【前書き】
【北極百貨店のコンシェルジュさん】という作品がとても好きでずっと書きたかったコンシェルジュパロ。犬がコンシェルジュ。初代様がVIBのお客様という設定。
ノリとテンションで読んでください◎
では、どうぞ!
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俺は、このソードクエスト百貨店のコンシェルジュだ。
コンシェルジュというのは、法規に触れない範疇で幅広く顧客のニーズに対応し、秘書的な役割も果たす、いわばお客様の――
「おい、犬。聖剣【エクスカリバー】を用意しろ」
奴隷だ。
ソードクエスト百貨店のコンシェルジュさん -犬-
「も、も、申し訳ございま、せん!我がソードクエスト百貨店には、その、そういった神話時代の武具等な、取り扱って、おりませんで」
「ほう、無いのか。俺はこの百貨店のVIBだと思っていたんだがな?」
「も、も、も、申し訳ございませんっっっ!初代様っ!」
俺は金色の美しい髪をまばゆいばかりに光り輝かせる「勇者のお客様」を前に、盛大に土下座をした。革張りのソファに深く腰掛け、長い足を組む姿はとてもサマになっている。
「っは、また土下座か。お前はソレしか出来ねぇのか」
「あ、あ……もうしわけ、ございませんっ」
こちらのお客様は俺達のソードクエスト百貨店のお客様の中でも上位1%しか存在しない「Very Important Brave(ベリー・インポータント・ブレイブ)」と呼ばれるお客様だ。
そして、ここはVIBのお客様を専用でおもてなしする専用の個室だ。今、ここには俺とVIBの勇者のお客様――初代様しか居ない。
「この百貨店も落ちたモンだな。昔はこのくらいのアイテムなら何があってもすぐに入手してくれていたがなぁ?」
「あ、あ……!申し訳ございません!申し訳ございません!」
「そのセリフは聞き飽きた。いつから、コンシェルジュの仕事は地面に額を擦り付ける事になったんだ?まずは顔を上げろ」
「っは、はいぃぃぃっ!」
土下座していた頭を勢いよく上げる。目の前には俺の事を、どこか楽し気に見つめてくる勇者のお客様の姿。
「で?【エクスカリバー】だが、用意出来るのか。出来ないのか?」
どうしよう、どうしよう!
コンシェルジュの辞書に「不可能」の文字は存在してはならない、というのがこのソードクエスト百貨店のコンシェルジュの大原則だ。特にVIBのお客様からの願いならば尚のおこと。
「あの……す、少しだけ。う、えの者に、相談を」
「上の者だと?」
「は、はい!お、俺では手に余るご用命ですので、その……」
「おい、犬。お前はどうやら何か勘違いをしているようだから、ここで教えておいてやる」
「へ?」
高慢な態度で頷く勇者のお客様はとても若く、一見すると十代後半くらいにしか見えない。ただ、どうやらこのソードクエスト百貨店創設時の「初代VIB」のお客様らしいので、相当な年齢である事は確かだ。
だとすると初代様は一体おいくつになられるのか。まったく、VIBのお客様は他の方々も含め、謎な人物が多い。
「コンシェルジュがそうやって上に指示を仰ぐような姿勢なら、俺はそもそもお前のような新人の愚図な犬には頼まない。はなっからその〝上の者〟とやらに言だろう。俺にはそれだけの権利があるからな」
「は、はぁ……」
「なぁ、犬。俺の言いたい事が分かるか?」
いつの間にか初代様が腰を折り、床に膝をつく俺の耳元でソッと囁いた。
「三日で、探して来い」
「っっ!!」
「出来なかったらお前は俺の担当から外す」
「っっっ!!!」
初代様は、俺の初めてのVIBのお客様だ。せっかく初代様直々に指名してもらったチャンスなのに、俺とした事が。そもそも、コンシェルジュの世界に「出来ない」「無理」「申し訳ございません」は、通用しない。
「み、み……三日後、必ず【エクスカリバー】をお持ちします!」
初代様の言葉に、俺は勢いよくと立ち上がると腰を九十度に折り曲げて頭を下げた。
「そうか、楽しみだな」
「はい!」
明日から、バイヤー休暇を取らなければ。
俺は頭を下げながら拳を握りしめると【エクスカリバー】の情報を頭の中で巡らせた。まずは、コンシェルジュの先輩に話を聞いてみよう。
「おい、俺は帰るぞ」
「エクスカリバー、エクスカリバー……ま、まずは先輩に話を聞いて」
「おいっ、このノロマが!テメェは目の前の客をまともに見送る事もできねぇのか!?あ゛ぁっ!?」
「っは、はぃぃっ!申し訳ございませんっっ!!」
VIBの個室の戸をけ破らん勢いで怒鳴り付けてくる初代様に俺は飛び上がると、俺は急いで戸を開けた。そうだった。まずは初代様を百貨店の外までお見送りしないと!
「初代様、どうぞ!」
戸を開けた瞬間、賑やかなソードクエスト百貨店のテンポの良い音楽が聞こえてくる。すると、どうだ。
「わざわざありがとうございます」
「……は、はい」
先ほどまでの何様俺様初代様の態度は一切消え失せ、人の良い笑みを浮かべる初代様に、俺はこれまでの全てが夢だったんじゃないかと思った。いや、そう思いたかった。
「では、【エクスカリバー】どうぞよろしくお願いしますね」
「…………はい」
やっぱり夢じゃなかった。これから、俺はこの世に存在するのかすら分からない【エクスカリバー】を求めてこの世界を飛び回る羽目になるのだ。
あぁ、今回は変な部族に掴まって龍神の生贄にされたりしなきゃいいけど。
そう、げっそりと思った時だった。
「三日後、私の専属コンシェルジュとして、立派に成長した貴方に会えるのを楽しみにしていますよ」
「っ!」
百貨店の入口に当たり前のように用意されたながーーーいリムジンに乗り込んだ初代様は、最後にそんな事を言って微笑んでくれた。
な、なんだろう。外面の良い仮面みたいな笑顔でもなく、バカにしたような笑みでもない。こんな風に笑って貰えたのは、初めてかもしれない。
これは期待されていると思っていいのだろうか。
「は、はい!頑張ります!」
「では、また三日後」
「はい!」
俺が初代様の専属コンシェルジュになって三カ月。
初代様は忙しいだろうに、一週間に一度は必ずこの百貨店にやってくる。色々と失敗もするし、出来なかったら専属から外すと脅されはするが、未だに俺を使ってくれている。どうやら、これまでのコンシェルジュは一週間と絶たずに専属を外されてきたらしいので、俺は初代様の専属としては「最長記録」らしい。
「がんばるぞ!」
車の音が聞こえなくなったのを確認して顔を上げると、勢いよく百貨店の中へと駆け出した。
初代様がどうして俺なんかを使ってくれるのかは分からないが、期待して貰えているのであれば、出来るだけその気持ちに応えたい。
「……だって、俺はソードクエスト百貨店のコンシェルジュなんだから」
コンシェルジュの辞書に「不可能」の文字はない!
◇◆◇
その後、俺は神話時代まで時空を遡り無事に【エクスカリバー】を手に入れる事が出来た。
しかし、驚いたことに召喚士に転移させて貰った神話時代にも既に「初代様」は存在した。神話時代から生きているのであれば、そりゃあソードクエスト百貨店の初代VIBになっていても不思議じゃない。……いや、不思議だけども。なんて、考えながら、色々あって、初代様と二人で世界中を旅している途中に見つけた【エクスカリバー】。
『初代様、エクスカリバーです!』
『おう、よくやった。犬』
『はいっ!』
それを神話時代の初代様に渡して、俺は名残惜しいけれど神話時代の初代様にサヨナラをした。きっとコレで、元の時代の初代様の手元にも【エクスカリバー】がある筈だ。
コンシェルジュの辞書に「不可能」の文字はない。でも、必ずしも手柄を自分の手元に置く必要もまた、コンシェルジュには無いのだ。
お客様が満足すれば、それでいい。
『初代様、お元気で』
眠る初代様に別れを告げ、俺は元の時代へと戻った。
「じくうてんい!」
しかし、最後の最後で俺は致命的なミスをした。
一応、元の時代に戻ったつもりだったが、どうやらそれは「百年後」ソードクエスト百貨店だったらしい。三日後と言われていたのに、百年後とは。遅刻も甚だしい。
「クソっ、百年も遅れやがって!この愚図野郎が!」
「申し訳ございません!申し訳ございませんっ!!!」
「……あぁ、ちくしょう」
でも、顔を真っ赤にしながら俺を抱き締めてくる初代様は――
「……死んだかと思ったじゃねぇか」
時空転移をする前と違い、とても可愛く見えて仕方がなかった。
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後書き
【北極百貨店のコンシェルジュさん】という作品がとても好きでずっと書きたかったコンシェルジュパロ。
犬は初代様が居る時は「専属コンシェルジュ」ですが、居ない時は普通のお客様を相手にします。もし、犬が他の客に怒鳴られて土下座させたりしているのを見ると――そのお客様は二度とソードクエスト百貨店には足を踏み入れる事は出来ません。にこり。
他のVIBには、幼い頃から高慢な態度で多くのコンシェルジュを泣かせてきた「シモン君」という金髪の男の子も居るそうです。