番外編8:今日も、きっと

 

◇◆◇

 

「ごめん、セイフ……俺、また寝ちまった」

 

 テルはいつもそうやって申し訳なさそうに朝を迎える。いつもそうだ。でも、テルは寝てない。ちゃんと、起きてる。

 

「テル、起きとったよ」

 

 これは嘘じゃない。本当だ。でも、テルは信じない。

 

「……そういうフォローはいいよ」

 

 テルはいつも俺のこの言葉を、気を遣った俺からの優しさだと思っている。テルはよく俺のことを「セイフは優しいなぁ」と言うが、俺はそんなに優しくないと思う。テルが無意識のうちに腰をさすっている姿を思い出しながら、俺は洗面所の前に立った。そして、鏡に映る自分にボソリと呟く。

 

「もうすこし、優しくせんば」

 

 そう、テルは毎日俺に「今日こそ、セックスをしような」と伝えてくれるのだが、俺はその言葉通り毎晩テルとセックスをしている。そして、多分今日もする。テルは全然覚えてないけど。

 

「あ」

 

 クンと、鼻から微かに空気を吸い込んだ瞬間、生っぽい、昨日の夜いやというほど嗅いだ匂いが鼻孔を擽った。

 

「はぁ、テル。かわいか。いっぱい出しよらした」

 

 俺は何もない自分の掌を見つめながら頭がクラリとするのを感じた。昨日の名残の精の匂いが、よく利く鼻に纏わりつき、昨日の激しい情事を思い出させる。

 朝から一体何を考えているのだろうと、自分でも呆れる。でも、目を閉じるとありありと浮かんでくる。

 

——–せいふ、きもちぃ?

 

 テルは覚えてない。覚えてなけれど、ちゃんと起きてる。

 俺は洗面所の鏡の前で、自分の金色の目がギラりと光るのを見た。こんな目をするヤツの、どこが優しいのか、俺には分からない。

 

 鼻から吸い込んだ冷たい朝の空気が、交じり合った精の匂いを運ぶ。

 

「きもち、よかった」

 

 つい数時間前まで、ここでテルを抱いていたのだ。俺は昨日のテルを思い出すように、静かに、静かに目を閉じた。

 

 

◇◆◇

 

 

——–着いたら、起こして。

 

 いつも、そんな事を言ってコテリと眠るテルを、俺は起こした事がない。いや、起こす必要が無いのだ。

 

「くえすと、おわり、まし、た。とうばつ、しょ、うめいです……かんきんを、おねがい、します」

 

 ギルドに着くと、起こす前にテルが寝ぼけながら俺の背中から声を出す。そんなテルをギルドのスタッフはクスクスと笑いながら「はい」と、いつものように俺に対して報酬を支払うのだ。これはもう、いつもの事だ。

 

「それでは、これがクエスト報酬です。ご確認ください」

「……あぃ」

「ふふっ、かわいい」

 

 テルは責任感の強さから、半分寝ぼけつつきちんと仕事を遂行しようとする。その姿は、何やら忙殺されるどこぞの役所の職員のようで、胸がキュッとしたのは一度や二度の話ではない。一体、テルはどんな人生を歩んできたのだろう。ついこないだ、二十歳になったばかりだというのに。

 

「……テル」

 

 背中にテルの温かさを感じながら、俺はギルド職員から片手でクエスト報酬を受け取る。テルは本当にちゃんと眠れているのだろうか。そう、心配した時だった。

 

「ぁい……せいふは、おれの、おっとです」

「……」

 

 寝ぼけて、ちょっとワケの分からない寝言を言っている。そんなテルに、ギルドの職員や周囲の冒険者からクスクスとハッキリとした笑い声が漏れ聞こえてきた。

 でも、俺は笑えない。コレはテルがよく口にする寝言の一つだ。一番コレをよく聞く。これを聞いたら、俺はもう止められない。

 

「はい、俺は、テルの夫です」

「んぅ」

「……テル」

 

 寝ぼけるテルが俺の背中に顔を擦り付けてくるのが分かった。凄まじい。なんだ、コレは。ズンときた。俺は堪らない気持ちになりながら、急いでギルドを出た。

 だって、皆がテルを見る。まるで、可愛いモノでも見るように。それは、とてもいやだ。早く帰って二人になりたい。あの家には、俺とテルしか居ない。家を買って、良かった。

 

「せいふ、せいふ……ふふ」

「テル、テル……てる、かわいい。かわいか」

 

 背中では、ずっとテルが俺の名前を呼んでいる。可愛くて堪らない。可愛すぎて、色々苦しくなってきた。なんだか、戦闘で敵に四方を囲まれているより凄まじいダメージだ。苦しい。テルは強い。本当に強すぎる。

 

「はぁ。はぁ……っはぁ」

 

 呼吸が荒くなる。熱い息のせいで、鎧の中がムシムシする。

 家に帰る途中、ご近所の人達から「おかえり」と、にこにこしながらかけられる言葉にも、テルは律儀に「あい、たらいま」と返事をしていく。そんなテルの姿に、やっぱり皆クスクスと可愛いモノでも見るような目で俺の背中に視線を向ける。

 

「はよ、帰らんば」

 

 はよ、はよ、はよ。

 テルは俺が返事をした事を褒めてくれたが、そんな事を言ったら寝ながらでも絶対に相手を無視しないテルは一体どう褒めたらいい。

 いや、でも待て。むしろ、これは褒められるべき事ではないのかもしれない。だって、俺はソレを偉いなんて思えない。

 

「……俺以外、無視して、よかとけ」

 

 俺はテルより年上なのに、俺はテルよりずっと子供だ。

 

◇◆◇

 

 家に着いてすぐ、テルをベッドに寝かせ、俺は急いで鎧を脱いだ。

 既にこれでもかと反応する下半身に鎧が引っかかって脱ぎにくくてイライラした。それに、汗が凄い。戦闘の時はこんなに汗なんてかいていなかったのに。

 

「あぁ、もうっ」

 

 首筋に纏わりつく髪の毛が鬱陶しく思えて、何度も切ってしまおうかと考えたが、切ろうとする度にテルの「セイフの髪の毛は綺麗だなぁ」という言葉が脳裏を過り、切りそろえるだけで手を止めてしまう自分がいる。

 

 テルの言葉は、俺にとって〝絶対〟だ。

 

「せいふ……せい、ふ」

「テルっ!?」

 

 寝ぼけたテルの俺を呼ぶ声が聞こえた。

 俺は、鎧を片付ける事なく足で蹴ってどける。その鈍い音は、静寂を一瞬破り、部屋の中に重みを放ちながら広がっていった。こんな事、テルが見てたら絶対しない。

 多分、俺の本性は鍛冶屋のドワーフよりも酷い。

 

——–良かった、セイフが怒鳴るタイプじゃなくて。

 

 乱暴で怖いって、テルに思われたくないから猫を被っているだけだ。俺は、テルに嫌われたら生きていけない。

 

「せいふ、せいふ……おれ。ねてない。おきて、る」

「テル」

 

 うっすらと。本当に微かに開かれた瞼の下で、黒い瞳が俺を見上げている。ベッドの上に、横たわるテルがモゾモゾと動いたかと思うと、ペラりと服を捲り上げた。

 

「……ふく、ぬぐ」

「テルっ」

「おれたち、ふうふだから」

 

 夫婦だから、セックスをしよう。と、テルはそう言ってくれている。ペラりとめくった服の隙間からテルのうっすらと色づいた肌が見える。寝ていたせいか、体温が高い。

 

「てる、てる……っはぁ。いい?よかと?シてよか?」

「ん。いい、よ」

 

 いや、なにが「いいの?」だ。ダメに決まってるだろう。

 と頭の片隅で理性が激しく声をかける。それでも、体が言う事をきかず、途中まで捲りあがったテルの服を胸の部分までたくしあげる。

 

「んっ、っぁ」

 

 そのタイミングで、俺の手がテルの胸に当たったらしい。柔らかいベッドの上で、テルの腰がヒクンと揺れた。

 

「テル、気持ちよか?」

「んっ、んぅ」

 

 微かに染まる頬。でも、うっすらと開いていた目は、ここにきて閉じられた。俺はギシとベッドを軋ませながらベッドにのぼる。腕の間で目を閉じるテルは、普通の寝息では考えられないように熱い呼吸を「はふはふ」と漏らしていた。

 

「あぁぁ、かわか」

 

 堪らずズボンの中で窮屈な思いをする自身を、テルの膝にゴリゴリと押し付ける。

 

「っはぁ、っはぁ」

 

 熱くて、ジンジンして、ピリピリして。

 ズボン越しだが、相手がテルだと思うと腰の動きも容赦なく早くなる。ズリズリと固い膝に擦り付けて、猛りを更に募らせる。殆ど意識なんてない相手に、俺は何をしている。

 

「っぁぁ、いいっ!」

 

 俺はテルの使い魔だ、と旅の間中、ずっと口にしていたが、あんなのは嘘だ。俺はただの、理性のない獣と一緒だ。俺がもっと先の快楽を求めてズボンに手をかけようとした時だ。

 

「っせ、いふ」

「テル?」

「ふふ」

 

 寝ぼけながらもテルは口元に笑みを浮かべつつ、膝を立ててきた。そのせいで、張り詰めていた猛りにグリとテルの膝が容赦なく触れた。

 

「っぅ」

「っはぁ、せいふ。きも、ちいい?」

 

 テル目を閉じたまま俺の頬に両手で触れると、そのまま自身の唇に導くように俺を引っ張った。殆ど力なんて入ってなかったけど、俺にはそれで十分だった。

 

「んっ、っふぅ」

 

 柔らかい唇の隙間から互いの熱を分け合うように舌を絡め合う。同時にテルの立てられた膝が、勃起する俺のモノを更に強く刺激してくる。このあたりで、もう俺の理性は完全に沈黙した。だって、俺の理性もテルが好きだ。

 

「っひ、ん゛~~!!」

「ってる、てる……んぅ、っぅ」

 

 逃げるテルの舌を絡み取り、吸い付き、唇に軽く歯を立てた。ズボンもはいたまま、俺は眠るテルの膝に体を押し付けこれでもかというほど腰を振る。

 これだけで、もうイきそうだ。

 

「っは、っはぁ……はぁっ!」

「~~んふぅぅっ」

 

 理性は沈黙し、テルは頬を染めながらも俺の頬から手を離さない。むしろ、膝は俺の腰の動きに合わせながらグリグリと押し付けてきて――。

 

「っく」

 

 俺はベッドの上に乗って五分も経たぬまま、服の中で射精した。ドロリと気持ち悪い感触を下着の中に感じる。あぁ、最悪だ。その気持ち悪さから、沈黙していた理性が再び声をあげた。もう、今日はこの辺にしておけ、と。

 その声に従い、ベッドの上にクタリと横たわるテルを見下ろす。すると、そこには頬だけでなくめくりあがった腹や胸まで真っ赤にしながら荒い呼吸を漏らすテルの姿があった。可愛いのに、堪らなくいやらしい。

 

「っはぁ、っはぁ……っぁふ」

「……テル」

 

 ピンと俺に向かって主張する小さな乳首に、思わずしゃぶりつきたくなるのを必死で堪える。正直、全然足りない。

 でも、これ以上はダメだ。

 

「……おふろに、行かんば」

 

 今日は敵の数も多かった。早いところテルをしっかりと休ませてあげなければ。そう、俺がテルから体を離れようとした時だった。

 

「うぅ、せいふ。なんでぇ」

「え?」

 

 テルの眉間に微かに皺が寄っている。うっすらと開かれた目はどこかトロンとしており、

 

「テル、起きたと?」

「せいふ……なんで。はなれる、んだよ」

「あの、お風呂に……っぅ!」

 

 言いかけた俺に、テルが膝を立て下半身に触れてくる。精液で濡れた下着の中で、俺のモノは既に再び勃起しかけていた。

 

「……おれ、おまえの、こと。わかってう」

「っぅ、っん。てる……っぐ」

 

 寝ぼけている。テルはずっと寝ぼけている。でも、テルは寝ぼけていても、俺の事を分かってくれている。

 膝を立てながら、俺の肢体を指の腹で優しく撫でるテルは再び俺の欲を誘う。

 

——–セイフ、お前。まだまだ足りないんだろ?分かってるよ。

 

 脳内に響くテルの言葉は所詮俺の願望だ。でも、その願望があながち俺の都合の良い妄想ではないと、俺は信じている。

 

「足らん。全然、足らん」

「ふ、へ。せぃふ」

 

 俺の言葉に、テルは嬉しそうに微笑むと「ひもちぃ」と、穏やかな嬌声を上げた。まだ、俺はテルに何も気持ち良い事をしてやれていない。だとすると、きっと夢の中の俺がナニかしているのかも。

 

「……なんやん、それ」

 

 バカな俺はテルの夢の中で、好き勝手している俺を想像して、我慢しているのがバカらしくなった。そう、俺はテルの夢の中の俺に嫉妬したのだ。

 

「テルは、俺の夫とけ」

 

 そう口にした瞬間、俺はテルの服を容赦なく剥ぎ取った。

 

◇◆◇

 

「~~ん゛ん゛ぅっ!」

「テルっ、テルっ!」

 

 もう、何度目になるだろう。

 ハッキリ意識があるのに、寝ぼけたような視界の中、膝の上で揺れるテルのナカに、込み上げてくる精を激しく吐き出した。

 

「っは、っはぁ……っふーー」

 

 吐精後の快感に、体がブルリと震える。荒い呼吸と共に吸い込んだ空気は、ジットリと湿っており喉の奥を濡らした。ここはベッドの上ではない。いつの間にか場所がベッドの上から、風呂場へと移動していた。

 

「しぇ、いう……しぇいぅ」

「テル?」

「っぁぅ……ぅるし」

「苦しい?も、やめたか?」

「……や、だ」

 

 俺のせいでポコリと膨らんだ下腹部を、まるで煽るように俺に押し付けてくるテルに、俺はクラリとするのを感じた。

 

「っぅ……テルっ」

 

 先ほど出したばかりだというのに、蠢くテルの内壁が俺を甘やかすように抱きしめるのだから堪らない。こんな事だから、ずっとテルのナカから出たくなくなるのだ

 そういえば、一度もテルの中から抜いてないが、ここまで俺はどうやって移動してきたのだろうか。

 

「おん、ぶ?」

 

 思わず声が漏れる。

 いや、おんぶじゃない。それだとテルからでなければならない。

 

「せ、ふ……んっんっ」

「んっ」

 

 微かに記憶の糸を辿り過去を遡ろうとした時、テルの腕が俺の首に回され、柔らかい唇が俺のモノに触れた。

 あぁ、そうだ。俺がテルを抱っこして、その間もテルのキスをしながら風呂場まで来たのだ。そしたら、途中ポタポタとテルのナカから俺の精液が漏れてた。あとで掃除しないと。あとで、あとで。

 

「てる。ってる……!」

 

 ちゅっ、ちゅっと甘えるように唇を食んでくるテルに、堪らずテルの小さな後頭部を撫で上げた。もう片方の手は、テルの膨らんだお腹を撫でる。ポコポコして、柔らかくて気持ちい。この腹を満たすのが、全部俺の精液だと思うと、それはもう更に格別だった。

 

「っぁ、ぅ……しぇいふ」

 

 視界が湯気で揺れる。いや、これは快楽のせいで俺の瞳が濡れているせいか。残った精を自身から全て吐き出すように、小刻みに体を揺らす。

 

「っぁ、っぁ。っひぅ」

「んっ、んっ」

 

 すると、既に幾度とない射精のせいで腹を精で満たされていたテルのナカから、グチュリと音を立てて、俺の精が漏れだした。その動きに合わせてテルがピクピクと体を震わせる。

 

「っはふ、っはふ……しぇいふ……ん゛っぅ!!」

 

 同時に、俺の体を挟み込むように伸ばされた足が、快楽のせいでピンと足先まで伸びた。そういう、テルの行動一つ一つが可愛くて、もっと気持ち良くしてやりたくて。……いや、違う。

 

「あ゛ぁぁぁっ!クソッ!き、もちぃっ!」

 

 完全に壊れて、もうテルのナカを突く事しか考えられなくなっていたのだ。

 俺は普段は絶対に口にしないような言葉を吐き出しながら、テルを風呂場の固い床に押し付けた。反響する自分の声が、本当に獣の唸り声のようで聞いてられない。耳を塞ぎたい。でも、我慢出来ない。

 

「っひ、っぃ、~~っぁぅ!」

 

 ピンと伸ばされたテルの足首を掴み、真上からテルのナカへと自身を叩き付けた。激しい律動のせいで、ナカの精液が泡立つのを見つめながら、ゴツゴツと亀頭でテルの行き止まりの、更に奥まで食い込ませる。

 

「っひ!っひぅ……ン゛ぅっん!」

「ぜ、んぶ……はいっ、た!はいった!」

 

 それまで離れていた俺の陰茎の付け根と、今や真っ赤になったテルのアナの淵がピタリと触れ合う。いつもならずっと外に出てる部分までテルに抱き締めて貰えたような感覚に、湧き上がる多幸感が、ジンと頭を震わせた。

 

「はいった。てる。ぜんぶ、はいった」

「っふ、ぁふ……ん、ん」

 

 嬉しくて、嬉しくて。殆ど寝ているテルに向かって、腰を曲げて耳元に囁いた。

 だって、いつもは全部は挿入しない。行き止まりの所までで、十分気持ち良かったし。それに、あれ以上挿れたら、テルが怪我するかもしれない。だから、今回が初めてだ。

 亀頭の先が、それまで入った事のない熱さとグチュグチュした感覚に包まれる。

 

「はいった。てる、てる……いたく、なか?おれ、きも、ちよか」

 

 でも、本当は全部挿れてみたかった。テルに全部受け入れて欲しかったし、テルならきっと受け入れてくれると思っていた。

 

「っ、ぅっぅ……ッぅ」

 

 でも、眼前で声もなくヒクヒクと体を震わすテルに、不安になった。

 

「てる?」

 

 欲望のままテルに全てを押し付けて。怪我したのかも。俺は体も大きいし、そのせいで体のどこもかしこも他人より倍くらい大きい。

 テルは格好良いなと言ってくれるけど、正直俺は自分の大きさが不安になる。だって、テルは本当に小さくてガリガリだから。俺の精液でポッコリとしたお腹の少し上に手を滑らせると、骨の浮いたあばらに行きあたる。

 

「きょ、も……ごはん、食べとらん」

 

 テルは食べる事よりも寝る事の方が好きだ。だから、よくこうやって食べ損ねて寝てしまう。

 

「っは、ぅ、っは……っは」

「てる、ごめ」

 

 苦しそうなテルに俺が罪悪感と共に目覚めた理性の元、自身をテルから引き抜こうとした時だ。

 

「せいふ……これ、しゅ、き」

「……っ」

「し、ぁわせ」

 

 そう言って、苦しいだろうにへらりと表情を緩めるテルに、俺はゴクリと唾液を飲み下した。

 

「てる。苦しくなかと?」

「……ふふ」

 

 俺の問いかけに、それまで目を閉じたテルがその瞬間だけパチリと目を開けた。これは、起きてる時の目だ。まさか、目が覚めたのだろうか。これまで、一度も最中に目覚めた事なんてなかったのに。

 そう、俺が湯気でぼやけるテルへと目を奪われた時だった。

 

「せいふと、いっしょだと……たのし」

「っ!」

 

 テルはそれだけ言うと、掴まれていない方の足を俺の背中に絡ませた。もう、目は閉じられている。

 

「……てるてるてる、てるっ」

 

 テル、好きじゃ。

 何度も何度も吸い付いたせいで、今や真っ赤に腫れ上がったテルの乳首に、俺は甘えるように吸い付いた。その瞬間、テルの腰がヒクンと弓なりに反り返る。あぁ、可愛い。いやらしい。きれい。堪らない。

 

「好きだっ!」

 

 テルが弓をつがえる時の腰が好きだ。弓に添えられた手が好きだ。敵を見据える厳しい目が好きだ。

 

 セイフ、と俺を呼ぶ時の幸せそうな顔が好きだ。

 

「ってる、てる。……っく、っぁ」

 

 腰を振る度にコチュコチュと奥で聞いた事のない音が鳴り響く。ちゅっちゅっと甘える俺のような獣の体を優しく撫でるテルの腕が温かい。

 

——–おれは、せいふの、おっとです。

 

 耳の奥で何度も何度も聞こえてくる、幸せそうな寝言に俺は腰を振りたくりながらテルに抱き着いた。

 

「っぅ、っぅ。てるぅっ!っうぇぇぇっ!」

 

 幸せ過ぎて、何故か最後は泣きながらイった。

 

 

◇◆◇

 

 結局あの後、俺は更に止められずベッドの上でもテルを抱いた。それで、もう一度体が汚れたので二度目の風呂。呆れた事に、二度目の風呂ではテルのナカに出したモノを掻き出しながら、乱れるテルを見て、またしても我慢が効かなくなってしまった。

 

「……俺、おかしかとやか」

 

 あぁ、そうだ。もしかすると、俺の性欲は、ちょっとおかしいのかもしれない。これではまるで本当に獣だ。テルは本当に大丈夫だろうか。いつか、俺はテルを抱きながら殺したりしないだろうか。冗談のように聞こえるが、けっこう本気で心配だ。

 

「……俺、何ばしよるとやろ」

 

 俺は、鍛冶屋のドワーフの事を言えた義理ではないのだ。優しくない。乱暴で自分勝手な、癇癪持ちの我慢の利かない子供だ。

 

「きょ、今日は……我慢ばする」

 

 昨日あれだけシたのだ。今日こそは絶対にテルをゆっくり休ませてみせる。そうでなければ、本当にテルの体がダメになってしまうかも。というか、毎晩俺が抱き潰してしまうから、テルは夕方になると、すぐに眠くなってしまうんじゃないだろうか。

 

「……今日こそ、きっと」

 

 そう、俺が決意を固めた時だった。台所からドタドタと慌ただしい音が聞こえてきた。

 

「セイフ―、朝飯が出来たぞー」

「っぁ……うん」

「どうした?」

「な、んでもない」

 

 カラリと明るい笑顔と共に現れたテルに、俺はとっさに首を横に振った。

 昨日の夜。最後に見た時のテルは、俺の欲を余すところなくぶつけられたせいで、酷くグッタリしていたのだが、今のテルにはその片鱗すら見られない。

 

「……テルは、だい、じょうぶ?」

「なにが?」

「か、体とか」

「体?大丈夫だけど。よく寝てるし」

 

 ケロリと言ってのけるテルは、本当にピンピンしていた。寝ぼけていて昨日の事を覚えていないとは言え、体の方も腰をさすっていた事以外は特に何ともなさそうだ。

 そういえば、テルはどんなに俺が激しく抱いた日の翌日も、クエスト消化の為にダンジョンに潜ると、驚くほどの身体能力でフィールドを駆け巡る。

 

「……テルは、すごかね」

「いや、だから急に何だよ」

 

 俺より小さな体で、細い腕で、まだ最近二十歳になったばかりなのに。

 

「……すごかぁ」

「えぇ。だから、一体何なんだよ」

 

 戸惑いながらも、嬉しそうに笑うテルは、そのまま俺の背中をポンと叩いた。

 

「さ、早く食べて、今日こそ早くクエストを終わらせような」

「ん」

 

 トントンと軽い足音を響かせ向かう台所には、朝食の良い香りが広がっている。窓の外はカラリと晴れた良い天気だ。すると、そんな爽やかな朝の空気の中、それまで清々しい表情を浮かべていたテルが、微かに頬を染めて俺の方を振り返った。

 

「セイフ、俺今日こそ起きてられるように頑張るな」

「……えっと」

「絶対!絶対今日は頑張るから!」

 

 いや、テルは毎晩十二分に頑張っている。でも、記憶の無いテルにはその自覚がない。

 

「だから、その……今日こそ、シような」

「……」

 

 返事をしない俺に、不安そうな表情を向けるテルに俺は先ほどまでの「今日こそ、きっとテルを休ませる」という決意が、一瞬にして揺らぐのを感じた。

 

「セイフ?」

 

 あぁ、既に。テルが、可愛い。もう、すでに、よく分からない感情がむくむくしてきた。

 

「……す、する」

「うん!俺、今日は絶対に寝ないから!」

「ん」

 

 テルは、いつも俺の欲しい言葉をくれる。どうやら、今日も俺はテルを抱いても良いようだ。都合の良い俺は、いつもいつだってこうやってテルの言葉にしっかりと甘えてしまう。

 

「テル」

「ん?」

「あの……ありがとう」

「っはは、まだ何もしてねぇだろ。ほら、飯食べるぞ」

「ん!」

 

 テルは本当に凄い。

 弓の腕も、体力も、俺に対する理解も。全部、全部全部。

 

「俺、テルの夫でよかった」

 

 俺は精液の匂いの漂う洗面所から、テルを追って駆け出した。