『ねぇ、アウト。あれは放っておいていいの?』
『いいよ。もう。言っても聞かないし』
俺はマナの中の俺の酒場で、グイと酒を一気飲みするヴァイスを前にガクリと肩を落とした。今日も俺の酒場は満員御礼。
最近では一度に酒場に来る客も増えたし、そろそろこの酒場も増築しようかと考えている程だ。
『従業員教育も、立派なマスターの仕事だと思うけどなあ』
『だって……』
俺は肩を落としたままチラとヴァイスの見ている方へと視線を向ける。すると、そこには何をするにもインの後ろをついて回り、インと目が合うと、流れるような動作で口付けという合いの手を入れるオブの姿がある。
『いやぁ、さすがウィズの半身だよ。愛が重くて気持ち悪い』
『ヴァイス……あんなのはまだ序の口だよ』
『え、そうなの』
そう、あんな口付けはまだまだ序の口。あの二人、俺が目を離し、客が居なくなるとすぐに店の裏でいかがわしい行為に先んじようとしてくるのだ。
いや、まいった。まいった!
『若いからね。仕方ないね。若いもん』
その俺の言葉で、ヴァイスは何かをすぐに察したのか、飲んでいた酒を静かにテーブルの上へと置いた。
『キモチワルッ』
『そう言わないで……目撃した俺が一番の被害者なんだから』
ヴァイスは再度あの二人に視線を向けると、子供っぽいナリには似合わない、今までの人物像が崩壊せん勢いの言葉を放った。
『今時の若いモンはこれだから』
『……おぉ』
『ったく。あの半身は、ウィズの下半身だったって事かよ。キモチワリィな』
『ヴァイス。やめな。親父臭くなってるよ』
俺の言葉に、ヴァイスは『いっけない!』と口調を戻して片目を瞬かせた。ヴァイスはきっと上手い事を言ったつもりなのだろうが、全然上手くない。
だってウィズの下半身もちゃんと、欲望はしっかり残しているから。
『……だから、一緒に住めないんだ』
俺は正直な心の内をしっかり、この場では口にすると、それを聞いたヴァイスが、とてつもない生暖かい目で此方を見ていた。
『僕から見たら、みーんな、今時の若いモンだよ!』
『そうだろうね』
まぁ、こうして店が忙しいうちは良い。そのうち、この俺の気持ちを絶妙に察知して、タオルのウィズがオブを叱りに来るはずだから。
ほら、来た。
俺は視界の端で、タオルのウィズがオブを無理やりインから引きはがす姿を確認すると、意識をヴァイスの方へと戻した。
『ねぇ、ヴァイス。そんな事より、神官の仕事の方はいいの?』
『え、ちゃんと毎日出勤してるよ?』
『え?そうなの?』
てっきり俺の世界で暮らしているから、もう彼方には居ないとばかり思っていた。
『ちゃんとアウトから僕も出勤してるから、安心しな?さっき、君の寮の部屋に、ここの家賃を置いていったから受け取っておいてね』
『え、そんなの気にしなくていいのに』
俺が本気でヴァイスに向かって両手を振って拒否すると、ヴァイスは楽しそうにニコリと素晴らしい笑みを浮かべた。
『俺の飲みたかった酒を、大量に置いてきたから、アウト!きちんと味わって飲んで、そして明日から酒場の商品に取り入れてくれたまえよ!』
『あ、そういう』
俺はニコニコと笑うヴァイスに、ただただ苦笑するしかなかった。そう、俺の世界は俺の想像できうるもので構成されている。だから、俺の知らないモノはこの世界で再現できないのだ。
『ちゃーんと味わって飲むんだよ!』
『はいはい、分かりました』
俺は部屋に大量に置いてあるだろう酒を想いながら、さて、外の俺にはしっかり仕事を頑張ってもらわねば、と騒がしい店内でひっそりと思ったのだった。