17:世の理「鬼は外、福は内」

 

 

「そっか。そうだったんだ」

 

 妙な気分だ。そう、とても妙。

 なにせ、今気づいた筈のその事実に、実際のところは最初から分かっていたような気がしてならなかったからだ。

 

「っふふ」

 

 道理で、こんなに大きく、凶悪で、我儘で、恐ろしい相手に対して――可愛い、などとおかしなことを思ってしまう筈だ。

 しかも、それだけではない。

 

「ははうえ。俺はもう二度と出雲など行きとうない。他の神達は、俺の事を信仰無しとイジメるのだ。あんな、やかましいヤツら、俺は嫌いだ。おそろしい……だいきらいだ。もう、土地神などせん。絶対に、絶対に母上の元から離れぬ」

「う、わ……!」

 

 俺の服をギュッと握りしめ、ポツポツと吐き出される言葉は、こんな立派なナリをしておきながら、まるで劣性(陰キャ)のようであった。

 

「ふふっ、道理で道理で」

 

 組立人形(フィギュア)が好きで、狭くて暗い静かな押し入れを好むはずだ。一緒に居て心地よいはずだ。そりゃあ、俺の産んだ我が子なら、俺に似るのもまた道理。

 そう、福の神様の天下は俺の元でだけ。なんとも立派で可愛い内弁慶様であること!

 大きな我が子の背中を撫でてやりながら、俺は腹の底から込み上げてくる愛しさを止められなかった。

 

「よしよし、怖かったね。まったく可哀想に。もう二度と出雲なんて怖いところになんて行く必要はないですからね」

「っ!」

 

 俺の言葉に、胸に頭を押し付けていた福の神様の顔がパッと此方を見た。

 

「外に出る時も手をつないで、ずっと一緒」

――ねぇ、福ちゃん?

 

 福の神様の頬を両手で挟み込んでその名を呼んでやれば、福の神様の黒曜の瞳から、はらはらと涙が零れ落ちてきた。

 

「は、ははうえ」

「はい」

「……ざ、戯れ合っていい?」

「もちろん」

 

 俺がハッキリと頷くと、次の瞬間、俺の体は福の神様の小脇に抱えられていた。そしてそのまま、勢いよく狭い押し入れの中へと放り込まれた。

 薄暗く、狭い押し入れの中。埃っぽい布団の中に沈んだ俺は、福の神様の大きな体に押し倒されていた。

 

「ははうえ、っははうえ」

「っひ、ン!」

 

 福の神様の長い舌が、甘えるように俺の短小のツノを舐める。上から下、下から上へとまるで蛇が木に纏わりつくように、ねっとりと舐め上げられ、ビリビリと体中に快感が走った。

 

「っふ、ふくちゃっ……っん」

 

 そんな福の神様に、俺は込み上げてくる愛しさと興奮のまま、その大きな体に抱き着いた。太く固い大木のような胴に足を絡め、起立する立派な男根を自身の腰に押し付ける。

 

「っかわいそ、にっ。ほら、おいで」

「は、ははうえ……っぅう」

 

 気持ち良さそうに目を潤ませて此方を見下ろす福の神様を前に、俺は自ら着てた服をたくし上ける。期待するようにツンと立ち上がる俺の小さな乳首が、熱を孕む福の神様の前に露わになる。

 

「ふくちゃん、ここ。ふくちゃんはコレが好きだもんね」

「っは、ぅ……」

 

 ゴクリと、喉仏が期待するように波打つ。次の瞬間、俺の乳は福の神様の口にパクりと食べられていた。

 

「っふ、ぁぁッ!……っひ、っぁ゛あっ!」

「っは、ん、ちゅっ、んっふ」

 

 豊満でも柔らかくもない。もちろん、実際に母乳が出るワケでもない固い乳に、執拗に吸い付いてくる福の神様の姿に、俺は腹の底がキュンと疼くのを止められなかった。舌の先が乳の先端に触れただけであられもない声が上がり、胴に巻き付けていた足がピンと伸びる。

 

「っあ、っやぁぁっ!出るっ、出ちゃうぅっ!っひ、ん!」

 

 俺は雄鬼だ。乳が出る事などない。

 しかし、まるで本当に乳を飲んでいるかのように上下する喉仏に、思わず乳を出しているような錯覚に陥ってしまう。

 

「んっ……はぁ、ははうえ。っはぁ、ぅ、ン、ン」

 

 ちゅぱちゅぱといといけなく乳首を啜りながら、時おり乳輪からほじくり出すように激しい力で吸い上げられる感覚に見境なく腰が波打つのを止められない。

 

「っあ、あ゛ぁぁっ!」

「……ん、っふ。ええいっ、邪魔な衣だな!」

「っふ、……ふっ、んぁ」

 

 直後苛立ったように、素早く互いの衣を剥ぎ取っていく福の神様に、俺は体に力が入らずされるがままだった。

 

「っはぁ、っはぁ。衣など、めんどう、な……いっ、で!」

 

 しかし、やはり成長した福の神様に押し入れの中は手狭なのだろう。焦って服を脱がせようとして、肘と頭を壁と天井に盛大にぶつけてしまった。その瞬間、福の神様は壁にぶつけた腕をさすりながら、口をへの字に曲げて此方を見下ろしてくる。

 

「ははうえ、うった」

「……よしよし。もっと近寄っておいで」

「ん」

 

 素直に俺に身を寄せてつつ、福の神様はゴリゴリと俺に下半身を擦り付けてくる。衣の取れた互いの熱源は火傷するように熱く、酷く破廉恥で生っぽい。

 

「んっ。あっつ、い……きもち」

 

 小ぶりな俺の男根に擦り付けられる福の神様の男根は、どうやら、赤子になる前よりも立派になっているように感じられた。心なしか胴体も先ほどより大きくなっている気がする。

 

「んっ、ふくちゃ。ココも、こんなにおっきくなってぇ……かわいぃ」

「っは、っは、っは。っはぁーー……ほんとうに?」

「ほんと」

 

 赤黒いソレは、まるで蛇神でも巻き付いているかのような血筋が浮かびあがっていて、とてもじゃないが可愛い姿には程遠い。きっとひと昔前の俺ならば、きっと恐ろしさに縮み上がっていた事だろう。

 しかし、ドクドクと必死に脈打つ様すら、必死に母に甘えているようにしか見えず、後ろの穴がヒクつくのを止められない。

 

 もう、早く抱きしめたくて堪らない!

 

「福ちゃん、早く……早くおいで。ここ、ずっと福ちゃん戯れ合えなくて寂しかった」

「ははうえ、おれも」

 

 そう、衣も何も無くなった下半身を、恥ずかしげもなく大きく開きながら言うと、次の瞬間、俺の中を凄まじい剛直が貫いた。

 

「ッア、っあ゛ぁぁぁん!っひゃ、っぁん!」

「母上っ、っ母上!!ぁあ゛っ!」

 

 ゴチュゴチュと凄まじい音と共に、福の神様の額にも筋が浮かぶ。幼さと雄々しさの入り混じるその姿は、歪でとてつもなくいやらしい。あまりの律動の激しさに内臓ごともっていかれそうな勢いだ。

 

「はは、うぇっ!おれは、かわいい……かっ!いとおしいかっ!?」

「っぁ、かわい、っ……もっ、かわい過ぎてっ、離したく、なぃぃっ!」

「あ、ぁ……ぁっ!か、かわいいか。俺は、そんなに……そんなに」

 

 丁寧に結われていたみずらは、可愛い可愛いううわ言と共に乱暴に頭を撫でる俺のせいで、もうグチャグチャだ。でも、そんな俺に福の神様は怒るどころか、自らがこの世で一番の幸福者だとばかりにニコリと微笑む。

 

「母上は、俺を……離したくない、かぁ」

「~~~っ!」

 

 あぁっ!うちの子ときたら、なんでこんなに可愛いのか!

 

「ふく、ちゃ……っぁは、ぅ」

 

 吹き出す愛しさを止められず、真っ赤に染まる福の神様の頬に両手を添えた。そして、そのまま腹に力を入れ、カタチの良い桃色の唇へと吸い付いてやった。

 

「っは、っむ、ンンっ」

「ぅっ……ンっ、ぐ」

 

 体を起こす際に腹に力を込めたせいで、ナカにある福の神様の男根をギュウッと締め付けてしまう。そのまま俺は彼の剛直を撫でるように腰を波打たせながら、長い舌に自らの舌を絡めた。

 舌先で「良い子」と告げるように、口内を一通り撫でると、呼吸の為に一旦唇同士を離す。

 

「っは、ん……福ちゃ……かわい。かわいよぉ」

「~~はっ、は、ははうえ。もっと、もっとして……もっと、して!」

「はいはい」

 

 あぁ、こんな可愛い子は、頼まれたって外に出してやらない。

 だって、外に出て他の神様に虐められたら可哀想だ。それに、外に出て怪我でもしたら大事だ。そして、なにより少しでも離れようものなら――。

 

「俺が、寂しい」

 

 奥の奥まで入り込んで、甘えるように腰を振る我が子の体に俺はギュッと抱き着くと、二度と離さぬ勢いで深くその唇に口付けた。

 

 

◇◆◇

 

「のう、鬼よ。福の神は今日も出てこないのか」

「福の神様は少しお腹が痛いみたいで」

「……今日は腹かえ。よう毎日、神のクセにどこかしら痛うなるものだ」

「申し訳ございません、土地神様」

 

 眉間に皺を寄せる白髪の神様を前に、俺は下げた頭の下で小さく溜息を吐いた。ここ最近、毎日尋ねてくる土地神様に、俺はほとほと困り果てているのだ。

 

「まったく。ワシはもう土地神ではないぞ。今や、お前の所の福の神が土地神じゃ」

「あの子は、まだ小さいのでそう言った事は……まだ」

「小さいとな?神に年などありはせん」

「……そうかもしれませんが」

 

 どうやら、土地神様は福の神様に外に出て欲しいらしい。そして、早いところ土地神の仕事を代替わりしたい、と。

 気持ちは分かる。分かるけれども……申し訳ないけれども。

 

「土地神様。どうぞ、今日はお引き取りください」

 

 でも、ダメだ。

 

「……はぁ」

 

 どうせ、彼も長くはこの場に留まれない。なにせ、招かれざる客はこの家から弾かれる。それは鬼だろうが福の神だろうが変わらない。なにせ、この家に住むのはこの地で最も強い神力を持つ、福の神様なのだから。

 

「また、明日来よう」

「……気を付けてお帰りください」

 

 俺は土地神様を見送り終えると、すぐにお爺さんの祭壇のある部屋へと駆け出した。

 早く戻らねば。土地神様が来ると、あの子は酷く怯えてしまう。あぁ、可哀想に可哀想に。

 

「福ちゃん、土地神様。帰ったよ!」

「ははうえ!」

 

 ふすまを開けた先には、幼子の姿になった福の神様の姿がコロンと座敷の真ん中に転がっていた。俺は慌ててその体を抱き締めると、よしよしと頭を撫でてやる。

 

「ははうえ、ははうえ」

 

 まったく、なんという事だろう。俺が一部屋分離れるだけで、福の神様はすぐにこんな風になってしまわれる。

 とても甘えん坊で寂しがり屋な、可愛い我が子だ。

 

「よしよし、もう大丈夫ですよ」

「……ははうえ」

 

 腕の中の幼い福の神様は、俺に甘えるようにすり寄るとそのままヨレヨレの俺の服の中に頭をつっこんだ。

 あぁ、また始まった。いつものやつだ。

 

「んっ、んっ」

「っ、ふ、くちゃ」

「っはぁ、ははうえ。もう、俺は土地神などしとうない。出雲へも行きとうない。片時も母上と離れとうない」

「ん、わかってますよ」

 

 いつの間にか大人の姿に戻った福の神様は、地鳴りのような低い声で俺の体を押し倒すと、そのまま俺に「よしよし」を強請って体にしがみついた。

 押し倒された視界の向こうに見えるお爺さんの祭壇には、二つのお饅頭がある。大きな饅頭と小さな饅頭。さきほど、お婆さんが置いていった。

 

——–仲良くお食べねぇ。

 

 この家は本当に天国だ。家主も福も、俺を「外」にしない。

 

「ははうえ、戯れ合っていい?」

 

 俺は福の神様の大きな背中に腕を回すと、そのまま静かに目を閉じた。

 

「はいはい」

 

 

 鬼は外、福は内。

 その理の通り、福の神様は今、俺の〝内〟に居る。

 

 

 

【最強慈母神は、可愛い我が子を一生ウチに閉じ込めたい!】

 

 

 

 十数年後、成長したラックちゃんが祖母宅を引き継ぎ日本で生活する事になり、めでたく3Pのまぐわいが始まるのは、また別の話。

 

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「あとがき」