「あれぇ!そこに居るのはアウトじゃないかー!やぁ、やぁ!」
「ん?」
不条理な条理なんて、自分で考えておいて上手い事いうもんだと感心していると、聞き慣れたごきげん愉快な声が一気に此方に近寄ってくるのを感じた。それはまるで風が一気に草原を駆け抜けて頬を撫でていくような感覚に似ていた。
「ヴァイス?」
「そうだよー!休みの日に会うなんて、なんて素敵な偶然なんだろうね!約束してないのに会えるって、とっても素敵な事だよ!今日は良い一日だ!」
やはり、いつ見ても10代の学窓の生徒にしか見えないヴァイスの姿は、やはり夜の闇夜の中で見るより昼間に見る方がずっと彼らしい。そうやってニコニコと俺の方を見て駆け寄ってきたヴァイスに、俺もつられて表情が緩むのを感じた。
「ヴァイスもお出かけ?そういえば、今日は別の芸術活動の日って言ってたね?」
「そうだよー!僕は多忙なんだ!お気に入りの子とのお別れもしてきたし、この後は仲間達と芸術活動に勤しむのさ!あぁ!忙しい忙しい!で?アウトは今日はどうしたの?こちらの、か」
か。
妙な所でヴァイスが固まった。それまでのニコニコと俺だけを見て笑っていたヴァイスの目が、俺の隣に立っていたウィズを視界に入れた瞬間、笑顔のままピシリと固まってしまった。
「ヴァイス?」
「あぁ!いけない!僕は本当に多忙だったんだ!多忙を極めて心を亡くしていた!ウッカリウッカリだよ!じゃ!アウト!また来」
「おい」
ヴァイスが捲し立てるように言葉を放ち終わろうとした時だ。それまで黙っていたウィズが、これまで聞いた事のないような低い声で口を開いた。
「この飲んだくれが。貴様一体アウトとどういう関係だ」
「う、うわぁあぁ!やっぱり!やっぱり見間違えじゃなかったよ!この頭の固ったいカチコチ男!お前のような遊び心の一つもないやつは僕の敵だ!手を離せ!僕に何をする気だー!こわいよー!だーれーかー!」
「おいっ!貴様!その幼いナリで人聞きの悪い事を言うんじゃない!いいか?俺はお前にアウトとどういう関係かと聞いているんだ。すぐ答えろ、さあ!」
俺は目の前で急に始まった謎の騒然とした状況に、俺はと言えばポカンと開いた口を塞ぐ事が出来ずにいた。
これは一体どういう状況だ?二人の様子から察するに、どうやら二人は知り合いのようだが。
ここまで考えて、俺は一昨日の夜ヴァイスが夜の広場で口にしていた言葉を思い出した。
——–今まで研究しか興味のなかった頭の固ったいカチコチ男がさぁ、急にね、昔の記録を暴いて不正の弾糾し始めたからもう、たいへん!
——–僕はいつか彼に、仕事中に携帯しているフラスコの中身が酒だとバラされないか、不安で仕方ないよ!
頭の固いカチコチ男。そう、確かにヴァイスはウィズに対してそう言った。もしや、もしかして。もしかすると――。
「ねぇ、ヴァイス。君ってもしかして神官?」
未だに大声で何かを言い合う二人に、俺は思わず思い浮かんだ言葉をポロリと口にした。その瞬間、それまでウィズに口を尖らせて「芸術と酒の良さが分からない頭カチコチ野郎!」と、彼なりの精一杯と思われる罵声を口にしていたヴァイスの表情が一気に驚愕の色へと染められた。
「もーー!アウトにバレちゃったじゃないか!ちくしょう!このクソ石頭!」
「誰が石頭だ!?俺の質問に答えないか!?この飲んだくれ!」
石頭!飲んだくれ!
そんな殺傷能力のまるでない悪口合戦は、その後もしばらく続く事になるのだが、まぁ、なにはともあれ。
俺の“ぎょうかん”を読む力を最大限発揮してみた所によると、どうやらこの二人は、
とても仲が良いらしい!