『……スルー。別に俺達はお前らの事を羨ましいとは思ってないぞ。なぁ?皆』
オポジットはオポジットで眉を寄せながら、周囲の村の男達へと視線を向けた。そのオポジットからの問いに対し、皆も『そうだな』『もちろんだ』と困ったような顔で頷き合っている。
あれ?皆、ヨルが俺を特別扱いしても“不公平”に思わないのか?皆、今まで通りヨルに協力してくれるのか?
『おい、ザン。この変わり者は何か変な勘違いをしてるぞ。あとでちゃんと説明しておけよ』
『え?』
『……っくそ。俺とした事が、他人の気配に気付かないなど』
『あとな?ザン。お前らがこんな事をやってるのを見るのは、皆初めてじゃないからな』
『はぁっ!?』
オポジットの言葉にヨルが俺の隣で更に大きく目を見開いて叫んだ。これは俺も驚きだ。まさか、ヴァーサスだけでなく、他の皆にも見られていたとは。
『お前らなぁ……。夜とは言え最近は浅い時間帯から会ってるだろう。あとは声が響いてる。俺達大人はいいけど、もっと声を落とさないと子供らも起き出てしまうぞ』
『……な、な、なっ』
どうやら、俺とヨルの二人だけの遊びは、俺達が気付いていないだけで皆以前から知っていたらしい。だとすれば、ヨルが俺の事を特別に好きだと知っていても、皆は今まで何も言わずに普通にヨルに協力してくれていたという事だろうか。
あれ?不公平って、誰も思わないのか?
オブとインは“不公平”だったのに。
『なぁ。オポジット。俺だけ“不公平”って思わないのか?』
『あ?スルー、まだそんな事を言ってるのか?思わないよ。なんでだ。別に俺達はお前らみたいな事をしたいなんて思ってねーからな』
『でも、オブがインにお菓子を渡してた時は、他の子らは“不公平”って言って、皆オブを責めてたぞ……』
『あぁ、そう言う事か。やっとお前の言いたい“不公平”が分かったぞ』
俺の言葉にオポジットを始め、その後ろに居た村人達まで『そういうことか』と納得したように頷き合う。
ついでに言えば、俺の隣に居たヨルまでもが物凄い視線を俺に向けて来ていた。
『スルー、お前……』
『不公平だと、不公平をした方が皆に責められるんじゃないのか?平等じゃないと、皆ザンに協力しなくなるんじゃないのか?』
どんな視線を向けられても、俺はもう止まらない。だって、不安なんだ。俺のせいでヨルが皆から責められて、やりたい事が出来なくなるなんて。
ヨルは俺よりも可愛いから、そういうのは絶対にあってはならないのだ。そんなのは俺が絶対に許さない。
俺だって、俺を許さない。
『確かにな。スルー、お前がザンから個人的に金でも掴まされてるんだったら、多少話は違うのかもしれんが……なぁ、皆。スルーがザンから特別に金目のモノを貰ってると思った事はあるか?』
『ないな』
『考えた事もなかった』
『そうだな』
金?俺はザンからそんなモノは貰っていない。
此処に来て、子供達で言う所の“お菓子”が、大人にとっては“金”である事を知った。そうか、確かに大人はお菓子ではあまり喜ばないかもしれない。
『俺は、ザンから金なんか貰ってない』
『だろうな』
オポジットが呆れた様子で肩をすくめた。まるで、そんな事は初めから分かってるとでも言うように。
『スルー。お前の家が、未だにこの村で一番貧しいだろうが』
『む、一番……かどうかは分からないだろう!』
『一番貧しいんだよ!どっからどう見ても!ったく、お前もヴィアも自分達の身なりに頓着が無さ過ぎなんだ!それに!お前が無駄な生き物ばかり集めて世話をするからそうなるんだぞ!少しは家族を楽させろ!』
オポジットの言葉に、俺はパチパチと目を瞬かせるしかなかった。どうやら、俺が一番貧乏だから、皆は“不公平だ”と思わないらしい。そう思うと、一番貧乏と言われても、ちっとも腹が立たなくなったから不思議だ。
貧乏で良かったとすら思える。
『それにな、スルー。例えもし、お前がザンから金を多少掴まされてたとしても、だ。俺達はザンに協力するだろうよ』
『……そう、なのか?』
——–スルー。お前、俺を侮るのも大概にしろ。
俺は首を傾げながら、いつかのヨルの言葉が耳の奥に木霊するのを聞いた。
それは、俺のような変わり者がヨルに話しかけたら、ヨルまで変わり者扱いをされて、皆から仲間外れにされるのではないか?と俺が危惧している時に、ヨルから口にされた言葉だった。
その言葉を、俺の腹の中に居るヨルが腕を組んで俺の中に居る、小さなスルーへと言い放つ。
『……ザンは言ってくれたじゃないか。俺達全員に』
『なん、て?』
『もう忘れたのか?ザンは村人全員に、今日も言ってたぞ』
——–安心しろ。心配しなくても、俺がお前らを全員富ませてやる。
『っ!』
そうだ。確かにヨルは事あるごとに口にしていたではないか。誰か一人を、ではない。ヨルは村の皆全員を、新しい世界に連れて行ってくれるんだ。
確かに、それなら全く不公平な事なんて何一つない。
『……そっか』
『そうだ。だから、お前らは好きに口付けでもなんでもしてろよ』
『っ!!!』
オポジットの言葉に俺はそれまで心の中につっかえていた大きな岩が、実は片足で蹴り飛ばせるくらいの小石だった事にようやく気付いた。
ヨルがいつの間にか、あの大岩を小石に変えてくれていたのだ!