7話:魂の……

 

◇◆◇

 

 気が付くと、俺は二年生になっていた。

 

「空!空、空空空空っ!空はどこだっ、どこに居るーーー!?」

「ちょっ、居る!居るから!ここに居ますっ!」

 

 光君の声が教室中に響き渡った。二年になってクラスが離れた俺と光君だったが、俺は「ぼっち」になっていない。なにせ、休み時間になると、この調子で光君が俺のクラスに乗り込んでくるからだ。

 

「あぁっ、そんなところに居た!俺の魂の番!探したぞ!」

「っぁ、あ!」

 

 いや、そんなことわざわざ宣言しなくていいから!俺はとっさに顔を覆ったが、すでにクラスメイトたちの視線は一斉にこちらに向いていた。

 

「お前ら、まぁたイチャついてんのかよ!」

「マジで仲良すぎじゃね?もう付き合っちゃえよ!」

「いや、もう付き合ってんだろ?だってほら、その……タマシイの……なんだっけ?」

「魂の番だ!」

「ソレ!」

 

 光君の登場に、俺のクラスは笑いと冷やかしで包まれた。

 俺達の存在は上の学年にも下の学年にも知れ渡っている。おかげで、廊下を歩くと誰かしらに「あ、魂のツガイのヤツらだ!」と言われるほどに。

 

 くそう。俺、目立つの好きじゃねぇのに。

 

「空、何を考えてた!?」

 

 そんな俺に、容赦なく前の席に腰を下ろした光君は一年の時よりも更にお洒落に垢ぬけた姿で、俺の顔を覗き込んできた。

 髪色はほんのり赤茶色に染まり、耳にはピアスが輝いている。さらに、リップクリームを使い始めたのか、唇がほんのり艶めき、さりげなく目を引いている。

 

 くそ、オタクのくせに死ぬほど格好良いってなんだよ!身長まで伸びやがって!俺は去年から何も変わってねぇってのに!

 

「別に何も考えてねぇし」

「そうか?俺の事を考えている顔をしていると思ったがな!」

「……」

 

 恥ずかし気もなくそんな事を言う光君に、俺は更に体を小さくした。

 コイツの声はいちいちデカ過ぎるんだよ!しかも、あながち間違ってないのが更に恥ずかしい。

 

「空、今夜も俺の部屋に来るだろう?お前を迎える準備は万全だぞ」

 

 俺を迎える準備、と言われた瞬間、顔が熱くなる。こういう時、光君のこの中二っぽい婉曲した言葉遣いは不幸中の幸いだったと思う。だって、そうじゃなければ多分凄い卑猥な言葉を明け透けに、そして恥ずかし気もなくクラス中に響き渡る声で放っていたはずなので。

 

「ほら、どうするんだ?空?」

「……い、行く」

 

 光君の手が俺の肩を抱きながら問うてくる。やっぱりその手は死ぬほど熱かった。

 あれ、今熱いのって光君の手なのか、俺の体の方なのか。どっちだ?

 

「そうだ、そうだ!やっぱりお前の体も俺を求めてるって思ってたんだ!」

「そういうこと、大声で言うなって!」

「何を照れている!あ、そうか。夜まで我慢できないってことだな?ならば今すぐ、二人だけの〝神聖なる儀式〟を執り行うための隠れ家へ向かってもいいが?」

 

 隠れ家ってただのトイレの個室なのだが。

 「さすがにソレはねぇよ」と呆れたように言ってやろうとしたが、気付いた時には「……いく」と頷いていた。

 

「そう言ってくれると思った!では、行こう!空」

「……うん」

 

 二人で連れだって教室を出る俺達に、クラスメイトが一人——佐藤が「空!センセーには、腹痛くて帰ったって言っといてやるからなー!」と声をかけてくれた。

 

「あ、ありがと!佐藤!」

 

 あぁ、佐藤。本当にいいヤツ過ぎる。

 

 佐藤は、初日に「彼女の家に親が居たけど頑張った」と言っていたアイツだ。その後も佐藤の武勇伝は色々聞かせてもらったが、何故かいつも「いや、お前には負けるよ」と、童貞の俺に対しても嫌味なく謙遜してくる。

 お洒落で格好良い上に、色々謙虚で良いヤツだ。おかげで今では、俺ともけっこう仲が良い方だ。

 

「空、俺以外を見るな!俺に集中しろ!お前の魂の番は誰だ!」

 

 佐藤の事をしみじみ「良いヤツだなぁ」なんて考えていると、熱い手が俺の肩をグッと引き寄せて来た。

 

「……分かってるって」

「誰だと聞いてるんだ!ちゃんと名前を言ってみろ!?」

 

 しつこく耳元で叫んでくる光君に、俺は無自覚に体をもたれかけさせながら言う。

 

「光君」

 

 俺がそう言うと、最初に名前を呼んだ時と同じように満足そうな表情を浮かべる光君がそこには居た。顔は垢ぬけて格好良くなったが、その目は、重たい前髪の隙間から俺を見て目を輝かせていたあの日と何ら変わっていない。

 

 ボッチは嫌だと思っていた俺の高校生活は、「魂の番」のお陰で、欠片もぼっちになる暇はなさそうだ。

 

 

 

おわり
(番外編につづく!)
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1日1万字で書き上げよう企画(ぼっち企画)で書いたお話でした。
(結局、1万字じゃ収まらなかったけれども)

 

多分、卒業式の日に「じゃあまたな(とか言って、もう会う事ないんだろうな)」と切なげに手を振る空に、光は無理やり自分の立ち上げた会社(ネット系のベンチャー)に就職させて、ずっと隣に置いておくと思う。そのうちハイスペ社長×平凡社員の社内公認王道CPみたいになっていく。

ほら、魂の番なので!!!