14.夢関係

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「ただいまー」

 

 

 俺が3日振りに帰った自分の家の玄関をくぐると、そこには懐かしい程に、脱ぎ散らかされた明彦の靴と、きちんと整えられた幹夫の靴があった。

 こんな当たり前の光景にすら、地味に感動してしまう自分に「やっぱり家が一番だな」と独りごちた。

 

 いつものように明彦の靴を整えて、幹夫の隣に並べて置く。

 そうして俺が顔を上げた次の瞬間、まず目に入ったのは目にこれでもかという程涙を湛えた明彦の姿だった。

 

「は?」

「あっぎー」

 

 明彦の後ろからは激しい足音を鳴らして近寄ってくる、こちらも聞き慣れた声。

 下の住人から苦情がこないか心配な程の、その足音と声の主はもちろん。

 

「明彦!俺が先だろうが!」

 

 幹夫だ。

 あぁ、幹夫もまた懐かしい。

 ただ、現状は一切理解できない。

 

 本当は明彦には会ったら一番最初に竹とんぼをお見舞いしてやろうと、ズボンのポケットに入れておいたのだが、どうも様子がおかしい。

 

 これは、圧倒的に"あの日"を思い出す泣き方だ。

 そして、俺はこの泣き方をする明彦に、心底弱い。笑顔と同じくらい、この泣き顔は、俺の心の様々な感情をどうでもよくしてしまう。

 

 今の明彦は17歳の大人になりかけの男ではなかった。14歳のまだ頼りなかったあの日の子供に戻っている。

 いや、違う。

 明彦はあの日から、体しか成長していない。

 

 心はずっとあの日のままだ。

 

「どうした?明彦」

「うっ、うっ、うああああん」

 

 俺は泣き散らす明彦に、もう何がなんだかわからなくなり、隣に立つ幹夫を見やった。

 すると、幹夫は幹夫でバツの悪そうな表情を浮かべつつ、こちらもまた俺を見て泣きそうになっている。

 

「どうした?幹夫」

「あっ、あっ、あっぎー」

 

 泣いた。

 まさか、幹夫も泣いた。明彦のように大声ではないが、こちらは何か堪えていたものが噴き出すような泣き方だった。

 

「…………」

 

 そして、二人して俺に近寄ってきたかと思うと、俺を抱きしめたまま大泣きが始まった。

 

 どうしてこうなった。

 

 大泣きする二人の男に、俺は後ろ手に玄関の戸を閉めた。

 そうしなければ、近所迷惑な程、二人の泣き声は大きくうるさかったのだ。

 

 泣く端々の言葉をつなぎ合わせて聞いてみると、分かったような、分からないような。

 

 まぁ、分からなかった。

 

 俺が居なくなってどれだけ心配したかと泣く幹夫。

 ごめんごめんと泣き散らかす幹夫に、俺はどうしたら良いのか分からなかった。

 俺が謝ろうと菓子折りまで買ってきたというのに、これはどうしたら良いのか。

 

「俺の方こそ、ごめんごめん。幹夫は悪くないよ」

「あっきー、あっきー、ごめんなさい、ごめんなさい」

「あとで、カフェラテ作ってやるから泣くな泣くな」

 

 そして、コッチは驚き。

 幹夫に振られたと言って大泣きする明彦。

 まさかと思いながら、けれど「大丈夫大丈夫」と頭を撫でてやれば、あっきーのせいだあっきーのせいだと、うわ言のように泣き散らかす。

 

「はいはい、俺のせいですよ」

「あっぎーがぜんぶ悪いんだ」

「はいはい、俺が悪い。俺が悪い」

 

 どうやら俺が居ない間に、明彦は振られて幹夫は俺を愛していると言い出した。

 

 どうしてこうなった。

 どうしてこうなった。

 

「俺はどうすれば……」

 

 泣いている二人を前に、俺は今度こそ決意した。

 他人の気持ちは、やはり、どう理解しようとも理解はできない。

 だから、これからも俺は理解する努力を怠っていくしかない。

 

 努力しても無駄だ。人は勝手に色んな事を思い、思いもよらぬ事を言い出すのだから。

 

「あっきー、俺と付き合って。俺、絶対にあっきーの事幸せにするから」

「そんなのダメに決まってるじゃん!100歩譲っても3Pまでしかダメ!二人だけでエッチとか絶対許さない!じゃなきゃ、あっきーはこの家から出てってよぉ!」

 

 まるで最初に戻って繰り返しているようなやり取り。

 ただ、言われる相手が違う。

 どうしたものか、やはり冷蔵庫に俺名義のこのアパートの契約書を貼るべきだろうか。

 

「あっきー、俺もあっきーと同じ大学受験するんだ。だから俺が受かったら学校でもずっと一緒に居れるよ」

「あっきー、お願い。俺からミキを取らないで……それか3Pで!」

「……あっきー、あっきー。あぁ、あっきー!」

「ミキ、ミキ……もう、ミキ」

 

 

「「愛してる」」

 

 

 いつの間にこうなった。

 

 俺は、俺に抱きついて愛をささやく美少年と、その美少年に抱きつき愛をささやくイケメン男を見ながら、ぼんやりとそう思った。

 これは俺の持つ最大にして最強の能力を発動させる時がきたのかもしれない。

 

「わかった、わかった」

 

 全て、受け入れよう。

 俺はそうだった。これまでも、これからも、そうしていく。

 他人の気持ちは考えても分からない。

 

 だから、もう全てを受け入れて、飲み込んで。

 その先で俺は全てなんとかしていこう。

 俺には、それが出来る筈だ。

 

 

明彦

 

高校2年生 17歳

俺の幼馴染から同居人、そして恋人から、また同居人、そして今は

 

俺の同居人兼セフレ。

 

 

 

幹夫

 

高校3年生 18歳

俺の恋人の浮気相手、そして、俺の恋人の本命、そして幼馴染の恋人になり……そして今は

 

俺の恋人兼明彦のセフレ。

 

 

 いつの間にこうなった?

 

 好きだ好きだとのたまい、たまに三人でまぐわう俺達の関係を世間はなんと言うのだろうか。

 とりあえず、俺はキスされ、キスしたあいつがまた別のあいつにキスされているような、こんな3人の関係。

 

 この関係が次はどう動くのか。

 誰かの気持ちのベクトルがまた誰かへ変化するのか、それとも、この3人の輪にまた新しい誰かが入って来るのか

 どう動いたとしても、俺は全てを受け入れる。

 

 受け入れた先で、幸せになれる自信が、俺にはある。

 

 

 だから、そう。

 考えると、少しだけ、

 

 

 本当に少しだけ、この関係の先にあるものも、

 

 

 

 楽しみだと、俺は思っている。

 

 

 

 

【どうしてこうなった】了

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