セイフが変だ。
「前衛の二人は、もっと前に出ろ!セイフはもっと敵を引き付けてくれ!」
「……」
「他の皆は詠唱は控えろ、この敵はそこまでしなくていい!」
「「分かった!」」
「テル、奥の敵を頼む!俺が後方の敵をヤる!」
「うん」
セイフのパーティメンバーと再会した日を境に、俺とセイフの関係が一気に変わった。もちろん、良い変化ではない。
戦闘後、俺がセイフの後ろ姿をジッと見つめていると、突然背中を軽い衝撃が走った。
「テル、お前まだ若いのに弓の熟練度が高いなー!」
「あ、いや。別に。俺なんか普通で……」
「アレが普通なモンかよ!それとも、最近の若いヤツはみんなこうなのか?」
「ちょっと止めてよ、リチャード!なんか私達まで急に年取ったみたいな感じになるじゃない!」
「いやいや、十代と比べたら十分、年だって」
いや、二十五は全然年じゃねぇよ。ガチガチに若ぇからな。
とは言わない。今の俺がソレを言っても妙な空気になるだけだ。確かに今の俺は、まだ十代の〝弓使いのテル〟でしかないのだから。
「ま、それは冗談として。ここまで命中率が高いのは、相当鍛錬を積んでる証拠だ。テル、お前の腕なら聖王国の弓撃隊からもスカウトが来るかもしれないぞ!」
「はは」
純粋に褒めてくれてるリチャードに、俺は苦笑するしかなかった。そして、そのままやんわりとリチャードから離れる。
あぁ、そうさ。俺は、ハッキリ言ってこのリチャードと言う男が苦手だ。別に、リチャードが嫌なヤツというワケではない。ただ、見ているとツラくなる。
「さぁ、みんな行こうか!聖王都まではもうすぐだ!」
「聖王都なんて久しぶりねぇ。前に行ったのいつだったっけ?」
「村から出てすぐでしょ?そこで、セイフが全身甲冑じゃないと嫌だって言い張って聞かなかったんだよなぁ」
「おお、そうだったそうだった。懐かしいな。もう、そんなに経つのか。俺達も年を取るワケだ」
「もー、リチャード!だからソレ、止めてってばー!」
こんな弓使いとしての〝大正解〟を目の前で見せつけられてしまっては。
「はぁっ」
そう、リチャードは完璧だった。
リーダーとしても、弓使いとしても。俺がこれまで、自分がパーティから浮いてきたのは、全部「弓使い」だからだと言い訳をしてきた。でも、それは違った。そう、言われているようだった。
弓使いが原因だからじゃない。全部〝俺〟のせいだったんだ。
俺はリチャードから逃げるように、後方で黙って立っているセイフに駆け寄った。今は、そういう事実を受け入れる余裕が、俺にはない。
「なぁ、セイフ」
「……」
「あの……大丈夫か?さっき、攻撃を受けてただろ?腕、痛くないか?」
「……」
「ちゃんと、仲間に言って回復してもらった方がいい」
「……」
金色の瞳が、俺を見下ろしてくる。でも、それはこれまでのように親しみの籠った色をしていなかった。
「セイフ、あのさ……あ」
俺が話している途中で、セイフはフイと顔を逸らしてしまった。こうなってしまっては、もうセイフとの対話は望めない。
「……セイフ」
そう、セイフのパーティと合流したあの日。あの日を境にセイフの態度が急激に変化した。前は自分を俺の使い魔だとかなんだとか言ってべったりくっ付いて来てくれていたのに。今では目も合わせてくれない。
「やっぱり、怒ってるんだな」
あぁ、分かってる。セイフが何に怒っているのかくらい。俺はセイフの事なら何でもわかるのだ。でも、それ以上にあの日。俺とセイフが宿屋に戻った時、セイフはハッキリと言った。
——–テルは、俺と、パーティ……組みたく、ないんだな。
俺がリチャードの言葉にハッキリと『仲間じゃありません』と答えた事に、さすがのセイフも嫌気がさしたようなのだ。
もちろん、その場では「そんな事ない!」と口にしようとした。でも、俺の行動の伴っていない発言で、セイフを納得させられるワケもない。
結局、何も言えないでいる俺にセイフは初めてハッキリと言った。
——–もういい。
溜息混じりに口にされたその言葉は、ハッキリと俺を見限っていた。そして、その時になってようやく気付かされた。
(そっか、セイフは別に俺じゃなくても良かったんだ)
そう、そうなのだ。俺はたまたまセイフが一人ぼっちの所に現れただけ。たまたま助けて、たまたま一緒に行動するようになっただけ。
だから、元パーティメンバーが現れて「ごめん。仲直りしよう」と言ってくれたら、それで良かったのかもしれない。しかも、リーダーは俺よりも数段レベルの高い弓使いときたもんだ。
「……なんだよ。俺の使い魔じゃなかったのかよ」
ボソリと口を吐いて出た言葉に、いよいよ自分に嫌気がさした。俺は一体何をやっているんだろう。もう、しっかりと決断すべきだ。
「もう……同じ轍は踏まない」
二度あることは、三度あるのだから。三度目になる前に、気付けて良かったじゃないか。