侵入してきた勇者に、犬が怪我を負わせられたよ!
初代「おい犬。なにあんな雑魚勇者に一発食らわせられてんだ。しっかりしろ」
犬「す、すみません。でも、初代様からすれば造作もない相手かもしれませんが、俺にとって彼は雑魚ではありません。強かったですよ?」
初代「はぁ?あれの?どこが?」
犬「(……機嫌悪い?)えっと、最初と比べると少しずつ、ちゃんと強くなっていましたよ」
初代「最初?」
犬「そうです。彼は最初は動きも鈍くて、俺の動きも殆ど追えていませんでした」
初代「……」
犬「でも、回数をこなすうちに動きはどんどんよくなってて」
犬「きっと努力したんだと思います。最近は、何かととっさの動きに目を見張る事も増えましたし。いつかはこうなるだろうなと思っていました」
初代「だったらお前は何だ?あの雑魚が強くなる為の練習台になってやってたってワケか?」
犬「あ、いや……そんな事は(ヤバイ、怒らせてしまった)」
初代「わざわざ自分を殺しに来るヤツを強くして、怪我負わされてりゃあ世話ねぇな?おい、クソ犬。俺が来なかったらどうするつもりだった?あ?今度は腹のど真ん中にブッ刺されて、腹の傷3つにするつもりだったってか?へぇ、そんなに傷が好きなら俺がまた付けてやろうか!?」
犬「あ、あっ、えっと」
犬「す、すみませ……(ど、土下座しないと。こんなに怒っている初代様は久しぶりに見る)」そろ…
初代「おいっ!土下座すりゃあ済むと思ってんだろ!テメェの土下座は見飽きた!顔上げろ!」ガッ
犬「ぐふっ(あ、顎が砕ける…いだい)」
初代「クソがっ!胸にこんな深手負わされやがって!」
初代「しかも、俺が直々にぶっ殺してやろうと思ったら止めやがるし!もしかしてお前!あの雑魚勇者に変な気でも起こしてんじゃねぇだろうな!?あ゛?答えろ!犬!」
犬「ぐっ、う。あ。……か、彼は……あの(俺は、今日初代様に殺されるんだろうか)」
初代「あ゛?ハッキリ喋れや!」
犬「あ、えと。彼が、しょ、だい様に。よく、似ていたので」
初代「は?」
犬「傷付いたり、し、死んでほしく、なくて…」
初代「おい、どこが似てるって?別に顔は似てなかっただろうが」
犬「(あ、力が少し弱く…)顔もよく見たら似てます。でも、一番は」
初代「おう」
犬「声と、性格が…似てて」
初代「…性格?」
犬「はい。多分、俺と戦った後、彼一人で相当鍛錬を積んでいたんだと思います。パーティの強さはさほど変わっていないのに、彼だけは一人、伸び方が凄かった。……責任感が強く、努力を怠らず。全部一人で頑張ろうとする」
初代「へぇ?」
犬「そういう所全てが……」
犬「初代様、そっくりでした。だ、だから、少しずつ強くなっている彼の姿を見ると。そ、その……一緒に旅をしていた頃の初代様を思い出して……懐かしかったんです」
初代「……」
犬「すみません。門番の役割に私情を挟み怠った挙句、初代様の手を煩わせてしまいました…どんな罰でも……受けます」
初代「…もういい」
犬「へ?」
初代「ただ。次やったら、マジで承知しねぇぞ」
犬「はい(よかった。初代様、よく分からないけど機嫌が直ってる)」
初代「次、俺にどんだけ似てるヤツが来ても、ぜってー手加減なんかすんじゃねぇぞ」
犬「はい」
初代「いいか?テメェは俺の犬だ」
犬「はい」
初代「俺に似てるからって尻尾振るような駄犬なら、もう部屋から一歩も出さねぇからな」
犬「…はい(部屋から出なくてもいい……最高過ぎる)」
初代「あと、」
犬「はい」
初代「顔は全然似てねぇ。そこは訂正しろ」
犬「は、はい(そこ、そんなに気にするんだ)」
初代「あと、声だが」
初代「お前は、俺の声があんな風に聞こえてんのか?俺はあんな情けねぇ声出さないだろうが」
犬「あ、いや。あの時の声じゃなくて…(仲間を、怒鳴り散らしてる時の声がビックリするくらい似てる…とは、さすがに言えないよな)」
初代「ンだよ」
犬「声は、勘違いだったかもしれません(沈黙は金)」
初代「……まぁ、そうだろうな」
犬「はい」
初代「おい、犬」
犬「はい」
初代「ちょっと温泉に行くぞ」
犬「へ?え?なぜ、急に?(旅行?)」
初代「テメェのその胸の傷を消しに行く」
犬「(え?湯治?)いや、俺は男ですし……傷があっても」
初代「俺は返事はどう教えた?」
犬「っ!っはい」
初代「おい、さっさと行くぞ。傷は出来た直後の方が消えやすい」グイ
犬「っはい(温泉旅行か。家(魔王城)に居たい)」トボ
初代(ぜってー、傷は消す。マジで体のド真ん中に傷付けられやがって。ムカツク)グイグイ
犬(……家がいい)トボトボ
新婚旅行みたいになった二人の再会後初めての外出は、犬の胸に出来た傷痕を消す為の【命の泉】巡りでした。
初代「おいっ!早く脱げ!」
犬(家のお風呂がいい)
人を躊躇いなくヤれる筈の犬も「初代様」に似ていると途端に情が沸いてヤれなくなる。そして、犬の助言により殺されずに済んだのが……