第13話:宣告

 

 

 

「本村先生、ちょっといいですか」

 

 その呼び出しは、突然だった。

 それは洋が、いつものように授業を終え、誰も居ない教室で“彼”の手紙へ返事を書いている時だった。

 

 あの、洋が弱気を吐露した手紙以来、二人の手紙のやり取りは、いつの間にか本格的なものへと変化していた。

 コピー用紙の裏紙の切れ端を埋める程度だった文章も、今では便箋1枚を軽く埋められる程にまでになったのだ。

 

 書いても書いても物足りなかった。

 まだまだ伝えたい事がたくさんあった。

 

 洋は際限なく浮かび上がってくる大量の言葉達に、日々悪戦苦闘を強いられながら毎日生徒が帰った教室で手紙を書いた。

 結局それは掃除をしていた頃の帰宅時間を大幅にオーバーする結果になっていたが、洋は帰宅時間の事など全く気にしていなかった。

 

 手紙の文章を考える時間は、洋にとってその日を振り返る事のできる重要な時間になっていたのだ。

 

 伝えたい事が多すぎて困る。

 彼に知って欲しい事が今日もたくさんあった。

 洋にとって、手紙を書く時間は、多忙な毎日の唯一の心の休まる時間だった。

 

 そこへ、だ。

 普段は黙って己の仕事へ徹している塾長が、突然洋に声をかけてきた。

 今まで、手紙の事を知っている塾長は洋に気を使ってか、この時の洋に声をかける事は一度もなかったのに、だ。

 

 洋は聞こえて来た塾長の声に、僅かに違和感を覚え、何事だろうかと椅子を立ち上がった。

 

「塾長、どうかしましたか?」

 

 洋がそう声をかけると、塾長は少しだけ 言いにくそうに表情を歪めた。

 

「……昨日、塾に…匿名の保護者から連絡が入りました」

「……保護者から?」

「はい、それが…少しだけ問題がありまして……本部に連絡を取らなければならなくなりました」

 

 塾長の表情が徐々に険しくなっていくのを見ながら、洋は少しずつ自分の鼓動が早くなるのを感じた。

 本部に連絡しなければならないような事態。

 それは明らかに異常事態だった。

 

 洋の勤める塾は、本営の塾からの暖簾分けをして、名前を本営の塾から借りる、と言うカタチで経営を行っている。

 

 所謂フランチャイズ形式の塾だった。

 すなわち経営事態、本営の塾とは綺麗に分離している事になるのだ。

 そんな、この小さな個人塾に於いて本部へ連絡をとらねばならない事態というのは酷く珍しい事である。

 

「どう言う…内容の…電話だったんですか」

 

 洋は自然と震える声を自覚しながら、何故だか、こないだの有岡講師の言葉が耳から離れずにいた。

 

『痛い目を見ないとわからないようですね』

 

 あぁ、もしかして。

 

「あの………っそれは、もしかして俺に関する事、ですか?」

 

 洋がそう口を開いた瞬間、塾長は酷く言いにくそうな表情を浮かべると、

 

 

 

小さく頷いた。