262:扉が開かれる時

 

『イン、お待たせ。ごめんね。今、迎えに行くからね』

『え、ええ?誰?なに?え?開かない、開かないよ。この部屋は。だって鍵が……』

 

 あぁ!どうすればいい!どうすればいい!

 

 こちらでは少年がインの部屋へと向き直っている。そして、声を掛けられた部屋の中のインが、明らかに今までとは違う調子で慌て始めている。

 もし、扉を開けられるという少年の言葉が本当ならば、俺はここで部屋が開くのを待たねばならない。

 

 待って、出て来たインを捕まえて、そして。

 

「ねぇ、ウィズ?お前、そういえば、お前も持ってたよね?あれと似たようなの」

「……あぁ、まさか。アウト、そこに居るのか」

 

 最早、うわ言のように紡がれる“アウト”という名に、俺の背筋に走る寒気は絶頂を極めた。

 

『あ、あぁ……!』

 

 少年が指さした部屋へ、あの男が一歩ずつ近寄って行く。それを面白そうに眺める、子供のような無邪気な笑みを浮かべる、不思議な風を纏ったような少年。

 けれど、もうこの少年は、次の瞬間。俺にとっては完全に、悪魔と化した。

 

「あははっ!マスターが慌ててる慌ててる!おっもしろい!キミはどっちへ向かう?オブの開けるインの部屋で待ち伏せをして、インと交代する?それとも、」

 

 先程の少年が取り出した懐中時計と似たような時計を、あの男までもが取り出していた。

 

 あれが鍵?笑わせるな。あれはどう見たって時計じゃないか!

 そう言って一蹴して、俺はインの部屋の前で、インを待ち伏せして捕まえるんだ。そして、インと交代を――。

 

「それとも、アウト。君の部屋がウィズによって暴かれるのを、君は黙って見ているかい?」

 

 悪魔の笑みが、俺を捕らえる。インの部屋へとかざされていた懐中時計が、いつの間にか立派な“鍵”になっている。という事は……!

 

「あぁっ、アウト、アウト、アウト」

『やめろ!おいっ!その部屋に近づくな!?聞いてるのか!?』

「アウト、もう。こんな……」

 

 怒鳴る俺に対し、男は一瞬だけ、俺の方へと視線を向けた。その目はどこまでも穏やかで、優しくて。ピシリと、何故か俺の体を止めてしまった。

 

「狭いところに、閉じこもるな」

『っあ、あ、あぁっ!』

 

 男の手にあった懐中時計も、いつの間にか1本の鍵になっていた。ガチャリと、両脇から鍵が開けられる音がする。

 

『っや、やめて、やめて!!』

 

 俺の絶叫と、両脇の扉がバタンと勢いよく開かれたのは、ほぼ、同時だった。

 

 

 その時、俺の閉ざし続けてきた扉は、開かれたのである。

 

 

 

 

 

          ●

 

 

 

 

きみとぼくの冒険。第9巻。第1章

 

 

【開けてごらん】

 

 

 

 

私と王子様は、いっぽいっぽ、光の差す方へと進みます。

となりを歩く王子様は、いつもあの子と居る時は、楽しそうに笑って、たくさんおしゃべりをするのに、今はとても静かです。

 

きっと、あの子の居ない時のこの王子様が、ふだんの王子様であり、大人国の王様の姿でもあるのでしょう。

けれど、私の知っている王子様はいつも笑顔でした。あの子と笑顔で遊んで、冒険して、駆けまわる、普通の男の子です。

 

はやく、はやく、あの子を起こしてあげなければ。

そして、王子様に「ごめんね」を言わせて仲直りさせてあげなければ。

 

そこからやっと、この二人は本当の意味でのお友達になれます。あの子はこれを乗り越えて、きっと少しずつ大人になります。

いそいで大人になんかならなくていいんです。

 

ゆっくり、ゆっくりでいい。

大人になったときに、あの時あんなことがあったねと笑い合える思い出に、今をするためには、まず。

 

目を覚まさなければ。

 

 

そう、私と王子様が光の指し示す最後の扉に手をかけました。ここは、ずっと王子様がひとりぼっちで遊んで居た、月の子供部屋。

 

ここに、あの子が居る。

 

さぁ、あけて!王子様!あの子が待ってますよ!

 

そう、私が王子様に声をかけます。けれど王子様は、なにかを怖がるように、ドアを開けようとしません。

こまりました、私はフクロウなので、王子様が扉を開けてくれなければ、扉を開けられないのです。

 

———-王子様?

 

私が王子様の顔をのぞきこもうとしたときです。

 

部屋の向こうから、とんでもない声が聞こえてきたのです!

 

 

 

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