(3)

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ジル、俺の部屋に来て。

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 そう、ジルにメッセージを送ってすぐだった。ジルが、俺の部屋に来た。

 

「……三久地先輩?なんで?あの、俺の部屋は?」

「お疲れ様。おいで」

 

 巣作りなのだから当然自分の部屋で、自分の衣服を集めて待っていると思っていたジルから、戸惑いの声が漏れる。

 

「ジル。ごめん、あれじゃスーツが皺になるから。出来なかった」

「そんなの気にしない……」

「俺が気にするんだよ」

「……そう、か」

 

 俺の言葉にジルが明らかにガッカリした声を漏れる。そんなジルに、俺は何も言わず心の中で「あぁ、ごめん。ジル」と謝罪する。でも、大丈夫。

 

「ほら。ジル、こっちに来て」

—–別の巣を準備したから。

 

「……え?」

 

 俺の言葉に、ジルが戸惑ったような表情を向けてくる。

 それを無視し、ジルの背中に手を添えながら部屋の中へと押しやる。スーツ越しに触れるジルの背中は汗でしっとりとしていた。

 

「あ、え?こ、れは?」

「ジルの巣」

「え?俺の?」

「そう、ジルの」

 

 ベッドの上には、俺の皺になっても問題のない衣類が大量に集められていた。俺はジルと違って、アレコレ足りなかったらどうしようって思う鉄の凡人だから、荷物が多いのだ。しかも、今日は部屋への清掃が入っていないからベッドのシーツも昨日のまま。

 

「ジル、この部屋。俺の匂いする?」

「……は、い」

「どう?」

「すき……です」

 

 ジルは目を瞬かせながら、微かに鼻を鳴らした。素直だ。

 そう、俺はここに、二週間近く滞在している。十分俺の匂いも染み付いているだろう。更にクンクンと分かりやすく部屋の匂いを嗅ぎ始めたジルに、俺は何とも言えない気持ちになった。

 

「三久地先輩の、匂いだ」

「……ぅ」

 

 あぁ、もう。恥ずかしい。

 

「ほら、おいで。ベッドに寝て」

「あ……はい」

 

 俺は際限なく匂いを嗅ぎ続けそうなジルに静止をかけるべく、腕を引いた。まぁ、これからもっと恥ずかしい事をするのだけれど。

 

「ほら、寝転がる前に上着を脱いで。ソレは俺に頂戴」

「……」

「ジル。ちゃんと脱いで」

「……はい」

 

 スーツをゆったりと脱ぎながら、しかし、その間もジルはベッドの上に大量に集められた衣類を眺め続けている。その目には、先程までのガッカリとした色は微塵もない。興味津々だ。

 

「……これが、俺の巣?三久地先輩の巣ではなく」

「そうだよ。ほら、寝ころがって」

 

 俺の衣類の上にジルを寝かせる。

 恥ずかしいけど、私服から下着から明日必要になるもの以外全部出した。特に一番多いのが下着だ。だって下着が一番皺になっても問題がないし。

 

「……ジル、俺の匂いする?」

「はい。すごく」

 

 俺の問いに、ジルが再びスンスンと匂いを嗅ぐ。

 あぁ、もう。後先考えて「恥ずかしい」と思う事は我慢して、全部ジルの為に集めた。これは、俺の作った「ジルの為の巣」だ。

 

 俺は、ちゃんと「巣作り」をした。

 

「三久地先輩。これは、下着ですか?」

「見ての、トオリデス」

「洗ってある?」

「い、いろいろ……」

 

 枕の近くに置いておいた下着に、目ざとくジルが気付く。首をズラし匂いを嗅ぐように、俺の下着に頰を寄せられてしまえば、もう顔に凄まじい熱が集まってきた。

 

「はははっ!いいね」

「……うぅ」

 

 スンスンと匂いを嗅ぎつつ笑うジルに、俺は一体どんな顔をしたら良いのか分からなかった。

 もう、木曜日の深夜に。何やってるんだろう。俺は。

 

「これを、ぜんぶ俺の、ためにかき集めたんですか?」

「はい」

「三久地先輩、もしかして……シャワーも」

「浴びる時間なんて、ナイヨ」

 

 その瞬間、下着の匂いを嗅いでいたジルから勢いよく腕を引かれた。気付けば首筋にジルの鼻と唇が押しつけられていた。

 

「っふーー……本当だ。匂いが濃い」

「ンッ……ひぃ」

 

 次いで首筋にヌルリと舌の這う感触。あぁ、ビリビリする。思わず背筋がピンとそり返った。そんな俺を、ジルの腕がきつく抱きしめてくる。

 

「あぁ、すごい。どこからも全部、三久地先輩の匂いがする」

「ん。ジルも……匂い、すごい」

 

 俺は俺で、ジルの首筋にスンスンと鼻筋をくっつける。今日も暑かった。そんな中、ジルは炎天下の中を必死に走ったのだ。

 

「汗臭い?シャワーを浴びますか?」

「……だめ」

 

 俺とのセックスを楽しむ為に。

 あぁ、なんだか最高い興奮してきた。俺は、体を起こしてジルを見下ろすと、先程脱がせたスーツを抱きしめた。

 

「絶対、だめ。っはぁ……ン。好き、な。匂いだから」

 

 ジルの部屋には予備のスーツもあった。だから、これはどうなっても良い筈だ。

 

「んっ、っふぅ……いい、におい」

「みくじ、せんぱい」

「っぁ、っふぅ……ン、ぁ」

 

 ジルのスーツの匂いを嗅いでいると、飲み会の後みたいに頭がクラクラする。

 今日も疲れた。木曜日なんて、次の日も仕事だし、でも月曜から数えて四日も労働に勤しんできたわけだし。

 

—–五分なら、許容範囲です。

 五分?そんなの、ジルが我慢出来ても俺が我慢できない。

 

—–はぁっ、疲れてても……人間は興奮するんですね。

 そうだね。ジル。ほんと、そう。どうやらそれも、人間の本能の一つらしいよ。

 

「っぁん、ん、っぅ」

「み、くじせんぱい……っはぁぁ」

 

 ジルの呼吸が早くなる。そんなジルを横目に、俺はジルのスーツの匂いを嗅ぎながら、勃起する自身をズボンから取り出した。もう、完全に勃起している。