(4)

 

 

「っぁん……んぁ、っは、ン」

「っは、っはぁ……っせんぱい」

 

 既に先走りを漏らしているペニスを上下に扱きながら、ユルユルと尻をジルの体に擦り付ける。尻に感じる硬い感触に、ヒクリと俺にペニスが震えるのが分かった。

 あぁ、俺。なにやってるんだろう。気持ち悪いのは、おれじゃないか。

 

「っあぁ、んっ……っひぁん。いい、においっ。おれ、じるの……においすきぃ」

 

 でも、いい。これで、ジルの意表を突けるなら。

 

「っはぁ、じる……じる。きょうは、キミが、おれの巣になって」

「っ!」

 

 運命でもなんでも無い俺を、自らの意思で必死に求めてくる……このアルファを。

 

「は、ははっ!」

 

「満足」させられるなら。

 

「やっぱり、あなたは、さいこうだ。……手つなぎさん」

「……ふ、ふ。っンぁ」

 

 いつの間にか、後頭部に寄せられていた手によって体が引き寄せられる。あぁ、キスされる。と、そのままキスをしようとしたら、カチャリとメガネが当たった。

 あぁ、メガネが邪魔だ。そう、俺がメガネに触れようとした時だ。

 

「……ダメ」

 

 眼鏡を取ろうとした手をジルから静止され、そのままいつものように指を絡めて繋がれる。

 

「貴方も、俺の巣だ。今日はそのままで」

「……ふ、へぇ」

 

 ジルの綺麗な碧眼が、俺の逃げるようとする視線を絡め取る。いつもはぼやけている筈のジルの欲情した目が、擦り付けられる下半身と共に、欲望を肥大させていく。

 

「今日は、俺の全部“見て”てくだい」

 

 ヤバい。見えるって、実は“見えない”より恥ずかしいかも。

 

 

     ○

 

 

「っん、んひぃっ!」

「っはぁ、イイッ!」

 

 俺はジルの腹に片手を付き、本能のままに腰を振った。激しい律動によりジワリと汗が肌に浮かび上がる。風呂に入っていないせいで、ベタつく素肌がヒタヒタと互いの体に吸い付く。

 

「っはぁ、ぅ……じる、じるっ」

「てつなぎ、さっ」

 

 俺はジルの名を呼びながら、ジルのシャツを手探りで探す。あ、あった。

 

「っふぅ、っひ……っぁん。良い、においぃッ」

「っは、はは。そ、んなに……俺の匂いはいい、ですかっ!」

「っん、うん、……いい、においっ。すき、すきぃっ」

 

 完全に変態だ。

 ジルのシャツの匂いを嗅ぎながら、尻にみっちりと詰まったジルのペニスのくびれたエラを、ゴリゴリと良いところに擦り付ける。

 

「ん゛ぁぁっっ……ひあぁぁぁッ」

「っく……っはぁ、奥にッ、絡みつくっ」

「っぁ、っあ……んぅぅっ。ひもちぃっ」

 

 あれ、今俺ってオナニーしてたんだっけ?っていうか、何だっけ?いま、なんじだ?

 

 チラリと時計を見てみると、時刻は深夜の一時を回ろうとしていた。もう、寝ないと。と思うのだが、もう少しもう少しと長引いて今になってしまった。

 

「っひ!」

 

 すると、そんな俺を咎めるように下から激しい突き上げが襲った。

 

「ンひゃぁっ……っぁ、あ、あっ!いっ、イくっ!」

「巣が……っ時間なんか、気にしないで、くださいよっ!」

「っっひぃん!んっ、んぅぅっ……あっ、じるっ、じる!もっ、まってぇっ!」

 

 激しいジルからの突き上げに、量は少ないもののピュッと精液を飛ばす。もう、何度目の射精か分からない。

 

「っぁ、やぁっ……!あ゛ぁぁあっ!」

 

 ジルが突き上げる度に腰が甘く震え、凄まじい勢いで視界が揺れる。ただ、買い直したばかりの眼鏡はそんな事ではズレてくれない。涙で微かに歪む視界の真ん中で、しれでもジルの興奮した顔がハッキリと見えた。

 

「っはは、っふふ!突き上げるっ、度に手つなぎさんっ、の、っはぁっ、……穴の、縁が、締まって……っふふ、たのしい!奥もっ、突く度にっ、痙攣して……イイっ!」

「っぁ、もっ、ちょっ……イって、るからぁ。とまって。じるっ、じるっ、ひっ……っぁぁぁ!」

「いやだっ!」

 

 チラと見下ろしたジルの表情は、ギラギラと欲情に塗れながらも、カブトムシでも観察する子供のように無邪気だ。もう、こんな顔で「いやだ」なんて言われたら、許してしまうじゃないか。

 

「そうだ!もっと。おれの、巣に匂いをつけないとっ」

「っへ?」

 

 戸惑う俺を余所に、ジルは良い事を思いついた!と更に目を輝かせる。すると、脱ぎ捨てられた下着を掴み、緩く射精を繰り返す俺のペニスに擦り付けてきた。

 

「っぁ、あ、あ、……それぇっ……はじゅ、かしぃっ!」

「もっと、濃い、においを……おれの、巣にっつけたいっ!」

「〜〜〜っっっ!!!」

 

 既にイきっぱなしの状態から、繰り返される突き上げ。同時に、俺のペニスを下着で擦り上げられる。

 

「っあ”ぁぁっ…っんぁぁぁっ!」

「っはぁっ、てつなぎさんの……ナカが絡み、ついてっ…っはぁ、いいっ!イくっ!」

 

 激しい突き上げの直後、自身の体重によって更に奥にジルを感じる。次いで腹の奥に、ジワリと熱い感触が広がった。

 目の前がシパシパする。長い時間繋がり過ぎて、結合部の境目が分からなくなってしまったようだ。

 

「っはぁ。てつなぎさん、おれ、きもちーです」

「っは、っぅ……っはぁ、っはぁ……ぁぁじ、ゆ」

 

 満足そうなジルの声に、俺は、ピンと反らせていた体を折り、ジルの首筋に鼻筋を寄せた。深く息を吸えば、ジルの匂いなんだか、俺の匂いだなんか分からない匂いがした。

 

「じる……」

「っはぁ、っはぁ……なん、ですか。てつなぎ、さん」

 

ヒタリと体全体がジルの素肌に触れる。ベタベタで気持ち悪い。でも、それが気持ち良かった。

 

「じる……んっ、っふぁ」

「っふふふ」

 

 俺が名前を呼ぶ合間も、残った精液を出し切るように小刻みに腰を振るジルに、喘ぎが止められない。

 

「ふふ、ふふふ。手つなぎさんの、ナカ。グチャグチャだ……コレ。ぜんぶ、おれのだ」

「んっ、っも……じる。じる、きいて」

 

 ナカでユルユルになってる癖に。まったく、子供のジルには賢者タイムなど無いようだ。

 

「ん?何だ?手つなぎさん?わるいが、もー、おれは勃ちそうにない」

「……ちがう」

 

 先程俺の精液を擦り付けた下着の匂いを嗅ぎながら、そんな事を言うジルに、俺も吹き出しそうになった。さすがの俺も、もう無理だ。この辺りが「運命ではない」俺達のセックスの限界だろう。

 

「ねぇ、じる」

「ん?」

 

 妙な満足感に包まれながら、俺はジルの匂いを吸い込みながら尋ねた。

 

「おれ、の……すづくり、どうだった?」

 

 すると、それまでスンスンと匂いを嗅ぐのに夢中になっていたジルが、夏休みの子供のように言った。

 

「最高!またやりたい!手つなぎさん、またやってくれ!いいか!?」

「っふふ」

 

 あぁ。楽しそうで、満足そうでなによりだ。

 

「……ん、いいよ」

 

 クタクタになっても、親が子供を遊びに連れ出す気持ちが、少しわかったかもしれない。