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『ねえ、イン』
『どうしたの?マスター』
『ちょっと話さない?』
『うん!いいよ!』
今日も俺は酒場の休憩時間を利用して、インとのお喋りの時間を持つ事に成功した。今、オブはタオルと一緒に店の奥で在庫の管理をしている。
やっぱりあの二人が居なきゃ、俺には店なんて絶対に無理そうだ。
『ねぇ、インのお父さんの話なんだけどさ』
『また?どうしたの、マスター。またお父さんが恋しいの?』
『ちがくて。えっと……最近、小さい子を引き取ったから、お父さんの……こう、参考になるような話が聞きたくて』
毎度毎度、俺がお父さん恋しさにインに父親の話をねだっていると思われていては少しばかり癪なので、とっさにベストを理由に使わせてもらった。
どうやら、俺は“スルー”について、少し知る必要がありそうなのだ。
『小さい子?会いたい!会わせて!連れて来て!』
けれど、俺の“小さい子”という言葉に、インはパッと目を輝かせてくる。インは昔からそうなのだが、“赤ちゃん”とか“幼い子供”と言った自分よりも小さくて可愛いモノを好む傾向があるようだ。
だからこそ、幼い俺がマナの中で泣いている時、ずっと傍に居てくれた。
———この子はけもるだ!今日からアウトも家族だぞ!よしよししてやってくれ!
———ベストは小さいなぁ。俺がいっぱい守ってやらないと!
そう思うと、インとプラスは確かに似ているかもしれない。小さいモノを慈しむ心、それにソレを見た時の目の輝きや表情などは本当にソックリだ。
———可愛い!
キラリと瞳を輝かせた後、目尻がタラリと下がって顔いっぱいに笑顔を浮かべる。そんな二人の小さい者達を見つめる瞳には“愛”がいっぱい詰まっているのだ。
あんな顔で見られたら、きっとどんなに警戒心を露わにした人だって、いつの間にか二人の腕の中に納まってしまっている事だろう。
『わかった。今度紹介するよ。ベストって言うんだ』
『ベスト……!絶対だよ!』
『うん、約束する』
まぁ、約束するとは言ったものの、口にしながら俺は少しだけ困ってしまった。
ベストは俺とインの関係をどこまでウィズから聞かされているのだろうか。そもそも、インはオブの父親とどれ程仲が良かったのか。
『約束するから、教えて。イン。キミのお父さんと、そして――』
ふと思った俺はついでに尋ねてみる事にした。スルーと、そしてオブの父親であるザンという男について。
インの口から語られた二人の寂しがり屋な“お父さん”達のお話。
それは断片的ではあるが、酷く温かく、けれどサヨナラで終わる寂しいお話だった。