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次の日の放課後、教室はいつものようにざわざわしていた。
「なぁ光、今日はどこ行く?カラオケ?それともまたゲーセン?」
「なー、今日でっけぇUFOキャッチャーに挑戦してみね?」
クラスメイト達が口々に遊びの提案をする中、光君は悠然と立ち上がり、俺の肩をポンと叩いた。
「すまない!今日は空と大切な予定があるのだ!」
その一言で、クラスのざわめきは一瞬止まり、次の瞬間には「なんだそれ~」「またかよ~」「もー、ぜってー付き合ってんだろお前らぁ!」と軽いブーイングと笑い声が飛び交う。
光君はそのまま俺の腕を引っ張り、教室を出た。
「なに?今日もガチャすんの?」
「ガチャ?違うな。これは、俺とお前が共に過ごす〝神聖なる儀式〟の時間だ!」
そう言って、光君は俺の手をグイグイ引っ張りながら先へ進んでいく。光君は俺と二人で遊ぶときは、決まって大袈裟に表現してくるので基本スルーする事にしている。
そんなこんなしながら彼に連れて行かれた先。それは光君の家だった。
光君の部屋に行くのはこれが初めてではない。むしろ、俺は結構な頻度で彼の部屋に足を運んでいる。
なんだ、今日はゲームの日か。そう思って光君の部屋の扉を開けた時だった。
「っへ!?」
「も~、光ってば自分が呼んどいておそーい!」
「ほんと、待ちくたびれたしぃ」
そこには、ギャルっぽい女の子が二人、リラックスした様子で座っていたのだ。一人は明るい茶髪のボブヘアで、薄くオレンジ色のグロスが光る唇が目を引く。もう一人は金髪のポニーテールで、大きなフープピアスが揺れていて、どこかモデルみたいな雰囲気をまとっている。どっちも普通に可愛い。
あと足を開いて座ってるせいで、普通にパンツが見えてる。
え、なになに!?これ、どんな状況!?なんで、光君の部屋に女の子が居るの!?
「あ!キミが空君ね!光が超推してたから会えて嬉しいわ~!」
「ねぇねぇ、光から聞いたけど、空くんって純粋らしいじゃん?ちょっと楽しみなんだけどぉ!」
何やら二人のギャルが挑発的な笑みでこっちを見ていた。
俺が戸惑っていると、光君は軽く肩をすくめ、悪びれる様子もなく言い放った。
「ひ、光君。な、何これ……?」
「何って、昨日空が言ったんだろう?俺に置いていかれたくないから一緒にセックスをしたい、と!」
「……は?いや、俺そんなつもりじゃ」
ああ、そうだよ!ってか、俺はそんな事は言ってねぇし!俺は彼女が欲しいから女の子を紹介してって言ったんだ!それを——。
「空!俺の魂の盟友よ!俺はお前を置いていかない!一緒に四人でセックスをしようじゃないか!」
いやいやいや!こんなの、意訳も甚だし過ぎる!
しかし、戸惑う俺とは裏腹に光君はいつもの強引な手つきで俺の肩をガシリと抱くと、そのまま俺を彼女達の元へと連れて行った。
「空、今からでも遅くはない!俺と共にイこう!」
どこにだよ!?なんてツッコむ暇もなく、俺の目の前には「ほらほら~」と手招きするギャル二人。
うっ、可愛いけど。香水の匂いがキツ過ぎて気持悪くなってきた。
「っぁ、えっと……」
「よしよし、こっち来な~。空君」
「だいじょぶ、だいじょうぶ。痛くしないから~」
「うっ、うわっ」
気が付くと、俺は女の子に引っ張られてベッドの上に居た。甘すぎる匂いと、視界に映り込む女の子の胸の谷間に、ドキドキ……というか、息が止まりそうだ。え、これなんか無理なんだけど。
「あ……、ひ、光君は?」
「大丈夫だ、俺もここに居るからな!」
迫りくるギャルに、とっさに光君を探してしまった。情けないが、もうそんな事を言ってる余裕が俺には欠片も無い。
するとそこには、カチャカチャとベルトを緩めていた光君の姿。な、慣れている。
「空、セックスなんてゲームと同じだ。一人でヤる時は大したモノではないと思ったが、今日はお前と一緒にヤれると思って、楽しみにしてたんだ!」
「っ、あう……ひ、光君」
しかも既にシャツを脱いだ上半身の体は、俺とは比べ物にならないくらい引き締まっていて格好良かった。
あぁ、クソ。いつの間にこんな……ちょっと前まで、俺よりモサいオタクルックだったのに。
けど新作限定ガチャの為に、週末片道20キロくらいチャリを走らせると言っていたので、この体なのは昔からなのだろうが。
「っはぁ……っはぁ」
もう、この時の俺ときたら、冷房の効いた部屋の中にもかかわらず、凄まじい汗が噴き出していた。きっと顔なんてずっと真っ赤だっただろう。女の子二人はそんな俺を見て、「空君、真っ赤じゃん!」「も~、初心過ぎてウケる~」とクスクス笑っている。
本当は逃げ出したかった。
でも、頭の片隅に過る「こ、これを断ったら、一生童貞かも……」という言葉に、俺はグッと堪えた。それに、光君がわざわざ俺の為に用意してくれた場だ。さすがに、ここで逃げ出したら、もしかしたら怒って、もう仲良くしてくれないかもしれない。
「さぁ、空!俺と共に〝神聖なる儀式〟を始めようか!」
光君のあまりの色っぽい姿に、俺はもうギュッと目を瞑って頷く事しか出来なかった。
「う、う、う、うん!!」
何はどうあれ、今日、俺はここで童貞を卒業するんだ!