22:金持ち父さん、貧乏父さん(22)

 

 

『ヨルヨルヨルヨル!今日こそ考え事の答えは分かったか!?』

『いや』

 

 俺は大分痛みも引いて来た足で、クルクルとヨルの周りを回った。最近はずっとヨルは大岩の上には居なくて、その下で待ってくれていたから助かったが、そろそろ俺は岩の上に登りたい気分だ!

 

 それもこれも、俺の足にヨルが毎日“おくすり”を塗ってくれたからだろう。ヨルのくれる“おくすり”と、その後に巻かれる綺麗な布があれば、不思議な事に痛みが引く。

 今では、こうしてクルクルと回れる程だ。やっぱりヨルは凄い!素晴らしい!もしかしたら、医者なのかもしれない!

 

『ヨル!考え事は大変か?辛いか?』

『…………』

 

 あぁ!俺はいつになったらヨルとダンスを踊れるのだろう!

 今日は特に踊りたい。踊りたくて仕方がない。だって、夕まぐれとニアの、あんな素敵なダンスを見せられたのだ。

 

 俺だって!俺だって!と、何度心の中で思ったか知れない。

 オブとインのダンスを思い出してもそうだ。

 俺だって、上手に踊れるんだ!ヨルとなら、きっと上手の上の上で、月までだって行けるに違いないのに!

 

 けれど、今日も今日とてヨルは考え込んでいる。今しがた俺が尋ねた事にすら、考え込む始末。

 

 もう俺はつまらん!つまらない!

 

『ヨル!考え事ばかりで、俺を一人にするな!つまらない!』

『……辛くはない。むしろ少し楽しい程だ』

 

 俺の癇癪と、ヨルの返事は、まさに同時だった。

 え、楽しい?あんなに難しい顔で考え込んでいるのに?あれは楽しい顔なのか?恋の事だから?恋は楽しかったり、嬉しかったりすると、歌でも言っている。

 

 楽しいから、俺を一人にして考え事ばかりするのか!

 

『ヨル!俺は最近、ずっとヨルの考え事が早く終わって、俺と楽しくして欲しいと考えていたが、お前は一人でずっと楽しかったのか!?俺が居なくても楽しかったんだな!?』

『おい、スルー。お前一体、何を』

『俺とダンスもせず!恋の考え事ばかりして!今日は俺が少し怒ったぞ!俺はこんなに毎日ヨルと踊りたくても我慢していたのに!』

『こ、恋?何がどうなっている。スルー、順を追って説明するんだ』

 

 俺は、何故か俺の中のかなりやを真っ黒にされたような気分だった。かなりやの事は見た事がないが、きっと鳥だしぴーちゃんみたいな奴だろう。

 

 あぁ!ヨルもきっと同じように俺と踊りたいと思っていたのに、ヨルは恋の悩みなんかで毎日一人で楽しんで、俺はどうでも良かったのだ!

 俺はてっきり、ヨルは考え事の時、とてもウンウン唸っているので、苦しんでいると思っていたのに、そうじゃなかった!苦しんでると思っていたから、踊りたいのも、ヨルとのお喋りも我慢していたのに!

 

 俺の大切は、ヨルにとってそうでもなかった!俺とのダンスより、恋なのだ!隣にいる俺よりも、恋なのだ!

 

 今、俺のかなりやは、

 

『まっくろだ!まっくろ!』

『スルー?落ち着け』

『あああ!落ち着けない!俺はもうまっくろになったから、今日はもう帰る!じゃあな!俺は怒っているけれど、そうだけれど!また明日な!俺は怒ったけれど、明日は来るからな!じゃあな!』

 

 今日、夕暮れ時の二人のダンス練習の時から、俺はとてもとてもモヤモヤしていたのだ。ニアと夕まぐれは最初は分かりあえていなかったのに、分かり合えた。オブとインも物凄く分かりあえている。

 俺だってヨルとは物凄く分かりあえてるんだぞ!と心の中で、闘っていたのに!

 

 分かりあえてなかった!俺はヨルと分かりあえていなかったのだ!

 コレは素敵じゃない!どんどん地面に行く。サイアクって奴だ!

 

『スルー!』

『あ!』

 

 後ろから慌てて俺の方へと駆けてくるヨルに、俺はハッとした。夕まぐれに言えと言われていた事があったのを、すっかり忘れていたのだ。

 癇癪玉が弾け過ぎて、忘れていたが思い出したので言ってから、じゃあな!をする事にする。

 

『ヨル!それは恋だ!』

『だから、さっきからそれは一体何なんだ!?』

『知らん!恋だ!じゃあな!』

『スルー!』

 

 ヨルが俺の手を掴もうとするが、俺は言いたい事は言えたので、スルリとその手をかわして走った。

 俺の足はとても速い。村一番の速さだ。俺に敵う奴は村には居ないし、居るとしたら狼くらいだ。

 

『スルー!』

 

 ヨルが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 ヨル!お前、そんな大声も出せたのか!ビックリしたぞ!

 

 俺は初めて聞くヨルの張り裂けんばかりの大声に、少しばかり癇癪玉が収まるのを感じると、春の夜風を感じながら、一気に家まで駆け抜けた。

 

 明日。俺はニアと共に夕まぐれのお見送りをする。

 それは、「じゃあな」ではない、本当の「サヨナラ」を言う為のお見送りだ。