(3)

 

 

◇◆◇

 

 

 ケインの使う湯殿はとても立派で、まるで国王陛下の使う湯殿のみたいです。脇に置かれたランプの炎に、湯気が重なって視界がぼんやりします。すると、僕の鼻孔にフワリと華やかな香りが霞めました。

 

「……なんか、良い匂いがする?」

「あぁ、バラの匂いだ」

「僕、バラ好き」

「ふーん」

 興味の無さそうなケインの返事を聞きながら、ヒタヒタと洗い場にケインと並んで歩きます。あぁ、良い匂い。僕はお風呂が好きです。

 大理石の床が光り、中央の大きな浴槽には熱々の湯が静かに動き、その表面には金粉が舞っています。キラキラして、まるで星空のようなお風呂。僕はこのキラキラのお風呂も密かに気に入っています。

 

「ケイン、今日は何をしていたの?訓練?公務?」

「公務」

「じゃあ、今日は怪我してない?」

「……ラティ、腕上げろ。脇の下を洗うから」

「はーい」

 

 その豪華の浴槽の脇で、ケインは僕の体を柔らかい布に石鹸を付けて丁寧に洗います。僕は言われるがまま両腕を上げると、フワフワの泡を纏った布がアバラの辺りから、脇の下にスルスルと滑り込んできました。

 

「っふふ、くすぐったい」

「ほら、暴れるな。洗えないだろう」

「っふ、ふ。ごめん。ケイン」

 

 最初こそ、体くらいは自分で洗うと言ったんですけど、ケインには考えがあっての事でした。

 

「このくらいでいいだろ。さ、今度はラティの番だ」

「うん」

 

 僕はケインによって体中を泡だらけにされた後、そのまま洗い流す事なく椅子に腰かけるケインの体に、正面から抱き着きました。こうやって、僕は体全体を使ってケインの体を洗うのです。

 

「ん、ん……ん」

「ラティ、ここも」

「わかった」

 

 ケインの言った通り、僕はケインの耳の裏と耳たぶを親指と人差し指で擦ります。ケインは耳たぶも傷だらけです。僕はこれまで何度ケインの耳たぶを舐めてあげたか分かりません。

 

「っはぁ……いいッ」

 

 ケインは気持ちが良いようで僕の肩と首の間に頭を預け、気持ち良さそうな息を吐きます。

 

「ふふ、良かった」

「ラティ、反対も。あと、体も。動くの止めるな」

「うん……んっ、んん」

 

 その間も、僕はピッタリとケインにくっ付き、上下に体を動かしてケインの体を必死に洗っていきます。その胸板は、筋肉の山と谷が明確に刻まれていて、僕の体とは大違いです。

 

「っは、っは……っん、ん。っぁ、ケイン」

「ん?どうした。ラティ」

 

 これも、ケインが僕にくれた大切な役割だからです。ケインの体は大きいので、タオルで洗うと時間がかかります。だから、僕が体を使ってケインの体を洗うのです。いつの頃からか、ケインに言われてやるようになりました。

 

「ケイ、ん。あの……後ろを向いて」

「……なんで。このままで良いだろ」

「だって背中、届かない所があるから」

 

 そうなのです。ケインの背筋はまるで石柱のように堅く、幅広い肩と、厚みを増した二の腕のせいで背中の全てに手が回らないのです。これではケインの体を綺麗に出来ません。

 

「だったら」

「っひ、っぁ!」

 

 突如、ケインが僕の体を掴んで抱き上げ、膝の上に座らせました。しかも、それだけではありません。僕の足を左右に開かせ、ピタリと体全体を重ね合わせると、僕の背中にその太い腕を回しました。

 

「これで届くだろ?」

「っぁ、っぅ」

 

 すると、それまで僕とケインの間にあった隙間が一切無くなり、その分ケインの背中に腕が回るようになりました。

 

 けど――。

 

「……あの、ケイン?」

「なんだ、まだ届かないのか」

「と、届くけど」

「なんだよ」

「だって、ケインの……アレが……あつい……っぁん」

 

 両足を広げてケインの体を挟み込むように抱き着いているせいで、ケインの隆起する男根が、僕の下腹部にピッタリとくっ付いてきます。それは、僕とケインの間でビクビクと震え、僕のお腹は泡とケインの先走りで既にぬるぬるです。

 

「ん?なんだよ」

「っぁ、っんぁ」

 

 ケインの向こうにある湯舟から金粉がフワリと舞いました。

 ケインはお風呂に入ると、いつもこうなります。むしろ、僕を抱えて湯殿へ向かう時から、ケインの男根はずっと反応していたのですから。

 

「……っはぁ、ケインの……おっきくて、あつくて、やけどしそう」

「っは、そんなに?」

「っん」

 

 ケインは楽しそうに短く笑うと、その熱を僕の体に擦り付けるように、腰を揺らしてきました。いつの間にか僕のお尻に回されたケインの骨ばった手の平が、ユルユル這いまわります。時折ギュッと大きな掌が力を込めるせいで、下腹部がキュンとします。

 

「っぁふ、っはふ」

「っふーー、良い……触り心地だ」

 

 ツンと鼻先を掠めるのは、湿った空気に混じる、濃い雄の匂い。

 

「っぁ……っひぅ、っぁ、ぁ。けいっ、んぅ。……あっ、つぃ」

 

 本で読んだ事があります。雄というのは性的興奮だけでなく「疲れ」からも性器を反応させるのだ、と。それは雄の本能として、「疲労」が生存本能を脅かし「生殖」に対する欲求を昂らせるから、らしいです。

 

「ケイン……っぁ、けいんの、びくびくしてるぅ」

「っは、そんな事言って、ラティだって」

「っひゃん!」

 

 突然、俺とケインの体の隙間に、それまで僕のお尻を撫でまわしていた片方の手が、僕達の体の間に入り込んできました。そして、その大きな手は僕の小ぶりな男根を片手で包み込みます。

 

「っは、俺ばっかり興奮してるみたいに言って。ラティのココもスゲェ熱くなってんじゃん」

「っぁ、ぁ……ん゛っぁ!っひ、っや、めてぇ。けいんっ、ぼく……それ、されると。けいんの体、あら、えなくなるからぁっ!」

 

 湿った湯殿に、僕のあられもない声が反響します。あぁ、もう恥ずかしい。

 僕はここが湯殿だからなのか、それとも恥ずかしいからなのか。どちらともつかぬ熱で顔が真っ赤になるのを止められませんでした。

 

「っは、っぁ、ふっ、ひゃっ」

「っは……ラティの声、ヤバ。顔も真っ赤だし」

「っひ、ごめ……なさ」

「いい、そのまま声出して」

「んっ」

 

 湯殿でケインに抱きしめられると、僕のいやらしい体はすぐに反応してしまいます。だって、僕はケインと違って全然疲れていません。だから僕のモノがこれ程反応してしまうのは、僕の体がとても卑しい証拠なのです。

 

「まぁ、動けないとか言って、ラティの腰はちゃんと動いてるけどな」

「っぁん……アっ、っひぁん!こし、とまらにゃいぃっ」

 

 面白がるようなケインの声とは裏腹に、ケインの僕のモノに触れる手は酷く優しいです。まるで壊れ物でも触るように、ケインの大きな手の中に包み込まれながら上下に扱かれると、緩く反応していた僕のモノは、あっという間にピンと天井を向く程に立ち上がってしまいました。