『ヨルヨルヨルヨル!今日こそ考え事の答えは分かったか!?』
『いや』
俺は大分痛みも引いて来た足で、クルクルとヨルの周りを回った。最近はずっとヨルは大岩の上には居なくて、その下で待ってくれていたから助かったが、そろそろ俺は岩の上に登りたい気分だ!
それもこれも、俺の足にヨルが毎日“おくすり”を塗ってくれたからだろう。ヨルのくれる“おくすり”と、その後に巻かれる綺麗な布があれば、不思議な事に痛みが引く。
今では、こうしてクルクルと回れる程だ。やっぱりヨルは凄い!素晴らしい!もしかしたら、医者なのかもしれない!
『ヨル!考え事は大変か?辛いか?』
『…………』
あぁ!俺はいつになったらヨルとダンスを踊れるのだろう!
今日は特に踊りたい。踊りたくて仕方がない。だって、夕まぐれとニアの、あんな素敵なダンスを見せられたのだ。
俺だって!俺だって!と、何度心の中で思ったか知れない。
オブとインのダンスを思い出してもそうだ。
俺だって、上手に踊れるんだ!ヨルとなら、きっと上手の上の上で、月までだって行けるに違いないのに!
けれど、今日も今日とてヨルは考え込んでいる。今しがた俺が尋ねた事にすら、考え込む始末。
もう俺はつまらん!つまらない!
『ヨル!考え事ばかりで、俺を一人にするな!つまらない!』
『……辛くはない。むしろ少し楽しい程だ』
俺の癇癪と、ヨルの返事は、まさに同時だった。
え、楽しい?あんなに難しい顔で考え込んでいるのに?あれは楽しい顔なのか?恋の事だから?恋は楽しかったり、嬉しかったりすると、歌でも言っている。
楽しいから、俺を一人にして考え事ばかりするのか!
『ヨル!俺は最近、ずっとヨルの考え事が早く終わって、俺と楽しくして欲しいと考えていたが、お前は一人でずっと楽しかったのか!?俺が居なくても楽しかったんだな!?』
『おい、スルー。お前一体、何を』
『俺とダンスもせず!恋の考え事ばかりして!今日は俺が少し怒ったぞ!俺はこんなに毎日ヨルと踊りたくても我慢していたのに!』
『こ、恋?何がどうなっている。スルー、順を追って説明するんだ』
俺は、何故か俺の中のかなりやを真っ黒にされたような気分だった。かなりやの事は見た事がないが、きっと鳥だしぴーちゃんみたいな奴だろう。
あぁ!ヨルもきっと同じように俺と踊りたいと思っていたのに、ヨルは恋の悩みなんかで毎日一人で楽しんで、俺はどうでも良かったのだ!
俺はてっきり、ヨルは考え事の時、とてもウンウン唸っているので、苦しんでいると思っていたのに、そうじゃなかった!苦しんでると思っていたから、踊りたいのも、ヨルとのお喋りも我慢していたのに!
俺の大切は、ヨルにとってそうでもなかった!俺とのダンスより、恋なのだ!隣にいる俺よりも、恋なのだ!
今、俺のかなりやは、
『まっくろだ!まっくろ!』
『スルー?落ち着け』
『あああ!落ち着けない!俺はもうまっくろになったから、今日はもう帰る!じゃあな!俺は怒っているけれど、そうだけれど!また明日な!俺は怒ったけれど、明日は来るからな!じゃあな!』
今日、夕暮れ時の二人のダンス練習の時から、俺はとてもとてもモヤモヤしていたのだ。ニアと夕まぐれは最初は分かりあえていなかったのに、分かり合えた。オブとインも物凄く分かりあえている。
俺だってヨルとは物凄く分かりあえてるんだぞ!と心の中で、闘っていたのに!
分かりあえてなかった!俺はヨルと分かりあえていなかったのだ!
コレは素敵じゃない!どんどん地面に行く。サイアクって奴だ!
『スルー!』
『あ!』
後ろから慌てて俺の方へと駆けてくるヨルに、俺はハッとした。夕まぐれに言えと言われていた事があったのを、すっかり忘れていたのだ。
癇癪玉が弾け過ぎて、忘れていたが思い出したので言ってから、じゃあな!をする事にする。
『ヨル!それは恋だ!』
『だから、さっきからそれは一体何なんだ!?』
『知らん!恋だ!じゃあな!』
『スルー!』
ヨルが俺の手を掴もうとするが、俺は言いたい事は言えたので、スルリとその手をかわして走った。
俺の足はとても速い。村一番の速さだ。俺に敵う奴は村には居ないし、居るとしたら狼くらいだ。
『スルー!』
ヨルが俺を呼ぶ声が聞こえる。
ヨル!お前、そんな大声も出せたのか!ビックリしたぞ!
俺は初めて聞くヨルの張り裂けんばかりの大声に、少しばかり癇癪玉が収まるのを感じると、春の夜風を感じながら、一気に家まで駆け抜けた。
明日。俺はニアと共に夕まぐれのお見送りをする。
それは、「じゃあな」ではない、本当の「サヨナラ」を言う為のお見送りだ。