5:退職金「盾」いや、ゴミ押し付けんなし!

 

 

「でも、もういいわ。今は一人で気楽にやれるし」

 

 一人だから周りに気を配る必要もない。矢も節約できるし、回収だってゆっくりできる。

 

「リチャード達、今頃どうしてんだろ。もう魔王とか倒しちゃってんのかなぁ」

 

 ま、どうでもいいけど。ゲームがクリアされた場合、この世界がどうなってしまうのか。色々と気になる事はあったが、今の俺が気にしてもどうしようもない。

 

「こんなモンかな」

 

 俺は矢を回収し終えると、木陰に置いている荷物の方へと向かった。この後はモンスターの死体を捌いてアイテムの回収をしなければ。それで、今晩くらいは少しくらい良いモノを食いたい。固いパンはもう飽きた。

 

「えーっと、肉用のナイフは、と」

 

 そうやって俺が荷物を漁っていると、すぐ脇からドサリと重厚な音を立てて何かが倒れる音がした。その音に、俺が視線を向けると、そこにはそりゃあもう堅固な鉄板に覆われた巨大な盾が、その重みで地面にめり込んでいた。

 

「あぁぁぁっ!コイツ、マジで邪魔過ぎ!」

 

 ソレは俺が勇者パーティから追放される際に〝退職金〟代わりに、とリチャードから与えられたモノだ。

 

——–まぁ、色々あったけどさ。お前とは古い付き合いだし……ほら、やるよ。餞別だ。

 

「どこ行ってもデカ過ぎて売れねぇからって、俺に押し付けてきやがって!どこの世界に、弓使い相手に盾を手切れ金として渡してくるヤツが居るんだよ!」

 

 邪魔な弓使いを片付けると同時に、一緒にゴミ装備も片付けてしまおうという魂胆が明け透け過ぎる。

 

「アイツ!マジで俺の事舐め過ぎだろっ!」

 

 苛立ちと共に、再び視線を盾へと向ける。

 何度見てもデカイ。俺の体と同じくらいの大きさのあるソレは、見た目通りガチガチに重かった。多分、俺より重い。そのせいで、持ち歩くのにも一苦労だった。

 

 おかげで、まるで亀が甲羅を背負うような要領でここまで運んでくる羽目になった。

 

「やっぱ捨てちまおうかなぁ」

 

 そう、何度思っただろうか。しかし、結局できなかった。

 

「でも、聖王都なら高く売れる可能性が高いっていうし……」

 

 そうなのだ。この盾は「大きすぎて需要が無いから」と買い取りを断られたのだが、こうも言われた。

 

——–これはかなりレアモンだ。出来れば聖王都あたりで競売にかけるべきだ。そうすりゃ、きっと高く売れるさ。

 

「確かに。見た感じはスゲェんだよな、コレ」

 

 倒れた盾を両手で持ち上げると、そこには、荘厳な紋章が刻まれていた。更に、盾の上部には角のような飾りがあり、側面には青い宝石が埋め込まれている。

 

「うん、うん。めちゃくちゃ高そう~~」

 

 そう、品が良い事は素人目にもハッキリと分かる。きっと、コレを正規の値段で売却出来たら、それこそしばらく金には困らないだろう。

 ただ、ともかくデカい。そして、重い。

 

「こんなモン片手に持って戦えるヤツが居たら、そりゃあスゲェ戦士だろうよ」

 

 戦士というのは、最前線で敵の攻撃を自分に引き付ける役割を持つ役職の事だ。防御力と体力がズバ抜けて高く、メンバー内に居てくれると非常に有難い存在である。

 

「そう考えると、戦士と弓使いって、ステータス配分が真反対なんだよなぁ。戦士と違って、弓使いは体力ないし、防御力はカスだし」

 

 しかし、ただ一つだけ戦士が弓使いと似ている所がある。それは――。

 

「でも、戦士ってあんまり見かけねぇよなぁ」

 

 そう、戦士の人口も少ない。

 理由は簡単だ。不人気だからである。

 

「最前線で敵の攻撃を受け続けるって……そりゃあ死ぬ確率も高いし、不人気にもなるだろうよ。危険手当をそこそこ貰ったって、やりたくねぇわ」

 

 それに、弓使いと戦士は必須の職業ではない。あくまで補助職と言われている。まず、パーティ編成に必須なのは、剣士、魔法使い、神官。それこそが、王道パーティと呼ばれるモノだ。

 だからこそ、冒険者の人口はそこに偏るし、パーティ内での力関係もそちらに天秤が偏る。

 

「おかげで、俺も体の良い当たり所だったわ。もう、絶対パーティとか組まねぇ」

 

 俺は、倒れた盾を両手で持ち上げると、再び木に立てかけた。やっぱり置いていくには惜しい。そもそも、ここまで必死に持ち歩いて来たのだ。今更捨てるなんて絶対に嫌だ。

 

「でも……せめて、コレを持ってくれるヤツが居たらなぁ。聖王都まではまだ遠いし」

 

 まぁ、そんな都合の良い相手が居るワケがないか。

 そう、俺が足手まといの盾を前に、深いため息を吐いた時だ。

 

ギャアァァァッ!

 

「っ!」

 

 遠くからモンスターの絶叫と、何かがぶつかる鈍い殴打音が響き渡った。

 

「なんだ?」

 

 俺は、反射的に背中にかけていた弓を手に持つと、矢筒を背負い、音のする方へと駆け出した。あの凄まじい咆哮だ。なにかヤバイのが居る気がする。

 

「矢は……すぐに使えそうなのが二本か。少ねぇな」

 

 そう、俺が矢筒の中にある矢の数に眉を潜めた時だ。

 

「っな!なんだよ、アレ……!」

 

 木々の隙間から、見えた光景に俺は思わず息を呑んだ。