(5)

 

◇◆◇

 

 巣作りプレイで盛り上がった次の日。

 俺達は、遅刻する事もなくしっかり朝から出社していた。

 

 そう、仕事とプライベートはきちんと分けないと。

 

「あの、三久地先輩。ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょうか。城さん」

 

 隣から張りのある声でジルが俺を呼ぶ。

 結局、昨日は眠りについたのは深夜三時を回ってからだった。少し眠いが、まぁ許容範囲。なにせ、今日は金曜日。明日は休みだ。

 

「ちょっとコレを見て貰っていいですか?」

「はい」

 

 ジルから手渡されたレジュメに「昨日言ってた事業計画ですか?」と、目を落とす。するとその瞬間、目に飛び込んできた凄まじい字面に、思わず「ぶはっ」と吹き出した。

 

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プレイリスト

済:目隠し

済:巣作り(またやりたい)

□媚薬発情期プレイ

□フェラ・クンニ

□ローションプレイ

□コスチュームプレイ(何のコスチュームがいいですか?)

□拘束プレイ(どっちがいいですか)

□野外プレイ

□放尿プレイ

□社内プレイ

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「調べると色々出てくるものだ。今日はどれでいこうかと考えているんだが……」

「城さん」

「今日は、俺が鍵当番なんだ。だから、社内で……」

「城さん」

 

 俺の言葉を無視して前のめりで提案してくるジルに、俺は手にしていた紙を持ち、そのままシュレッダーの元まで歩いた。そして、容赦なくソレを裁断口へとぶち込む。

 後ろを振り向けば、そこには不満そうな碧眼が俺をジッと見下ろしていた。

 

「あぁ……」

「城さん、仕事をしましょう」

「今は昼休みだ」

「城さん、落ち着きなさい」

 

 全く、そう言う問題じゃない。

 俺は深い溜息を吐くと、眉間に強く指を押し当てた。コッチは昨日あんまり寝ていないせいで、疲れ果てているというのに。それはジルも同じだろう。

 

「っはぁ」

 

 すると、そんな俺に先程まで不満気だった碧い瞳に、微かな「不安」が混じり始めた。そして、言う。

 

「……もしかして、別れたくなったか?」

「……ぐ」

 

 あぁ、もう!

 なんでこの人は俺に対しては、こんなに絶妙な塩梅で「引く」事が出来るのに、会議ではソレが出来ないのだろう。ソレが出来たら、あんなに他人から、不満や憎まれ口を叩かれずに済むのに!

 

「ジル……」

「ん?」

 

 俺はジルの右手にソッと左手を這わすと、誰にも聞こえないような声でソッと呟いた。

 

「上から……順番に、全部やっていけばいいんじゃない?」

「っ!」

 

 その瞬間、ジルの瞳に光が宿る。キラキラの瞳が、今日も運命でもなんでもない俺へと向けられる。

 

「……それは、いいね!」

「うん。だから、今は……」

「悪い。三久地先輩、ちょっと外に出てくる」

「え?」

 

 言うや否や、ジルは俺の手からスルリと離れ、その場から駆け出した。金色の髪の毛が、フロアを横切り、そして見えなくなった。

 

「ジル何を……あ」

 

 俺は先程シュレッダーにかけた「ジルのプレイリスト」の一番上の文字を思い出した。そう、確かそこには……

 

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□媚薬発情期プレイ

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「……媚薬か」

 

 もちろん、俺が飲む前提なのだろう。俺がオメガの真似事をする前提で記載されたプレイに、ふとイタズラ心が宿った。

 

「今日もジルを満足させないと」

 

 だったら、意表を突かねば。

 俺は炎天下の中、小学生のように駆けだしたジルを思いながらデスクに戻った。今日は金曜日。明日は休みだ。多少の無理は、何も問題ない。

 

「夏だし……色々な経験をさせてあげようかな」

 

 そう、俺はまるで子供を持つ親のような気持ちで、隣の空いたデスクに微笑んだ。

 

 

 

おわり


 

≪後書き≫

ジル、意識がハッキリしているセックスをそりゃあもう楽しむ。

三久地「仕方ないなぁ」と言いながら予想の遥か上のサービス提供をする。

 

ジル、ズブズブと三久地にハマる。

三久地のこういう所が、じんわりと会社でも重宝される原因かもしれない。

 

 

最後まで読んで頂きありがとうございました^^