13:愚かなループ

 

◇◆◇

 

 死に際に最もループを絶望させるには「恋人」になるのが一番だ。

 それに気付いてからというもの、俺は旅の間。どこかのタイミングでループに「愛の告白」をし、仲間には内緒でコッソリ体の関係を持つようになった。

 

「っぁ、か、かみゅ……待って。っひ、ぁぁンっ!」

「っは、っく!ループ、あまり声を出すと……誰か来るかもしれないぞ」

 

 裏路地の一角で、世界の勇者がケツの穴を突かれ、あられもない声を上げている。俺の言葉に、ループは壁についていた片方の手を慌てて自身の口元へと持っていく。

 

「っあ、あ。ごめ……!」

「そんなに気持ち良かったか。まぁ、確かに奥の方が酷く痙攣しているようだ。ココも、いつもより張り出してるように感じる」

「っひ、ン!」

 

 わざと、いやらしい言葉を使いながら前立腺を擦るように突いてやれば、ループの腰が激しく跳ねた。

 

 ループに嫌われるような言動はルール違反だが、こういう言葉責めは許容範囲らしい。まったく、雑な世界のルールだ。でも、おかげで欲求不満も解消できるし、ボケ勇者も絶望させられる。

 

 一石二鳥だ。ありがとう!不条理なクソ世界!

 

「ぅ~~、かみゅ……ごめ、ん。あの」

「ん、どうした?どこか痛むのか?」

「っぁ、っん、ン」

 

 言葉では素知らぬ風を装いつつ、収縮するナカを堪能するように小刻みな腰の動きを繰り返す。そのせいで、甘い嬌声がループの言葉の続きを奪い続ける。もう、息も絶え絶えといった様子だ。

 なぁに、俺に悪気はないさ。一回目の鈍い俺が言うであろう事を、いつも通りに言ってやってるに過ぎない。なぁ、そうだろ。世界!

 

「……あっ、あの、あのさ!俺、声……我慢出来そうにないから……そのっ」

「ん?」

「き、キスをして欲しい」

 

 こちらを振り返りながら、恥ずかしそうに口を開くループに、俺は深く息を吐いた。

 あぁ、気色悪りぃ。でも、それは思っても口には出せない。世界によって俺の口はループに不利益な事は言えないようになっているのだから。

 

「あぁ、ループ。やっぱりお前は最高だな!」

「っぁん!ふ、ンン~~っ!」

 

 俺はループの唇を己の口で塞ぐと、そのまま激しく腰を振った。

 相手が先ほどの女ならば、きっとこんな自分本位な行為は許されないのだろう。しかし、相手は男だ。しかも勇者。一見するとヒョロッとして見えるが、その実、ループの体はとてもしっかりしている。

 

 さすが勇者だ!おかげで多少乱暴に扱っても壊れる事もない!

 

「ん゛っ。っふっぅぅ!!!」

 

 配慮の欠片もない激しい行為に、ループは目に涙を浮かべながら、それでも嬉しそうに俺を見ていた。頭上の数字は変らず「100」。何をしても、ループの俺に対する感情は一切ブレない。

 震える腰を押さえつけ、亀頭を奥の奥まで叩き付ける。ループの口から吐き出される筈だった矯声は、俺が全部飲み込んでやった。あぁ、熱い。そろそろイきそうだ。

 

「っぁーー……はぁっ」

「っはぁ、っぁン……かみゅ」

 

 溜まっていた欲求不満の熱をループの中に擦り付けるように小刻みに腰を振る。すると、ループはぼんやりした表情を浮かべながら、俺の首筋に吸い込まれるように舌を這わせた。

 どうやら、また〝いつもの〟が始まったようだ。

 

「ン、っふぅ……ん」

「ループ?」

 

 ループは行為の最中、必ず俺の首筋から胸にかけて浮かぶ痣に舌を這わせる。

 その痣は、ループを庇う時に負う傷とまったく同じ場所にあるのだ。不思議な事に、記録を残すように俺は同じ場所に痣を付けて生まれてくる。しかも、ソレは回数を重ねる度に色が濃くなっているようだった。

 

「ん、ンン」

 

 そんな傷痕を、ループはいつも子犬が甘えるように舐めてくる。傷を見る目は、いつもどこか苦しそうだ。

 何も知らないボケ勇者の癖に。でも、その顔も悪くないと思った。

 

「っはは、くすぐったいぞ。ループ」

「ん、もう少し」

 

 でも、一心不乱に傷を舐めてくるループの姿も、ある意味最高に気持ち良かった。きっと今回もループは最高の絶望と泣き顔を見せてくれるに違いない。俺の人生は世界に握られているが、ループの絶望は俺が握っている。

 

 己の死に対して、自分以上に絶望してくれるヤツが居るというのは、悪くない人生じゃないか。

 

「あぁ、ループ。お前は本当に最高だな」

 

 一度目の俺が純粋な気持ちでループに伝えていた言葉を、まさかこんなに淀んだ気持ちで言うようになるなんて。もう、あの真っすぐな頃の俺には戻れない。

 俺はループの無防備な喉笛に吸い込まれるように噛みついた。

 

「っぁ。な、なんだ?カミュ、どうした?」

「……いいや、ちょっと噛みつきたくなっただけだ」

「っふふ、カミュ。犬みたいだな」

「確かに、そうかもな!」

 

 そうだ。まったくもってその通りだよ!俺はお前の人生を先に進める為だけに用意された犬死に野郎だ!

 

「ほんと、その通りだよ」

 

 ループが憎い。憎くて憎くて堪らない!俺はループのせいで死んだ。何回も何回も、数えきれないくらいの人生を無為にさせられた。そして、なにより——。

 

「俺を置いて……先に行きやがって」

 

 どうせ泣くだけ泣いて、俺の人生をアッサリ諦めたんだろう。知ってるさ。お前は世界を救う勇者様だもんな。どんな絶望の中でも光を見つけられる。そのキラキラと輝く目は、いつだって〝未来〟しか見ていない。

 

 それが、俺にはどうしても許せない。

 

「——————」

 今度は、お前が俺の為に死ねよ。

 

 そう口にした筈の言葉は、俺の喉の奥でまるで無かったかのように消えていった——

 

 筈だったのに。