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俺達、雄は種を蒔く。種を蒔いて、子孫を残す。
それこそ、春に種を蒔いて、秋には立派な野菜が育つのと似てる。それと同じで、動物も人間も、雄は種を蒔くのだ。
『インー。種をこの穴に入れろ』
『はーい!』
『土をかぶせろー!』
『はーい!』
それは、雄にとって大事な、大事な役割で“仕事”だ。
種まきは楽しい。毎年、収穫を夢見てインと種を蒔く。優しく土をかぶせて、笑顔で俺を見上げてくるインも、元は俺の種だった。俺の種から、こんなに可愛い子供が“収穫”できた。かわいい、かわいい。大事な俺の息子。
『大きくなーれ、大きくなーれ』
『おいしくなーれ、おいしくなーれ』
こうして二人で、毎年毎年の収穫の時を夢見て種を蒔く。俺達親子は、今日は種まき親子だ。
———スルー。私、子供が出来たみたいよー。
———ええええ!
インがこんなに大きくなる前。インはまだまだ、俺の中にある、小さな小さな種だった。それを、ヴィアと婚姻して、交接して、気付いたら“イン”になっていたのだ!当時俺は、本当にびっくりしたものだ。
———へぇ!本当に“あんな事”で、赤ちゃんが出来るんだなぁ。不思議だなぁ。
種まきの仕方を、誰も教えてくれなかったので、俺はソレを動物達から学んだ。
けど、どうやら動物と人間の女の人は違うみたいで、初めて交接をする時、ヴィアから『スルーは、犬に育てられたみたいね!』と笑われた。
それはそうかもしれない!だって、実際に俺の交接の先生は、近所の犬だったから!
——–なぁ、本当に赤ちゃんが居るのか?ヴィアのお腹はちっとも大きくないぞ?
——–これから大きくなるのよ!スルーは本当になんにも知らないのね!
そう言ってヴィアに笑われたのが、まるで昨日の事のようだ。
あぁ。それはそうと、ヴィアとの交接は、凄く気持ち良かった。あれは、俺にとっての初めての交接……いや“種まき”だったが、うん。とても良い気分だった。
種まきが楽しい事は知っていたが、まさか、人間を作る種まきも、こんなに気持ちが良いとは知らなかった。
でも、それはどんなに気持ちが良くても、どこまで行っても“役割”であり、“しなくてはならない事”だった。
——-ヴィア、お腹が膨らんでるぞ!
——-だから言ったでしょ!少しずつよ、少しずつ!
——-す、すごいな!?
ただ、種を蒔いて立派な野菜が出来た時や、ヴィアのお腹が、少しずつ大きくなって、インが生まれた時は、本当に飛びあがる程嬉しかった。
俺は本当に種を蒔いたんだ!と、ヴィアの大きくなるお腹に、毎日、毎日、そりゃあもうワクワクしたもんだ。
“種まき”と“収穫”は必ず対だ。だから、とても素晴らしいけれど、
けれど、だからこそ、遊びみたいに好きな時に、好きなようには出来ない。
仕事は、しないといけない事。だから、いくら気持ち良くても、一番楽しいかって聞かれたら、俺は『うーん』と悩んでしまう。
———赤ちゃんだー!わーい!
———いたかったわ……。すごく、すごく。いたかった。
———俺の赤ちゃんだー!わーい!わーい!
———……私も、次はぜったいに、男に生まれるわ。だって、こんなの不公平よ。
ヴィアも、次は種を蒔く方がいいらしい。俺は……俺も、次も蒔く方がいい!だって、インとニアを産んでいる時のヴィアは、そこれそ“死ぬ程”痛そうだった。
ヴィアには悪いけど、うん。俺も次も、雄がいい。
———もっと、たくさん種まきがしたいなぁ。
ヴィアには言わないが、俺はよくそう思っていた。でも、我慢我慢。種まきは収穫と対なのだから。収穫できる元気がなければ、してはいけない。
だって、交接は役割を果たす為の“仕事”だ。
俺の家は貧乏だから、たくさん交接して種を蒔いても、収穫してあげられない。大事にできるところまで。それが、仕事。種まきの大事な基本だ。
そんな時だ。ヨルは俺の前に現れた。
『スルー』
『ヨルっ!』
ヨルは首都から来た、お金持ちの“貴族”で、素敵で優しくて、俺の話を聞いてくれる初めての男だった。頭が良くて、夜みたいに静かで、俺を咎めないし、一緒に踊ってくれるし、俺を素晴らしいと言ってくれる。
———スルー、お前は素晴らしい。
———敬愛の念を抱く。
———-スルー。お前が生きて、俺と出会ってくれて本当に良かった。
———-スルー、スルー、あぁっ、スルー!
挙句に、俺の事を知りたいと言って、抱きしめてくれるのだから、俺は毎日毎日、ヨルを好きになってしまって仕方がない。インが、オブと毎日遊んでいるのに、オブを見た瞬間、子犬のように転げ回って駆けだして行く気持ちが、今なら分かる。
『ヨルヨルヨルヨルヨル!!ヨルー!』
『落ち着け。スルー』
凄く、凄く分かる。
すきすきすき。だいすきだ!ヨル!
ヨルが俺を抱き締めて、体中をよしよししてくれるのが、本当に気持ちが良い。
———ヨル。全部、全部によしよしして。
———ああ。消えた傷にも、消えていない傷にも、全部俺がよしよししてやろう。
初めて抱きしめて体中をよしよししてくれたあの日から、俺は事あるごとに服をぬいでは、ヨルによしよしを求めた。ちょっと寒くったって、そんなの気にならない。
俺は服の上からなんかじゃなく、直接、ヨルの手で、よしよしして欲しいのだ。
———よる。よしよしして。
———スルー、お前……。
———ん?
———いや、なんでもない。来い、スルー。
———うん!
俺が草原の上で服を脱ぐ度に、ヨルは眉間に皺を寄せていた。見苦しい傷ばかりの体を、とても見たくない気持ちは分かる。だけど、だって気持ちいいのだ。
ヨルに触って欲しくて触ってほしくて、たまらないのだ。
そうしているうちに、俺は気付いてしまった。
ヨルによしよしをされると、俺の体が交接の前と勘違いをして、種まきの準備をしてしまう事を。けれど、ヨルも俺も雄だ。種を蒔くといっても、どうしようもない。
そう思っていると、どうやらヨルも同じだったようで、ある日、ヨルは言った。
『スルー、お前の中に……入らせて、くれ』
その日もやっぱり眉間の皺が深く刻まれていて。俺はその時初めて分かったのだ。別にヨルは俺の体の傷を見て、見苦しいからそんな顔をしていた訳じゃない事に。
なぁんだ。ヨルもずっと“種まき”がしたかったのか!
ヨルは雄同士でも種まきの真似事が出来る事を教えてくれた。確かに、雄にも一つだけ穴がある。そこを使えばいいのだ、と。ヨルは丁寧に教えてくれたし、丁寧に固いソコをほぐして開いてくれた。
『ヨルは何でも知ってるな!すごいな!』
『……こんな知識、絶対に使うものかと思っていたが』
『ヨルヨルヨル!おかげで、俺達もたくさん種まきごっこが出来るな!遊びだから、仕事じゃないから!きっと楽しいぞ!』
『……スルー、悪い。本当に、すまない。こんな、事を、お前に強いて』
何故、ヨルがこんなにも苦しそうな顔をするのか、俺にはちっとも分からなかった。何が「悪い」のか「すまないのか」。ヨルの手が、俺の穴に優しく触れる度に、ヨルは酷く辛そうな顔をするので、俺は、ともかくヨルをよしよししてやった。
『ヨル、よしよし。気持ちいいぞ。ここにヨルの種が入るのが、楽しみだなぁ!』
『スルー……くそっ、スルー、スルー、するー。早く、』
——–挿れたいっ。
そうやって唸るヨルの姿は、まるで唸る狼のようだった。
『はぁっ、よる?よる?はいったか?これで、ぜんぶか?』
『あぁっ。これで、全部だ。スルー、よくやった。お前は偉い。あぁ、すばらしい。お前の中は、本当に……いい』
そして、俺の穴は、拳のグウがパァになるみたいに、綺麗に開いた。