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死に際に最もループを絶望させるには「恋人」になるのが一番だ。
それに気付いてからというもの、俺は旅の間。どこかのタイミングでループに「愛の告白」をし、仲間には内緒でコッソリ体の関係を持つようになった。
「っぁ、か、かみゅ……待って。っひ、ぁぁンっ!」
「っは、っく!ループ、あまり声を出すと……誰か来るかもしれないぞ」
裏路地の一角で、世界の勇者がケツの穴を突かれ、あられもない声を上げている。俺の言葉に、ループは壁についていた片方の手を慌てて自身の口元へと持っていく。
「っあ、あ。ごめ……!」
「そんなに気持ち良かったか。まぁ、確かに奥の方が酷く痙攣しているようだ。ココも、いつもより張り出してるように感じる」
「っひ、ン!」
わざと、いやらしい言葉を使いながら前立腺を擦るように突いてやれば、ループの腰が激しく跳ねた。
ループに嫌われるような言動はルール違反だが、こういう言葉責めは許容範囲らしい。まったく、雑な世界のルールだ。でも、おかげで欲求不満も解消できるし、ボケ勇者も絶望させられる。
一石二鳥だ。ありがとう!不条理なクソ世界!
「ぅ~~、かみゅ……ごめ、ん。あの」
「ん、どうした?どこか痛むのか?」
「っぁ、っん、ン」
言葉では素知らぬ風を装いつつ、収縮するナカを堪能するように小刻みな腰の動きを繰り返す。そのせいで、甘い嬌声がループの言葉の続きを奪い続ける。もう、息も絶え絶えといった様子だ。
なぁに、俺に悪気はないさ。一回目の鈍い俺が言うであろう事を、いつも通りに言ってやってるに過ぎない。なぁ、そうだろ。世界!
「……あっ、あの、あのさ!俺、声……我慢出来そうにないから……そのっ」
「ん?」
「き、キスをして欲しい」
こちらを振り返りながら、恥ずかしそうに口を開くループに、俺は深く息を吐いた。
あぁ、気色悪りぃ。でも、それは思っても口には出せない。世界によって俺の口はループに不利益な事は言えないようになっているのだから。
「あぁ、ループ。やっぱりお前は最高だな!」
「っぁん!ふ、ンン~~っ!」
俺はループの唇を己の口で塞ぐと、そのまま激しく腰を振った。
相手が先ほどの女ならば、きっとこんな自分本位な行為は許されないのだろう。しかし、相手は男だ。しかも勇者。一見するとヒョロッとして見えるが、その実、ループの体はとてもしっかりしている。
さすが勇者だ!おかげで多少乱暴に扱っても壊れる事もない!
「ん゛っ。っふっぅぅ!!!」
配慮の欠片もない激しい行為に、ループは目に涙を浮かべながら、それでも嬉しそうに俺を見ていた。頭上の数字は変らず「100」。何をしても、ループの俺に対する感情は一切ブレない。
震える腰を押さえつけ、亀頭を奥の奥まで叩き付ける。ループの口から吐き出される筈だった矯声は、俺が全部飲み込んでやった。あぁ、熱い。そろそろイきそうだ。
「っぁーー……はぁっ」
「っはぁ、っぁン……かみゅ」
溜まっていた欲求不満の熱をループの中に擦り付けるように小刻みに腰を振る。すると、ループはぼんやりした表情を浮かべながら、俺の首筋に吸い込まれるように舌を這わせた。
どうやら、また〝いつもの〟が始まったようだ。
「ン、っふぅ……ん」
「ループ?」
ループは行為の最中、必ず俺の首筋から胸にかけて浮かぶ痣に舌を這わせる。
その痣は、ループを庇う時に負う傷とまったく同じ場所にあるのだ。不思議な事に、記録を残すように俺は同じ場所に痣を付けて生まれてくる。しかも、ソレは回数を重ねる度に色が濃くなっているようだった。
「ん、ンン」
そんな傷痕を、ループはいつも子犬が甘えるように舐めてくる。傷を見る目は、いつもどこか苦しそうだ。
何も知らないボケ勇者の癖に。でも、その顔も悪くないと思った。
「っはは、くすぐったいぞ。ループ」
「ん、もう少し」
でも、一心不乱に傷を舐めてくるループの姿も、ある意味最高に気持ち良かった。きっと今回もループは最高の絶望と泣き顔を見せてくれるに違いない。俺の人生は世界に握られているが、ループの絶望は俺が握っている。
己の死に対して、自分以上に絶望してくれるヤツが居るというのは、悪くない人生じゃないか。
「あぁ、ループ。お前は本当に最高だな」
一度目の俺が純粋な気持ちでループに伝えていた言葉を、まさかこんなに淀んだ気持ちで言うようになるなんて。もう、あの真っすぐな頃の俺には戻れない。
俺はループの無防備な喉笛に吸い込まれるように噛みついた。
「っぁ。な、なんだ?カミュ、どうした?」
「……いいや、ちょっと噛みつきたくなっただけだ」
「っふふ、カミュ。犬みたいだな」
「確かに、そうかもな!」
そうだ。まったくもってその通りだよ!俺はお前の人生を先に進める為だけに用意された犬死に野郎だ!
「ほんと、その通りだよ」
ループが憎い。憎くて憎くて堪らない!俺はループのせいで死んだ。何回も何回も、数えきれないくらいの人生を無為にさせられた。そして、なにより——。
「俺を置いて……先に行きやがって」
どうせ泣くだけ泣いて、俺の人生をアッサリ諦めたんだろう。知ってるさ。お前は世界を救う勇者様だもんな。どんな絶望の中でも光を見つけられる。そのキラキラと輝く目は、いつだって〝未来〟しか見ていない。
それが、俺にはどうしても許せない。
「——————」
今度は、お前が俺の為に死ねよ。
そう口にした筈の言葉は、俺の喉の奥でまるで無かったかのように消えていった——
筈だったのに。