62:怒り

 

———

——-

—-

 

 僕は今、久々に怒っている。あぁ、怒っている。

 

 誰にかって。そりゃあ、ここまで僕の気持ちを乱高下させる事の出来る人間なんて、この世にたった一人だ。

 

 

『イン、なんでまた髪の毛が濡れてるんだ?』

 

 

 今日は3人で大人になる為の薬を作る薬草を探しに行こうと約束した日だ。そして、いつもの約束の時間。そこに現れたフロム、そしてイン。

 

 フロムは隣に立つインの姿を苦々し気に横目に見つつ、どうしたものかと困ったような表情を浮かべていた。

 

 フロムには悪いが、今日は薬草を取りに行く計画は無しだ。僕は今日こそ本気で怒っている。

 

『イン』

『えっと、その話すと長くて、だから、えっと』

『イン?大丈夫。僕は頭が良いからね、長くても全部聞けるし、覚えられる』

 

 僕は今自分がどんな顔をしているのか、自分自身さえよくわかっていなかった。

ただ、ひとまず口角は上がっているような気がする。なんでだろう。怒っているのに、僕はどうやら、今笑っているみたいだ。

 

—–さぁ、どうぞ?

 

 僕は言い訳だってちゃんと聞くさ。インの言葉なら最後まで黙って聞く。インが話し終わったら、そこからが僕の話の始まりだ。

 

 君には一体どう言えば伝わるのか。インの長い言い訳を聞きながら考えるのもいいじゃないか。

 

 ねぇ、イン?