15:初めての出会い

 

 カミュが死んだ。

 

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ループ、諦めなければ……運は必ず、巡ってくる。だから諦めるなよ。

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『えぇぇぇっ!?』

 

 忘れもしない。小学三年生の時。俺が九歳の頃の話だ。

 

 まさか、あのカミュが死ぬなんて信じられなかった。

 だって、ずっと一緒に魔王を倒そうって約束していたのに、こんな中途半端なところでカミュが死ぬはずない!これは何かの間違いだ!

 

『そうだ!回復薬を使って生き返らせればいいんだ!それか、セゾニアの回復魔法で……』

 

 そう、ゲームの世界では戦闘不能になっても、ちゃんと生き返らせる方法がある。だから大丈夫、大丈夫。そんな風に自分に言い聞かせながら、イベントムービーが終わった後、急いでメニュー画面を開いた。

 メニュー画面には、仲間達の情報が載っている。一番上は主人公の「ループ」。そして二番目は必ず一番のお気に入りである「カミュ」を並べていたのに。

 

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ループ  レベル63

セゾニア レベル60

ユリア  レベル59

シピオン レベル61

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『……なんで?』

 

 カミュの名前は、どこには無かった。

 

『お、お、おれ。なんか間違っちゃったかな?』

 

 そうだ。きっとそうに違いない。俺はゲームが下手くそだから、きっと途中の選択肢とか、取っておかなきゃいけないアイテムを取り忘れたとか、そういう間違いをしてしまったんだ。

 

 そう思った俺は、カミュが死んだ所からゲームを切って、もう一度最初からやり直した。

 

『ごめんな、カミュ。次は絶対に死なせないから!』

 

 だって、カミュと約束したんだ。最後まで一緒だって。

 それから俺は世界ではなく、カミュを救う旅に出た。

 

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俺の名前はカミュという!お前、強いな!最高じゃないか!!そうだ、村を救ってくれた礼と言ってはなんだが、俺もお前の魔王討伐の旅に同行させてくれ!

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 ゲームを切ると、同じようにカミュに会う事が出来た。変わらない元気な姿に、凄くホッとする。

 良かった。やっぱりカミュは死んでない!カミュはここに居る!

 

『死なないように、カミュには一番強い装備を付けておこう!』

 

 そうやって、カミュが死なない為にはどうしたらいいか、九歳の俺は必死に考えた。イベントの取り漏らしがないか丁寧に旅を進めたし。ループとカミュの協力技だって全部覚えた。好感度が足りないのかもと思って、カミュだけは絶対に最高値の「100」を目指した。

 

 そうやって何度も何度も物語を繰り返していくうちに、一回目の時よりどんどんカミュを好きになった。でも——。

 

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ループ、諦めなければ……運は必ず、巡ってくる。だから諦めるなよ。

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『カミュ。また死んじゃった』

 

 何回やってもカミュは死んだ。さすがの俺だって、何回か試すうちに気付いていた。

 

——カミュ?アイツ生き返ったりしないぜ?

 

『……そんなの、知ってるよ』

 

 カミュが死ぬのは、物語上決められた事だ。だから、何をどうやってもカミュと一緒に魔王を倒しに行くのは無理なんだって、ちゃんと分かっていた。でも、俺は手を止めなかった。

 そう、気付いた頃にはまたしても旅の目的が変わっていたのだ。

 

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俺の名前はカミュという!お前、強いな!良いじゃないか!そうだ、村を救ってくれた礼と言ってはなんだが、俺もお前の旅に同行しよう!

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『知ってるよ、お前が良いヤツって事も全部知ってる』

 

 そう、俺はカミュを救いたかったワケじゃない。ただ、会いたかった。また一緒に旅がしたかった。ただ、それだけ。

 

「そうでもなきゃ、毎回死ぬカミュを見るためだけに、百回も同じ物語をやり直そうなんて思わないわな」

 

 リメイクが出るまでの十年間で、すっかり忘れていた。それを、カミュの死ぬほど悲しそうな顔を見て、やっと思い出す事が出来た。

 

——どうして……こんなに、耐え難いんだ。

 

「自分が死ぬ時より、俺が死ぬ時の方が辛そうなんてさ。どんだけ良いヤツなんだ」

 

 初めてプレイした時から、欠片も変わらない。ずっとずっと良いヤツ。俺の初めての仲間。

 

『カリギュラで一番好きなのはカミュ!だって面白くて格好良いし!それに強いから!』

 

 その通りだ、九歳の俺!

 あの頃は、親にも友達にもずっとカミュの話をしたよな。あんまり言い過ぎて、皆がウンザリしてたのは知ってる。たかがゲームのキャラだろって。実在しないヤツだぞって。

 でも、そんなの「好き」って気持ちに関係あるか?いいや、関係ないね!

 

「だからさ、カミュ。俺はまたお前と旅がしたいよ」

 

 俺は首筋に残る、それまでの周回プレイには無かった薄い青紫色の痣に触れると、101回目の物語をスタートさせた。