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「……ラティ」
「っ!」
聞き慣れた優しい声に、僕はパッと目を開けました。目を開けた先には、キラキラの星のような金髪を連れるケインの姿があります。もちろん、此方は人間のケインです。
「ケイン……っあ!」
嬉しさの余り、僕が勢いよく体を起こそうとした瞬間シャラリと僕の体に巻き付いていた鎖のケインが僕の体を引っ張りました。そのせいで、僕の体は起き上がる事なくベッドの中に再び沈み込みます。どうやら、余りにも体に巻き付け過ぎたせいで起き上がれなくなっているみたいです。
「おい、ラティ。なんだよその格好」
「えっと……」
「よくそんな状態で寝れるよな。鎖なんて体に巻き付いてたら痛くて眠れねぇだろ」
「そんな事ないよ。ケインが体に巻き付いてると、ひんやりして気持ちが良いから凄く良くねむれるの……ありがとう。ケイン」
僕は鎖のケインをスルスルと撫でながらお礼を言いました。ケインのお陰で、今日もスティーブから鞭を振るわれる夢を見ずに済みました。
「……はぁ」
そんな、僕の様子にケインは何故か酷く不機嫌そうに眉間に皺を寄せると、疲れたように前髪をかき上げました。金色の髪の隙間から覗いていた、エメラルドグリーンの瞳がハッキリと僕の姿を映します。とてもキレイです。
「ラティ、ジッとしてろよ」
「ん」
ただ、髪をかきあげた拍子に袖の隙間から見えた、古い傷跡に、僕の心に冷たい風がひゅうと吹きます。あれは、鞭打ちの痕です。物覚えの悪い僕ですが、ケインの体に付いている傷だけは、全部覚えています。いつどのタイミングで付いたモノか。それだけどんなに僕が出来損ないでも忘れません。
そう、僕がベッドの上でケインの傷に目を奪われていると、いつの間にかケインが僕の体に巻き付いていた鎖のケインを解いてくれました。
「ほら、これで動けるだろ」
「首輪、取るの?」
「あぁ、今から風呂に入るぞ」
「はーい」
首輪ごと外された鎖のケインはシャラシャラと音を立て、僕の体から離れていきます。少し寂しい気持ちです。
「ケイン、お風呂に入って来るから。ここで待っててね」
「はぁ」
ケインはとても疲れている様子で、今日はずっと深く息を吐いています。今やスピルの金軍の総大将になったので、やる事が多いのでしょう。一日中寝ている僕からすると、少し申し訳ない気持ちになります。でも、今の僕にはどうする事もできません。なにせ、僕はただのラティなので。
「ケイン、脱いだよ」
「ああ」
僕は脱いだ服を畳み、鎖のケインをの隣へと並べて置きました。そして、肌着も何も纏っていない裸の状態で、ケインに向き直ります。
「よし、ラティ。体をよく見せろ。背中」
「はい」
コレはケインとの決まり事です。お風呂の前は、部屋で服を脱ぎ、明るい部屋でケインに体のチェックをして貰うのです。きっと、何かあった時にいつでも人質にやれるように、傷が増えていないかチェックしたいんだと思います。
「ケイン、どう?」
「あぁ、やっぱり。鎖の痕がこんなに……」
「平気だよ。こんなのすぐに消えるから」
ケインのゴツゴツした指が僕の体を上から下へと優しく触れていきます。少し、くすぐったい。最初は傷だらけの肌をケインに見せるのは恥ずかしかったんですけど、今はもう慣れました。むしろ、こうしてケインに傷を触って貰えるのが嬉しいくらいです。
「ふふ、ケインの付けた痕を、ケインが触ってる。ふふ、ふふふ」
「……はぁ」
「どうしたの。ケイン、疲れてるの?」
「いや。……ラティ、風呂に行くぞ」
「はーい」
ケインはそう言うと僕の体をひょいと向かい合わせに抱え上げました。僕が逃げないようにです。子供の頃は同じ位の体の大きさだったのに、何をどうしたらここまで体の大きさに差が出るのでしょうか。
「っぁ、ん」
そんな事を考えていると、ケインの大きな掌がギュッと僕のお尻を掴みました。思わず声が出ます。ケインが何て事ない顔で「どうした?」なんて尋ねてきます。これはいつもの事です。
「だって、ケインがお尻を触るから」
「嫌なのか?」
「ううん」
このやり取りもいつもの事。その後、ケインは何回も何回も僕のお尻を撫でたり揉んだりしながら、耳元で再び「はぁ」と、何度も息を吐きました。ケインは疲れているようです。
僕は首輪と鎖のなくなった、どこか物足りない首をケインの肩に乗せ、両手でその頭を撫でてあげました。
早くお風呂に入って休まないと。