ヨル×スルー②-1

夏真っ盛りの二人。

ヨル(31)×スルー(28)

※このお話は【小説】となっております。

 

——前書き——

 それまで、羞恥心なんて一切感じていなかったスルーが、自然の摂理(当たり前)に逆らってしまう、自身の体に、そこそこ生まれて初めて並の「はずかしい!」を覚える話。

あと、『雄は雌が恥ずかしがる様子が好き(ヨル談)』そういう話です。

 

※あと、これは一種の別世界線の話としてご覧ください。本筋とは別の、こうIF的なストーリーとして。


 

 

 

 

 俺は“恥ずかしい”が良く分からない。

 

 

『お父さんっ!どうして、オブにあんな事言ったの!?』

『なんだ、なんだ?どうした、イン』

 

 インが急にプンプンと音を立てながら、家に帰って来た。その顔は真っ赤で、どうやら相当怒っているようだ。

 

『今日!オブと一緒に居る時に、お父さん言ったじゃん!オレが風邪引いた時に、いっぱい吐いて漏らしたって!あと、あと!大泣いて大変だったって!』

『あぁ、言ったな?それがどうした?』

 

 うん、確かに言った。丁度オブが居る時に。だって、オブはしっかりしているし、インの面倒をよく見てくれているので、インが風邪を引いたら危ないって事を知っていて欲しかったのだ。出来れば、また冬に川で水浴びでもしそうになったら、止めて欲しい。

 

 もうあんな肝の冷える想いは、二度とごめんだ。だから敢えてオブの居る前で言った。

 なのに――。

 

『恥ずかしいじゃん!なんで言うの!?』

『何が恥ずかしいんだ?風邪を引いたら苦しくて吐くだろうし、子供だったら漏らすし、苦しかったら泣くだろう。普通だ』

『~~~~っ!』

 

 インの顔がどんどん真っ赤になっていく。これは、怒っているからか、恥ずかしいからか。まぁ、両方か。

 

『お父さんはっ!オトコ同士なのに、どうして分かってくれないのっ!?わかってよ!わかれ!!』

『イン!いたっ!ちょっ!なんだ!ちっとも分からん。だって、同じことをフロムに言っても、お前は別に平気そうだったじゃないか。なのに、どうしてオブだと恥ずかしいだ』

『~~~~っ!お父さんなんか、あっち行け!』

 

 そう叫ぶと、何故か「あっちに行け」と叫んだインが、あっちに行った。意味がわからん。いや、本当に。インは、何がどう恥ずかしいと言うんだ。具合が悪ければ、消化不良を起こして吐く。腹を下すのも同じだ。そして、泣くなんて、そりゃあもう、あれだけ高い熱があったのだ。むしろ、泣かずにグッタリされでもしたら、逆に不安が募って、俺が泣いていただろう。

 

『まったく、意味が分からんな』

 

 俺は変わり者だ。変わり者のスルーと呼ばれている。だからだろうか。普通の人間の言う“当たり前”が、イマイチ理解出来ない事がある。

 特に他者の言う言葉の中で、最も分からないのが“恥ずかしい”だ。何をどうすれば“恥ずかしい”のか。俺には一切分からん!

 

排泄も、交接も、誰かを好きになる事も、それら全ては、自然に当たり前に起こるべくして起こる事だ。

 なのに、それらを人々は“恥ずかしい”と口にする。

 

『何故だろうなぁ』

 

 俺には“恥ずかしい”が、よく分からない――

 

 

 筈だった。

 

 

      〇

 

 

『……ね、眠れん』

 

 俺は真夜中に目を覚ました。ちょうど、先程ヨルとの遊びの時間を終えて、ベッドに入ったばかりだというのに。

隣にはスピスピと音を立てて眠るイン。その隣には、ニアとヴィアも居る。うちは貧乏なので、眠る場所も皆で一つだ。けれど、皆で寝た方が冬は暖かいから、とても効率が良い。

 

 まぁ、今は夏なので非常に熱いが。

 

『……っ』

 

 俺は何で眠れないのか、起きた瞬間におおよその察しがついてしまった。何故なら、起きた瞬間に、自身の乳がヒリヒリと、物凄い自己主張をしていたからだ。それに加え、俺の足の間も、種を蒔く準備が始まっている。

 

『ちくしょう……なんでだ』

『むぅ』

 

 俺の呟きが、思ったより大きい声だったのだろう。隣で寝ていたインが、寝がえりをうった。こりゃいかん。このままだと、インを起こしてしまう。

 

『まったく、明日も朝が早いというのに……っはぁ』

 

 なんで。どうして。俺はつい先程まで、ヨルと種まき遊びをしたばかりの筈なのに。なのに、どうして未だに俺の体は、こんなにも熱いのだろう。

 まぁ、俺も雄だ。種を蒔けと体が言うのであれば、蒔くより他ない。俺は不愉快な程、身の内に宿った熱を抱えて、家の戸に手をかけた。出かける瞬間、ぴーちゃんが起きて『いってらっしゃい』と言ってくれる。

 

『……いってきます』

 

 二回目の夜の「いってきます」に変な気持ちを抱えながら、俺は家を出た。家を出て、森を少し超えた先にある川べりへと向かう。夜なら誰も居ないし。ここなら汚れてもすぐに、体を洗い流せるからだ。ヨルが来る前は、俺はいつも此処で、種を蒔いていた。

 

『さて、と』

 

 俺は種を蒔く準備に余念のない自身の、熱の元に触れる。まったく、俺も若い訳でもないのに、どうしてこう何回も種を蒔かせようとするのか。

 

『っは。んっ』

 

 熱に触れて上下に動かす。何回も、何回も。けれど、驚いた事に、先端からは種を出す前に流れる、透明の液体が流れ出るだけで、一切、種が出てこない。苦しい。頭がぼーっとしてきた。

 

『っは、あれ?なんでだ?』

 

 俺は混乱した。こんな事は、初めてだったからだ。しかも、あまり気持ち良くない。

あれ。あれ。あれ。なんで?なんで?なんで?どうしてだ?

 俺は混乱しながら、けれど、本能的に理解した。ここじゃない、と。疼く場所が違うのだ。ここじゃなくて、気持ちが良いのは……先程までヨルが入っていた穴。あとは、

 

『っひ、ぅぅぅ』

 

 俺は川べりで上半身の服を、勢いよく捲し上げると、いつもヨルに口でよしよししてもらっている乳に触れた。最近、どんどん大きくなっている気がする。雄の癖に。赤子に飲ませる乳も出ない癖に。

 

『っは、ぁん』

 

 さすがに、自分の口でよしよしは出来ないので、左手で触れる。いつも、ヨルが触ってくれるのを真似して。もう片方の手は、ヨルの入る穴に触れる。ふと視線を横へやると、流れる川の水面に俺の姿が映っていた。

 

『っ!?』

 

衝撃だった。コレはどう見ても雄の姿ではない。雄のやる事ではない。膨らんだ乳の先を弄り、股を広げ穴に指を入れる。これはどう考えても“雌”だ。

なぜだ、俺は雄の筈なのに。どうして、どうして、どうして。

 

『んんんっ!』

 

 けれど、やはり快楽に流される本能には抗えない。俺は自分の姿を見たくなくて、目を閉じた。目を閉じ、乳の先端をヨルのするように弄る。穴をかき混ぜる。すると、どうだろう。まるでヨルにされてもらっているような、不思議な感覚になる。

 

——–スルーっ、ここか?ここが、良いんだなっ

『よる、よる、よる……ふぅうう……ん』

 

 気持ち良い。それは雄として行ってきた、一人の種まきよりも数段気持ち良かった。

ヨル、ヨル、ヨル。本当はヨルに口で、よしよしして欲しい。ヨルに穴の奥で種まきして欲しい。俺の中に、たくさん出して欲しい。

 

 その思考が頂点になった時、俺の気持ち良いが、月まで到達した。

 

『はぁっ、はぁっ、っはう』

 

 あぁ、もう。疲れた。俺は閉じていた目を開け、足の付近に飛び散ったであろう、自分の種を洗い流す為に川へと入ろうとした。けれど、目を開けた瞬間。俺は予想外の光景を目にした。もう、全然意味がわからない。

 

『な、んで』

 

 俺は、まったく種を出していなかった。出していないのに、俺のモノはきちんと役割を果たしたように、力無く倒れている。足の周りにも、周囲にも、何も出た形跡はない。いや、そんな事はない。だって、確かに、俺は。

 

『種まきじゃ、なかったのか?』

 

 俺はヒクつく穴と、膨れ上がった乳を映す水面に、愕然とした。俺は雄なのに、雌になってしまったのだ。こんなの、おかしい。おかしい。おかしい。

 

『なんだ、コレ。こわい。ヨルに、よるに、相談しないと』

 

 そうだ。ヨルは物知りだから。こうなった理由も、こうなってしまう原因も分かるはずだ。俺は雄だ。だからこそ、こうして一人で交接の真似事をして、種を定期的に出さなければ苦しい生き物なのだ。

皆、生き物は、自分の種を残す為に、交接を気持ち良いと感じるように出来ている。

 

『ヨルに、コレを言う?』

 

 だから、人間も動物もいっぱい居るのだ。交接が痛かったら、きっと人間は、とっくの昔に滅んでいるに違いない。だから、これは、当たり前。そういうモノだから、何も可笑しくないし、恥ずかしくもない。

 

 けれど――。

 

『こんなの、変だ。は、はずかしい』

 

 俺は、体の内側から湧き上がる、熱くて苦しくて、駆けだしたいような気分に襲われた。当たり前じゃない。理由が分からない。理屈が通らない。

雄なのに、乳が膨れて気持ちがいい。雄なのに、雄に触れるより、穴の中を弄る方が気持ち良い。雄なのに、種を蒔かずに気持ち良くなった。

 

『う、うぅ』

 

 俺はしばらく、その場を動けぬまま、体中に燃え盛るような熱さを宿したまま座り込むしかなかった。

 

——–もうっ!お父さんなんか、あっち行け!

 

 あぁ、そうだな、イン。分かってやれなくて済まなかった。

 恥ずかしいは、とても苦しい。こんなにも、苦しい。そして、他人に知られたくない。特に“好きな人”には、死んでも知られたくないと思った。

 

そう、俺はこの日初めて“恥ずかしい”を知った。