11:じゅうだい?

 

 

「え、え?セイフって、何歳?」

「……えと、二十、五?か、六くらい」

「そ、そう。年齢も曖昧か」

「ん」

 

 首を傾げながら口にされた年齢は、そりゃあもう完全な〝成人男性〟だった。

 しかも、俺を驚愕させたのはソレだけではない。たどたどしい口調や、か細い声に勝手に気弱そうな感じの見た目を想像していたのだが……!!だがっ!

 

「ちょっ、セイフ。お前……モテるだろ?」

「……」

 

 俺の言葉にセイフは何も答える事なく肉にかぶりついた。腹が減っているのか、答えたくないのか。どちらにせよ、この問いに関してはセイフの答えを聞くまでもない。

 

 コイツ、絶対モテる。

 そこには、肉にかぶりつく度に、深海のように濃い青髪を揺らすセイフの姿があった。鎧を着ているせいかあまり日に焼けていない血色の良い肌に、逞しく掘りの深い顎と鼻筋が、戦いの中で鍛え上げられた戦士の風格を漂わせている。

 

「眼鏡を取ると美少女ってノリは、本当に存在したのか」

 

 なんて、思わず漏れ出た言葉は、なんかもう自分で言うのもなんだが、どこまでもバカだった。

 

「な、なに?」

「いや……いやぁ」

 当然、俺の呟きの意味が分からないセイフは、どこか不安げな様子でチラと上目遣いにこちらを見ている。

 

「もしかして、お前。やっかまれてパーティを追い出されたんじゃないのか?」

「へ?」

 

 あぁ、うん。なんか、そんな気がしてきた。

 パーティ内恋愛は、正直バイト内恋愛の如く焼け爛れがちだし。三角関係にでもなろうものなら、チームワークどころの騒ぎじゃない。そうやって、急にシフトをブッチされたり、バイトを辞められた事も、一度や二度の話ではなかった。

 

 あぁ、もう!恋愛は他所でやってくれ!仕事に私情を持ち込むな!?

 

「……お前も苦労してんな。セイフ」

 

 セイフのこの性格だ。多分、自分の顔の良さを武器に上手く立ち回れるタイプではないだろうから、色々とトラブルも多かっただろう。だからこそ、セイフは鎧を脱がない。いや、脱げなかったに違いない。

 

「今まで色々お疲れさん」

「っ!」

 

 顔が良いというのは、凄まじい武器のようでいて、使いこなせなきゃ怪我の元だ。うんうん。俺、キャラクタービジュアルが完全にモブで良かった。

 そう、俺が肉にかぶりつこうとした時だ。それまで、ずっと黙っていたセイフがおずおずと俺に尋ねてきた。

 

「テルは、なん歳?」

「俺?俺は十八。……ん?いや、もう十九だったかな」

「え、え?じゅ、十代?」

「まぁ、そんなとこ」

 

 前世を合わせると、四十路はとうの昔に過ぎているのだが。そのせいか、俺も他人の事を言えないくらいには、自分の年齢に無頓着だった。

 俺が微かに筋の残る肉を咀嚼していると、セイフは金色の目を大きく見開いて、ボソリと言った。

 

「テルは……その。お、思ったより。若いね……」

 

 零れ落ちそうなほど見開かれた金色の瞳を前に、俺は「よく言われる」とだけ返事をしておいた。まぁ、中身がコレなモンで、リチャードからもよく「テルって、俺の親父みたいだよな……口うるせぇところとか」と言われていたので、自覚はある。

 

「おかわり食いたきゃ言えよ。まだまだ肉はあるからな」

「……十代」

「お茶持ってるか。ないなら、俺のでよればコレ飲んでいいから」

「……十代」

 

 その後、セイフはしばらく「十代……」と肉を見つめながら、ボソボソと呟き続けていた。

 まさか、食の手が止まるほど俺の顔は老けていたとは。そういえば、俺は昔から見た目には頓着が無かった。少しは見た目にも気を遣うべきか。

 

「……いや、もう今更どうでもいいわ」

 

 そんな事より、今は生活の為の金を稼がなければ。

 

「おーら、セイフ。いい加減。メシを食えー」

「……じゅうだい」

「……くぁ。ねっむ」

「……じゅうだい」

 

 こうして、思ったより若い俺と、思ったより大人だったセイフの、バツイチ同士の聖王都までの二人旅が始まった。