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「だーから!ちげーよ!それはちげー!お前は何もわかってねーよ!おこちゃまが!」
「ちがくねーよ!絶対ちがくない!ビッチウケは、もっと素直になるべきなんだ!なんで好きなのに、いっつも『俺はお前以外にも男はいっぱいいるんだ』みたな態度取るんだ?訳わかんねーよ!見ててイライラする!ハラグロゼメが可哀想だろ!」
「ちがうちがうちがう!お前マジでわかってねーな!?ほんと何読んでんだよ!?サラッと表面だけ読んでるんじゃねーよ!もっと!こう!あいつらの腹の底まで読み取れ!ハラグロゼメの言ってる台詞だけに騙されてるんじゃねぇ!ハラグロゼメはそのビッチウケの性格分かってて、あそこで敢えて引いてるんだよ!?わかんねーの!?精神的優位に立ってんのは、むしろハラグロゼメの方じゃんか!分かれよ!?可哀想なのどっちだよ!?」
「~~~っ!意味わかんない事ばっか言いやがって!くそ!これじゃあ、埒が明かないな!アバブが言ってた!こういうのをカイシャクチガイって言うんだ!カイシャクチガイは最後には殺し合いに繋がるんだぞ!俺はお前に訂正を求める!」
「いいぜ!?俺は断固として俺の意見は曲げないね!?さぁ、かかってこいよ!?」
俺とバイは今日も今日とて酒も飲まずに熱い議論を交わしていた。それぞれの中にある“譲れないもの”をかけて、互いににらみを利かせているのだ。
こんなに絶対に負けられない戦いは、人生で初めてかもしれない。
「酒の一気飲みで勝負な!?負けた方はカイシャクチガイを改める為に、相手の意見に従うこと!」
「アウト!お前ふざけんな!?ぜってー俺が負ける方法選びやがって!?男なら拳で来い!返り討ちにしてやるよ!」
「嫌だよ!そんな事したら俺が負けるじゃんか!?ここは酒場だ!酒場らしい決着の付け方ってものがあるだろ!」
「ちっげぇよ!男なら拳だろうが!その腕っぷしで全てを手にしてこそ、男ってもんだ!」
そもそもカイシャクチガイで互いの意見の是を勝ち取る議論をしていたのに、今度はその議論の勝敗を決する方法をどうするかで俺達は揉め始めていた。
このままでは、本来の議論の勝敗を決する為の勝負の方法を決める為の勝負を……と永遠に目的まで達しないじゃないか!
「一気飲み!」
「拳!」
「どちらも駄目に決まっているだろう」
そんな俺達に静かに、そして冷水のようにぶちかけられる声が放たれた。それは、俺達二人にとっての“和らぎ水”であり“追い水”でもある。
「「え」」
同時多発的に放たれた間の抜けた戸惑いの声に、その声は更に重ねて言った。
「どちらも駄目だ」
そう、俺達が白熱の論争を繰り広げているこの場所は、ウィズの酒場なのであった。