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そうこうしているうちに一学期も終わりに差し掛かった。
「なぁ、光!今日は放課後何する~?」
「む、今日か?」
「そそ!また何かおもしれぇ事やろうぜ!」
気づけば、光君は自然とクラスの中心に居座るようになっていた。
昼休みには「アニメのコラボカラオケに行こう!」と空気のようにクラスメイト全員を巻き込んでいくし、授業後には教室のプロジェクターを勝手に使ってアニメ上映会を始めたりする始末だ。
そんな光君に、クラスメイト達は「やっぱ光っておもれ~」と全力で光の発言や言動に爆笑していた。さすが、ギャル。ノリの良さは人種……いやジャンルの壁をサラリと超えた。
「なぁなぁ、光!こないだみたいに、リアルガチャ開封動画やろうや?あの時の動画すっげぇバズってたし!」
「確かに!あん時の光の反応ヤバ過ぎてチャンネル登録も一気に増えたしな!?このまま伸びたらぜってー収益化出来るって!な!?」
そのうち、クラスメイトの一人が「クラスチャンネル開設しようぜ~」と動画サイトにクラスの放課後を垂れ流す動画配信を開始。
そして、そのチャンネル内でも光は一際目を引いていた。ギャルたちの中で明らかなオタクルックの光が、クラスメイト達の中で大立ち回りをする様子は、じわじわとチャンネル内でも人気が集まり、いまや光君はクラスでもネット界でも謎の人気を誇っていた。
「ふーむ、確かに。しかし、開封は魂の儀式だからな。本来なら厳粛に行わねばならないモノだからな……」
俺はというと、光君のアニメ談議についていこうと、家で必死に光のオススメしてきたアニメを見まくる日々。最初はついていくのがしんどかったけど、気づけばその世界観に少しずつハマっている自分がいた。
とはいえ、大人数はやっぱり苦手だし、注目を浴びるのも嫌だ。光と二人で話すのは悪くないけど、教室でみんなに囲まれてアニメの話をするのは、まだ慣れない。
だって、毎回光が俺に「さぁ、空はどう思う!俺に聞かせてくれ、お前の魂の調べ(感想)を!」と話を振ってくるからである。もうあれには毎度、心臓がキュッをキュッとさせられる。
こうして、気づけば一学期の終わり。
俺は光君の暴走に巻き込まれつつ、今日も教室の隅でアニメの続きを必死に見るという完璧な「アニメオタク」になっていたのである。
そんな俺に対し、光君はというと、ギャルたちの手によって洗練されたオシャレ男子に生まれ変わっていた。重たく見えた前髪は上げられ、耳元に流れる髪は軽やかに整えられている。さらに、アクセが映える制服姿は、まるで雑誌のモデルのように垢ぬけていた。
「ふむ、今日はクラスチャンネルは休みだ!」
「うわっ!」
すると、放課後の遊びについてクラスメイトから寄ってたかられていた光君が、突然俺の肩をグイッと抱き寄せてきた。
「空よ、今日の放課後はお前と二人だけで特別な時間を過ごすのだ。運命がそう告げている!」
「っ!?」
そう、ずっと俺は光君の隣にいたのだ。俺が無意識に隅っこによっていこうとするたびに、光君の熱い手が引き戻してくるもんだからクラスメイトからも俺達は「ニコイチ」呼ばわりだ。おかげで、俺は特に労せずしてボッチにならずに済んでいる。
「久々に二人で静かに開封の儀をしようじゃないか!いいだろ!魂の盟友よ!」
「わ、分かった」
そう言ってこちらを見下ろす光君の姿は、入学時に見せていた野暮ったいゴリゴリのオタクとはとても思えない。
ある日「光ビフォーアフター」とかいうチャンネル企画で、クラスメイト達に改造され始めてから、光君は日に日に変化——いや、進化していった。
それからだ、チャンネル登録者数に女の子らしきアカウントからのフォローが増え始めたのは。
「やはり、ガチャの開封は空と二人が至高だ!魂を揺さぶるこの厳かな時間を共有できるのだからな!」
なんだよ、厳かって。
まぁ、俺と二人だと静かに過ごせるって言いたいだけだろうが。
光君の言葉に、クラスメイト達から「えぇぇぇ!俺達も仲間に入れろよー!」と不満気な声が上がる。どうやら、彼らからすると光君が居る方が「メイン」になるらしい。
なんでイケメンギャルが、オタクの仲間に入りたがるんだよ。どんな世界観だ、意味が分からん。
「光君、わかったから。暑いし少し離れ……」
「さぁ、行こう!我らの運命を分かつ審判の場へ!」
「ぐふっ」
もう俺の話なんか聞いちゃいない。夏なんだし、ほんと勘弁して欲しい。
そう思って俺の肩を組んでくる光君の方を見ると、最早オタクとは言えない、クラスメイト達に負けず劣らずお洒落で格好良い姿をしていた。