<小話10>:イン、声変わり熱沈下

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【ヨル、インを説得する】

イン『今日も声変わりしない……』

 

オブ『(イン、元気なさそうだな)』

ヨル『(相当落ち込んでいるようだな)オブ、ちょっと待ってなさい』

オブ『え?あ、はい』

 

ヨル『ちょっといいか』

イン『……ヨルさん』

オブ『(えっ、ちょっ!なに?お父様なに?!)』

イン『あの、ヨルさん。あの、』

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ヨル『どうかしたのか』

イン『オレは子供で“しゅみ”じゃないかもしれないんですけど』

ヨル『(趣味?何を言っているんだ、この子は)』

イン『どうしても大人の声になる方法が知りたいんです』

オブ『声?あっ、そういう事!?』

イン『オブも調べてくれるって言ったけど早くオレも声変わりしたい』

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ヨル『俺も、君の声を“今”変える方法は知らない』

イン『っ!』

ヨル『声変わりは成長過程で必ず起こるものだからだ。ただ、ソレは自分の意思ではどうしようもない』

イン『うう』

ヨル『けれど、俺は思う。イン。君の声は』

 

—–スルー、お前は素晴らしい。

 

ヨル『とても、素晴らしい』

イン『!』

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ヨル『今の君の声は、とても澄んでいて聞き心地が良い。まるで春風のように、暖かく、そして軽やかだ。君が、いつか声変わりをして、その声を失う日が来ると思うと、俺はとても惜しい気持ちになる。残りの人生で、その声でいられる時間は驚くほど少ない。君は今の自分の声を、もっと大切にして欲しい』

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イン『…ぁぁう』

ヨル『(この反応は、)』

イン『っは、うう』

ヨル『(まるで、アイツそっくりだな)オブ、睨むな』

オブ『睨んでません。見ているだけです』

ヨル『そろそろ、行くぞ。オブ(まったく、子狼とはよく言ったものだ)』

オブ『後で行きますので。先に行って下さい』

ヨル『そうか』

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【説得後、ヨル】

—–ううっ。っう。

 

ヨル『まったく。血は争えんな…ん?』

 

スルー『ララララー、ルルルルー。貴方と一緒なら、なにも怖くない―!』

村人『スルー!近所迷惑だ!黙れ!』

スルー『ぐぬぅ』

 

ヨル『(あぁ。良い歌だ。素晴らしい声だ。スルー)』

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※3月9日は本当に良い歌。

 

 

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【ヨルに声を褒められた後】

オブ『イン?』

イン『うう、うぅ』

オブ『インッ!』

イン『な、なに?オブ』

オブ『(おれはインにこんな顔された事ない。された事ないのに)くそくそくそくそっ』

イン『っな、なに?!オブどうしたの!?』

オブ『そんなにお父様に褒められて嬉しいかよ!そうかよ!』

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イン『…うん、嬉しい。オレは皆やオブが大人の声になるのに、置いていかれてると思ってたから。ヨルさんに、素晴らしいって言ってもらえて、すごく、嬉しかったんだ』

オブ『クソっ!おれだって思ってた!思ってたのに!おれだって、声変わりするならインと一緒が良かったのに!』

イン『オブ…!』

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イン『オブも寂しかった?オレと同じが良かった?オレの声を素晴らしいって思ってくれてた?』

オブ『思ってたよ!お父様より思ってた!全部おれが先に思ってた!』

イン『じゃあ…オブオブオブ』

オブ『っイン?』

イン『オレの子供の声、いっぱい聞かせてあげる!オレもすぐ追いつくから待っててね』

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オブ『…』

イン『あれ?オレがオブにコレをされた時は鼻血が出たのに。もっと言ったら出るかな?』

オブ『イン』

イン『なに?オブっうわ!』

オブ『今すぐ秘密基地に行こう。そこでインの子供の声もっとたくさん聞かせて』

イン『いっ、今から?』

オブ『うん。明日声変わりするかもしれないからね』

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※補足

はいじ「この後、二人は大木の大穴の中で互いの名前を耳元で延々と呼び合う、否、囁き合うという『それ楽しいの……?』という、喫茶店とかでそういう恋人達を見かけたら心底腹立ってくるような事をやったと思われます」

 

 

 

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【オブとインの変な遊び】

イン『お父さん、オレの声。素敵だと思う?』

スルー『っ!ああ!素敵だ!お前の声じゃなきゃ歌えない歌が山程あるしな!』

イン『ふふふ。へへ』

スルー『(ヨルの奴。やってくれたみたいだな)ご機嫌だな!イン!』

オブ『インはいつでもこんなですよ。スルーさん』

スルー『お前はご機嫌斜めだな』

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オブ『別に、おれも普通です』

スルー『ははぁん!オブ!お前、嫉妬してるな?』

オブ『はっ。……ねぇ、イン。さっきの続きやろ』

イン『いいよ!大人の声と子供の声で交互にね!オブ、耳貸して!』

オブ『インの耳も貸して』

スルー『?』

 

イン『オブオブオブ』

オブ『インインイン』

 

スルー『え』

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スルー『なっ、何だそれ!一体何の遊びだ!?説明しろ!』

 

オブ『イン』

イン『オブ』

 

スルー『え?何で何回も互いの耳元で、互いの名前を囁き合うんだ?お、面白いのか?ソレは。なぁ、何か返事しろよ。二人の世界か?そうなのか?』

 

オブ『イン』

イン『オブ』

 

スルー『…なんか、楽しそうだな』

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【真似した大人】

スルー『ヨルヨルヨルヨル!感謝だ!感謝の舞を踊らせてくれ!歌わせてくれ!』

ヨル『な、なんだ。急に』

スルー『とぼけるなよ!インだ!ヨルが何かインに言ってくれたんだろう!?お陰でインの声変わり熱が終わったよ!今は自分の声が好きみたいだ!』

ヨル『あぁ、あれか。役に立てて何よりだ』

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スルー『そして、感謝ついでにもう一つ俺の頼みごとを聞いてくれないか!?』

ヨル『……今度はなんだ?』

スルー『インとオブのしていた遊びが、なんだかよく分からんが楽しそうだったから、俺もやりたいのさ!』

ヨル『あの二人がしている、遊び?』

スルー『そう、まずは俺がヨルの耳元で名を呼ぶ』

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スルー『ヨル』

ヨル『っ!っな、なんだ!?』

スルー『今度は俺の耳元で、俺の名を呼んでくれ』

ヨル『っ何故?!』

スルー『そう言う遊びだ!ほら、その夜みたいな素敵な声で。頼む』

ヨル『…スルー』

スルー『っ!』

ヨル『お前がさせておいて、何故照れる!?』

スルー『声が、す、素敵過ぎだ…』

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ヨル『(っ!一体何がしたいんだ!スルーは!何回も何回も、名前を呼ばせて……!呼ばれて……!)』

 

——ヨル

 

ヨル『っはぁ。未だに、耳が熱いな。(もし、これが……俺の本当の名前を呼ばれていたとしたら…)』

 

——ザン

 

ヨル『っ!っ何なんだ!この遊びは!俺が”遊ばれた“の間違いか!?』

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【思春期オブ編】13歳

オブ『(とうとう自分で手淫してしまった。しかも…インで)はぁっ』

イン『あっ!オブ!今日、秘密基地行かない?』

オブ『今日はちょっと(インの顔が見れない)』

イン『えっ?何で顔を逸らすの…まさか!俺臭い!?ちょっ!体洗ってくる!』

オブ『は!?今、冬!やめろ!』

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【イン声変わりへ】13歳

イン『あ゛っ!オ゛ブー!』

オブ『えっ!?その声。イン具合悪いの!?風邪!?』

イン『ち゛がう゛よ!俺は元気!これ゛は”声変わり“だよ!』

オブ『ああ!インもとうとうだね!』

イン『俺どんな声になるのかな!』

オブ『誤算だ。首都から蓄音機取り寄せておくべきだった』

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はいじ「順調に気持ち悪くなってるオブ」