(外伝10):金持ち父さん、貧乏父さん(10)

『さぁ、婚姻の宴、第2幕を始めよう!』

 

 

 俺の声が宴の会場の全てに響き渡る。毎晩毎晩、伊達に歌い続けちゃいない!俺の声は、誰にも邪魔させない。会場の、このザワめきさえも凌駕する!

 

『次は婚姻の宴という事で、子供達にも息の合った可愛らしい、番い踊りを披露頂こう!では、まず我が息子、インと踊って貰うのは――』

 

 俺はちょうど、振り上げられたまま固まっていたオブの拳を後ろから掴むと、そのままクルリとオブの体を回してやった。俺は歌も得意だが、躍るのも得意だ。

“導く”のも“追従”も。どちらだって得意さ!

 

『オブ、お前は後で説教だ』

 

 俺はオブの耳元で呟くと、戸惑うオブをそのままインの前へと導いてやった。

 

『え、え?』

『オレト、オドッテ、クダサイ、マセンカ!』

『え?あ、はい。もちろん』

 

 インが頑張って、俺の教えた通り棒読みの台詞を口にする。あぁ、イン。もう少し感情を込めて言えたらよかったけど、お前は要領が良い方ではないからな。

 練習してないのに、よく言えた方だと後で褒めなければ。

 

『さて、もう一組!我が娘ニアと番踊りをしてくれるのは――』

『俺!俺!』

『はい、フロムお前は少し黙るように!ニア!』

 

 そして、もう一方。

 先程まで、オブと何か言い争っていた筈の、あの、夕まぐれの子供。

 けれど、今やそこに立っていたのは、ニアに目を奪われている一人の、恋の奴隷となった少年だけだった。あちゃあ、これはもう完全に落ちたな。

 

 そして、ニアの名を上げた瞬間、会場のどこかで『俺!俺!』とフロムの声が聞こえてくる。こうなる事は予想が付いていた。ついていたので、ここはニアに黙らせてもらおう。

 

『はーい!フロム!あなたと踊るのは、私とのこんいんのうたげの時でいいでしょう?』

『っ!』

『っははは!こりゃあいい!』

『次の宴までに、あんたも踊りを練習しておかなきゃあね!』

 

 ニアの言葉に会場が一気に笑いに包まれた。

子供の微笑ましい無邪気な言葉程、場を和ませるものはない。それにしても、ニアは本当に要領が良い。会場の雰囲気を一気に回復させ、フロムを一発で黙らせた。

 

『では、我が娘、ニアと番踊りをしてくれるのは!初めまして!夕間暮れ時の子供!キミに決めた!』

『は?』

 

 オブと全く同じような顔で戸惑う、その子は、けれどすぐに目の前に現れたニアに肩を揺らした。

 

『わたしといっしょに、踊ってくださいませんか?』

『っは、はい!』

 

 恋は盲目。最早この子供はニアの奴隷だ。最後までニアの、とんでもない番い踊りに付き合ってくれたまえ!

 ニアは絶対に他人に合わせたりしないからな!足を踏まれても文句は言うなよ!

 

『では、最後!この俺、この村の村長である俺が!』

 

 周りから『違うだろうが!?』と、笑いを含んだ言葉が大量に投げつけられる。ともかく、そんな周りなど、俺は一切お構いなしで、似たような顔で戸惑いを見せる、夕と夜を背負った二人の金持ちな男の前へ立った。

 

 未だに夕まぐれの男の手はヨルの胸倉を掴んでいる。いや、しかし、それはもう添えられているだけで、今であればたやすく剥がせるだろう。

 

 

———無理だと言ったら、お前が側に居て助けてくれるのか?

 

 

 あぁ、もちろん!助けるさ!ヨル!なんといっても、お前は俺の“大切”で“大事”だからな!空まで届く素敵なお前を、俺は全力で助ける!

 

『今日初めていらっしゃった客人よ!さて、この俺の素晴らしい歌で、共に踊ってはもらえませんか?』

 

 そう、俺はヨルの胸倉を掴む男に向かって、わざと恭しく頭を下げる。俺は観劇などした事がないので分からないが、きっと舞台に立つとは、こんな気分なのだろう!ワクワクする!

 

『は?』

『は?』

 

 この2つの『は』は夕まぐれ本人とヨルの2人のモノだ。

 夕まぐれの方は『なんで俺がお前なんかと』で、ヨルの方は――。

 

——–なぜ、お前はこうも昼間に俺を避けるんだ!?いい加減にしろ!?

 

 だろうか。

 まぁ、そんなのは良い。今日の俺はお前と踊る為に居る訳ではない。今日の歌は、全てヨルに捧げる歌だ。悪いが主役の4人への歌ではない。

 俺は一瞬だけ、ヨルの方へと目を向けると左目だけ軽く、瞬かせた。

 

———ヨル。今夜、俺と共に踊ってはくれないか?

 

『っ!』

 

 伝わっただろうか。どうだろうか。息を呑むヨルの姿からすると、きっと伝わったのだと信じたい。

 

『さぁ、第2部の幕開けだ!』

 

 そして、次の瞬間、俺は片方の手をヨルを拘束する夕まぐれの手元へ、そしてもう片方の手でオポジット達へと向け合図を送った。送ったと同時に、オポジットの弦が響く。

 

 あぁ、この状況下で、躊躇いなく音を出せるのは、やはりオポジットの度胸は素晴らしい。

 

『よろしく。夕まぐれの君!』

『おいっ!』

 

 俺は夕まぐれの手を引っ張ると、共に宴の席の真ん中まで引っ張った。視界の端で此方を見つめるヨルの、なんとも言えない不機嫌そうな表情。

 

 いかんいかん!あんなのを見ていたら笑ってしまう!

 今はこの男との踊りに集中しなければ!

 

『夕まぐれの君!キミは“導き”と“追従”どちらがいい!』

『おい、コレは、どういう』

『そうか!分かった!なら、俺が導こう!踊りが苦手でも、大丈夫!もうすぐ夜だが怖くない!さぁっ!行こう!俺に付いてくれば、最高の気分にしてやる!』

『はぁっ!?』

 

———-営みを続ける人々よ!さぁ立ち上がれ!今や!戦いは始まった!日常という面白おかしい戦いの日々を!キミは誰と踊り明かそうか!!

 

 

 俺は踊った。歌った。そりゃあもう、楽しかった!

 そして、婚姻の宴も無事終わり、花婿も花嫁も弾けるような笑顔でこの日を終えてくれた。

 

 

『……イデデデデ』

 

 

 ただ、一つだけ問題があったとすれば、あの、夕まぐれの男。

 36回も俺の足を踏みやがった!下手くそか!まったく!!まったく!!!

 

 俺は足の甲が真っ青になっているのを指でつつき、ともかく無事に終わった婚姻の宴にホッと胸を撫でおろした。

 

 

 さて、この足でヨルと、今夜、踊りきれるだろうか。

 

 

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