<小話18>:ヨルのどろどろの指輪

【どろどろの指輪】

※長いです。

 

 

—-二人で“試し”泥遊び中

 

スルー『んん?あーっ!!』

ヨル『っ!どうした』

スルー『ヨル!手!手!その手の!指のヤツ!』

ヨル『手?指?なんの事だ。っ、おい!』

 

(スルー、ヨルの手を持ち上げる)

 

スルー『あーぁ、せっかくの、綺麗なキラキラが…どろどろだ』

ヨル『あ、あぁ。指輪の事か』

 

 

スルー『ゆびわ?あのキラキラの事か?…そういえば、インがオブから、そんなヤツの話を聞いたって話していたな』

ヨル『そうなのか』

スルー『なんでも“永遠に一緒にいましょう”を約束するヤツなんだってな!だから、キラキラなのか!素敵だ!』

ヨル『(スルーの目の方が……キラキラしているな)

 

 

スルー『あんなに、キラキラだったのに、こんな泥だらけになってなぁ。かわいそうに』

ヨル『洗えば落ちる。問題ない』

スルー『インが言っていた。魔法のゆびわがあると、フクロウという鳥とも話せるようになる、と』

ヨル『(オブが読んでやっているという、あの本か)』

スルー『だから、かもな』

 

 

スルー『ヨルには、この魔法のゆびわがあるから、俺のような変わり者とも喋ってくれるのかもな!ありがたいな!これは良いモノだ!』

 

——これのお陰で、俺はヨルとこうして遊べる!

 

ヨル『…っ不愉快だ』

スルー『へっ(っ!また、噛まれる!)』

 

スルー『…む?』

ヨル『こんなモノがなくとも』

 

 

スルー『ああっ!!ヨル!やめろ!』

ヨル『こんなモノがなくては、俺がお前と喋れないとでも思っているのかっ!?なら、こんなものはいらん!捨てる!』

スルー『やめろ!それはお前の“永遠に一緒の約束”なんだろ!捨ててはダメだ!』

ヨル『いらんと言ったらいらん!お前と喋る邪魔になるっ!』

 

 

スルー『わ、わ、悪かった!ヨルが優しいから、俺と喋ってくれるのに!それを指輪のお陰なんて言って!』

ヨル『俺は優しくなどないっ!!俺が帝国で何と呼ばれていると思っている!?冷血漢だぞ!?情けも容赦もないと!そう!呼ばれているんだ!そんな俺が優しい訳がないだろうっ!!』

スルー『!』

 

 

スルー『ヨ、ヨルが?それは何かの勘違いじゃないのか?ヨルは少し悪い方に考える所があるから、そう思い込んでいるだけさ!ヨルは優しいじゃないか!』

ヨル『俺は自分が他人から冷たいだの、情け容赦がないと言われる事を気にした事は一度もない。紛れもない事実だからだ』

 

 

スルー『…』

ヨル『なぁ、スルー。俺は決して優しい男ではない。お前は色々と俺については勘違いをしているようだから、この際ハッキリ言っておく。俺は、他人に興味がない。いや、俺は俺自身にも、興味がなかった。父の言う事を黙って聞き、望む成果を上げるだけ。それだけの為に、俺は生きてきた」

 

 

ヨル『そんな俺が、魔法の指輪だか何だか知らんが、そんなモノの力まで使わなければ会話すらできないような相手となど、こうして共に居ようとは思わない。俺はなスルー。お前だからこうして何の気のてらいなく一緒に居るんだ。それに気付かない程、お前は大愚ではない筈だろう』

スルー『…お、俺は』

 

 

スルー『変わり者だから…』

ヨル『お前は、最初に俺に出会った頃は、そんな事は全く気にした様子はなかったぞ。それどころか、自分を素晴らしいと言っていたじゃないか。最近のお前は、あの頃とどう違う?何が変わった?』

スルー『…だって、ヨルが』

ヨル『俺のせいか?(…珍しい表情をするな)』

 

 

スルー『ヨルが村に来る前までは、俺は…変わり者の役立たずだから、別に良かったんだ。だから、俺は俺が素晴らしいと言えば、それで、俺は素晴らしくなれたし…だから、それで頑張れたんだ』

ヨル『(あぁスルー。お前の、あの言葉は…)』

 

—–俺は素晴らしいだろ!

 

ヨル『(ただの、強がりか)』

 

 

スルー『でもな、ヨルが来てから。俺は変わり者の役立たずじゃなくなったんだ』

ヨル『(そうだ、スルー。お前は変わり者でも、役立たずでも…)』

スルー『俺は、変わり者の居るだけで迷惑な奴になった!』

ヨル『…は』

スルー『今までは、役には立たないけど迷惑はかけてこなかった!けど、ヨル!』

 

 

スルー『今の俺は居るだけで、お前に迷惑をかける可能性のあるヤツだ!俺とこうして会っているのがバレたら、お前が村の皆から貰った“信頼”を俺が壊すだろう!俺はっ、それがいっ!!っぶへっ!』

ヨル『スルー!お前は本当にいい加減にしろ!』

スルー『うっ!うわ!ヨル!泥を投げるな!投げるな!』

 

 

ヨル『あぁ!わかった!不愉快だが分かった!お前の考えや不安はよく分かった!!不愉快だ!不愉快だ!クソクソっ!』

スルー『お、怒ったのか?ヨルは凄く怒ったのか?もしかして“試し”遊びは止めて、帰ってしまうか!?』

ヨル『帰らんっ!帰らんが!腹が立つ!俺はどうすればいいんだっ!クソッ!』

 

 

スルー『わかったぞ!ヨル!そんなに腹が立つなら“試し”遊びは一旦止めて泥投げをしよう!』

ヨル『っくそ!っくそ!っくそ!』

スルー『アハハ!俺も投げよう!』

ヨル『(どうしたらいい!俺は一体どうしたらいい!そして、なんで俺は怒っている今も、こんなに楽しいんだ!)』

スルー『あははっ!』

 

 

ヨル『(俺はっ、お前が笑ってるだけで救われるのに!スルー。どうして、俺にお前は救えない!?貧しさのせいかっ!この狭い村の凝り固まった価値観のせいかっ!それを取り除けば、お前は救われるのかっ!俺がお前を此処から連れ出せば解決するのかっ!)』

スルー『楽しい!これは楽しいな!ヨル!』

 

 

——しばらく後。

 

スルー『ヨル。泥がなくなってしまったな』

ヨル『……そうだな』

スルー『また、取りに行くか?』

ヨル『……冗談はよせ。もう実験はあらかた終わった。明日からは、この結果を元に、俺が色々と考える』

スルー『俺も!一緒に考えさせてくれ!楽しそうだ!』

ヨル『……あぁ』

 

 

スルー『あっ!あぁーー!』

ヨル『今度はなんだ(俺は、どうすればいい)』

スルー『ヨル、ゆびわが!指から、ゆびわがなくなってる!』

ヨル『本当だな。まぁ。あんなもの、どうでもいい』

スルー『えっ、永遠に一緒の約束なのにか!?』

ヨル『…はぁ。違う。あれは結婚指輪ではない』

スルー『?』

 

 

ヨル『あれは、うちの一族の正式な血筋である事を証明する指輪だ』

スルー『そ、それは大事じゃないのか?』

ヨル『無くしたら大事だろうな』

スルー『っ!さがそう!まだこの辺りの泥の中にある筈だ!』

ヨル『いい。最早、一族も、父親も、血の盟約も、使命も、どうでもいい。本当に、どうでもいい』

 

 

スルー『投げやりはダメだ!必ず見つかる!』

ヨル『投げやりではない。今、俺にとって重要とすべき事が変わった。それだけだ(スルー以外は、今はどうでもいい)』

スルー『ヨル。もしかして眠いのか?』

ヨル『眠たくなどない』

スルー『っはは!(きっと眠くてぐずっているんだろうな、ヨルは)なら、あと少しだけ喋って帰ろう』

ヨル『…あぁ』

 

スルー『(明日、指輪は俺が探しておいてやろう)』

 

——–一言——-

はいじ「指輪は見つかったのか、否か」