<小話12>:ヨルの終わりなき自問自答

ツイッターお喋りまとめ

〇金持ち父さん貧乏父さん〇

 

 

 

 

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スルー『夕まぐれ。ぷれしゃこうかいでびゅーで、娘とダンスを踊ると聞いたが』

エア『っ!誰から聞いた』

スルー『お前の息子だ。あれはお前と違ってダンスが上手いな』

エア『ビロウめ、余計な事を…』

スルー『お前、俺達が豊穣夜のダンス練習に誘わなかったら、どうするつもりだったんだ?』

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エア『プレ社交界デビューには、まだ時間がある。帰って最高のダンス講師を付けて練習するつもりだったんだ』

スルー『ふうむ。お前に必要なのは、最高級の先生より娘のビニースとのダンスだろ』

エア『ぐ。ビニースに俺の不甲斐ない姿など見せられるか!』

スルー『なら、丁度良かったじゃないか!』

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エア『何がだ』

スルー『お前らみたいな自惚れ屋は、努力してる所を他人に見られたがらないからな。ニアにとっては村の人間ではない下手くそが必要だったし、お前にとっても娘の知らない下手くそが必要だった!夕まぐれとニアは、似た者同士で丁度お互いに必要な相手だったんだな!それって素敵だ!』

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エア『たしかに。お前の娘は』

スルー『ニアだ』

エア『…』

スルー『そして俺はスルーだ!』

エア『ったく貧乏人の分際で。スルー。お前の娘のニアは俺の娘、ビニースと似ている。口が達者な所も、可愛いところも』

スルー『なあ?女の子は本当に口が達者だ。すぐ言いくるめられる』

エア『違いない』

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長編お喋りシリーズ

【ヨルの自問自答】

前回の「金持ち父さん、貧乏父さん」後

 

ヨル『(俺は……今、普通ではない。明らかにおかしい。頭を撫でられた、よしよしと、子供のように。笑いながら、ずっと。それが、どうして、なぜ。こんな。何でも、出来そうな気分になる。体も軽い、けれど自由も効かないよう、頭がふわふわとする、これは……何だ?)スルーは、俺に一体、何をした』

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ヨル『おかしい。俺はおかしい』

エア『ザン?なんだ、その頭』

ヨル『兄さん。俺は今、頭の整理がついていない。話しかけないでくれ』

エア『こんな時間に帰ってきて頭の整理がつかないって。アレだろ、スルーだろ』

ヨル『(エアがスルーの名を呼ぶ…)今、俺は兄さんを崖から突き落としたい気分だ』

エア『お前、ちょいちょい俺の殺害をほのめかすのをやめろ(コイツのは冗談に聞こえねぇんだよ)』

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※次の日

 

エア『はぁっ~。よく寝た……あ?』

ヨル『なぜ、最近の俺は……なぜ、どういうことだ』

エア『おいっ!ザン!そのボサボサの頭……まさか、お前!昨日の夜からずっとここに座って考え事をしてたのか!?』

ヨル『……もう、朝か』

エア『お、お前。そんな、何を考えてんだよ』

ヨル『…なにを、』

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ヨル『俺は、なにを考えているのか、』

エア『オイオイ。ザン!大丈夫か!?ちょっとおかしいぞ!?』

ヨル『いや、おかしくはない。逆に気分が良いというか、愉快というか…なんだ。人生が、楽しい?』

エア『は?』

ヨル『そう、毎日。何故か、楽しい。何故か。これを何と言えばスッキリするのか』

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エア『!』

ヨル『兄さん、俺はまだ此処で少し考え事をする。朝食は勝手にとっておいてくれ』

エア『…ヘイヘイ。どうせ、考えている時とも”何かわからんが“良い気分、なんだろ?どうぞ好きなだけ考えてろよ』

ヨル『あぁ(…そうだ。考えるだけで良い気分になる、スルー。お前は、一体何者なんだ)』

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※まだまだ続くヨルの自問自答

 

ヨル『(自分の感情が、自分の思うようにならない。それなのに、不愉快ではなく、逆に愉快な気さえする。スルーがいるとそうなる。原因は確実にスルーだ)』

オブ『お父様、おはぅ!どうしたんですか!その頭は!』

ヨル『少し考え事をしているだけだ』

オブ『考え事?』

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ヨル『……オブ』

オブ『は、はい』

ヨル『お前は、こちらに来て変わったな。なぜだ』

オブ『な、なぜ?あの、おれは…その』

ヨル『インか?』

オブ『っはぅ!』

ヨル『オブ、教えて欲しい。インと居る時、お前はどんな気持ちになる』

オブ『っ!(お父様が、俺に教えを請うなんて)』

ヨル『頼む』

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オブ『……インと居る時は、暖かくて、よ、良い気分で。名前を呼ぶだけで、幸せなのに、返事をして、おれの名前を呼んで此方に走ってきてくれるのを見ると、たまらなくなります。逆に、おれではない誰がインの名前を呼んでるのを聞くと至極不愉快で心が乱れる』

ヨル『(……まさに、その通りだ)』

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オブ『インと居ると、今までの人生で当たり前だった筈のおれが、全く作れなくなります。まるで自分を操れなくなってしまうのに、その不自由さが、嫌いではなくて』

ヨル『オブ』

オブ『っす、すみません!ダラダラと訳の分からない事ばかり言って!』

ヨル『まるでその通りだ。勉強になった。感謝する』

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オブ『っ!?(えっ!何事!?な、な、なんだろう!お父様、何かおかしいけど…それでも、う、うれしいっ)』

ヨル『それで、最後に聞きたいんだが』

オブ『はい、おれで分かる事なら、なんでも聞いてくださいっ!』

ヨル『…お前は、何故インにだけ、そのような不可思議な感情になる』

オブ『はぅっ』

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オブ『えっとその(お、お父様…わ、わからないのか?親にこんなに、率直に好きな子の事を明言させられるって…拷問か)』

ヨル『…もしかして』

オブ『っ』

ヨル『お前も、分からないのか?』

オブ『え?』

ヨル『無理もない。お前はまだ子供だ。俺すらこんなに惑っているのだから。仕方のない事だ』

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ヨル『朝から変な事を聞いたな。感謝する。お腹も空いたろう。食事を摂ってきなさい』

オブ『あ、ハイ(え、お父様って、もしかして)』

ヨル『(やはり、あの親子には、何らかの特殊な力があるように思われる。その力が、村人にアイツが変人などと言われる原因だろう)』

オブ『(バカなのか…?)』

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ヨル『(スルーの血が何らかの力を帯びて、子のインにも影響しているのだとしたら…)』

イン『あ!こんにちは!ヨルさん!』

オブ『あ、お父様(まだ何かブツブツ言ってる…)』

ヨル『あぁ、イン。君に一つ聞きたい事があるんだが』

イン『っなんでも聞いてください!』

オブ『(…嬉しそうだな)』

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ヨル『キミは父親から受け継いた特殊な、何か…があったりするのか?』

イン『お父さんから、うけついだもの?もらったものってこと?とくしゅ?』

オブ『他にはない特別なモノってことだよ(お父様、また変な事考えてる)』

ヨル『そうだ』

イン『オレはお父さんから歌をたくさんもらったかなぁ』

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ヨル『歌、か』

イン『あ!うちのお父さんは、歌が上手なんです。あんまりヨルさんみたく、難しい事は知らないけど、たくさん、歌を知ってます』

オブ『確かにね。不思議な歌をいっぱい知ってるよね』

イン『あ!こないだ教えて貰ったのが、大人っぽかったから歌います!』

ヨル・オブ『大人っぽい?』

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イン『あなたが見据えた未来に、私もいたい。鼻先が触れるくらいに、あなたを見つめたい』

オブ・ヨル『!』

イン『張り裂けるほどの痛みを叫びたいのに。わたしあなたに、恋をした花束と一緒に』

ヨル『……』

オブ『ちょっ!待って!』

イン『え?』

オブ『それは…おれの前だけで歌って…』

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※米津玄師さん【Pale Blue】より

 

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イン『なんで?』

オブ『なんでも!イン!秘密基地いこう!』

イン『これは大人の曲だから、ヨルさんが聞かないと。“こい”のうただからね』

オブ『恋は大人だけのモノじゃない!もう行こ!』

イン『何をオブは怒ってるの?』

オブ『なんでインは分からないんだよ!?もう!もう!』

 

ヨル『……恋?』

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スルー『ヨルヨルヨル!考え事は終わったか!?』

ヨル『っ!いや、まだだ』

スルー『まだかぁ。ヨルでも分からないとなると、俺は役に立たんだろうな』

ヨル『(いや、むしろ…)』

スルー『ちゃんと分かっていたら、よしよししてやろうと思っていたが、まだみたいだから』

ヨル『(アレは無しか)』

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スルー『頑張ってるヨルに抱擁をやろう!』

ヨル『っ!』

スルー『おいで!ヨル』

ヨル『ま、待て。少し、考えさせてくれ』

スルー『…もう抱擁はいらないか?』

ヨル『いる』

スルー『なら俺の抱擁を受けながら考えるといい!ほら!』

ヨル『!(…な、なにも考えられない。やはりスルーに原因が)』

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ヨルの自問自答は【金持ち父さん、貧乏父さん】へまだまだ続く。