318:四者面談

 

 

「なんだと!?いつの間にベストのマナを調べたんだ!」

「たまたま彼が学窓の編入試験を受けた日が、一般学窓へのマナ測定日と重なっていたのさ」

 

——–マナを測りに来た神官じゃないか?今日は神官の来る日だろ。

——–バカ、こんなのが神官な訳ないだろ?

 

 ヴァイスの言葉に、俺はあの日、学窓の編入試験であの子供達が口にしていた言葉を思い出した。そうだ。確かにあの子達はそんな話をしていたではないか。

 

「たまたま?」

「あぁ、たまたまさ」

「っは。どうだかな」

「……ウィズ、そんな事はどうでも良い事じゃないか。さぁ、面談後、お前はベストの編入に掛かる手続きと引継ぎを、このまま君の窓組を指名して行わせてもらうよ。だから、今日僕はわざわざこの酒場を保護者面談の場に選んだんだからね」

 

 ウィズは眉間に深い皺を刻みながらヴァイスを見る。ヴァイスはと言えば、そんなウィズの言葉などお構いなしに、手元にあった酒に一口だけ口を付けた。

 

「ベストは……神官になるの?」

「そうだよ。アウト。まだ、彼は正確に十歳になってないから覚醒しきっていないけれど、彼には半身を失う前のウィズと同じ量のマナを持っている。これは凄い事だよ。ウィズだって十年に一度、いや五十年に一度の逸材って言われていたくらいだから」

 

——–良かったね。

 

 そう、テーブルに肘を月ながら微かに口角だけを上げるヴァイスに、俺はゴクリと唾を呑み込んだ。

 

 良かった。あぁ、良かったじゃないか。

 神官になれば一生仕事にも、金にも、もちろん地位にも困らない。そうだ。もうベストを浮浪児だとバカにする奴も居なくなるに違いない。

 

 

——-マナ無しは良いよなぁ。国の温情で仕事も貰えて。

——-マナが無くても出来る仕事?そんなモノを進路室で探そうとするな。お前が選べる仕事なんてないんだ。役所の支援窓口にでも行って与えてもらえ。

——–アウトさん?マナのない貴方を雇ってくれる職場なんてそうそうないんです。仕事を選り好みするなんて厚顔無恥にも程がありますよ。

 

「……」

 

 これまで、俺に向けられてきた冷たい言葉が頭の中を駆け巡る。

 うん、良かったじゃないか。マナがあれば、神官になれば。

 ベストはきっと“幸福”になれる。

 そう、俺が思った時だ。

 

——–アウト?お前はどうしたい?

 

「っ!」

 

 お父さんの声がした気がした。

 皆、俺にはマナがないから“選択肢”なんてないって言った。与えられたものを有難く頂戴して、頭を下げて生きろって言われた。

 

 けれど、そんな俺にも、お父さんはいつも聞いてくれていた。

 

 俺が、どうしたいのか。

 どんな風に、生きたいのか。

 

「ヴァイス。ちょっと待って」

「なんだい?アウト」

 

 俺はヴァイスの視線を真正面から受け止めると、あえてヴァイスが俺に痕を残した腕を前へと突き出した。

そうなれば、すぐ傍のテーブルに腰かけるウィズにも、“あの”痕がハッキリ見えてしまう事だろう。ウィズは俺の体の事を、俺以上に分かってくれているから。

 

「っ!アウト、お前。その腕!」

「うん。俺またこんなに痕が付いちゃったよ。俺って思ったより全然不死身じゃないね」

 

 案の定、先程椅子から立ち上がっていたウィズが、一気に此方へと近寄って来た。その目は驚愕と動揺、そして俺に対する憂慮に彩られている。

 あぁ、俺は本当にいつもウィズに心配をかける。

 

「アウト、その腕を見せてみろ!今度は一体どうしたんだ……まさか、また」

「大丈夫だよ」

「大丈夫なわけあるか!」

 

 けれど、ウィズには悪いが、どうやら俺はウィズから心配して貰えるのが、実は物凄く嬉しいみたいなのだ。

 

——アウト、どうした?その腕。見せてごらん。

 

 お父さん、お父さん、お父さん。

 

「ウィズって、お父さんみたい」

「は?」

 

 俺はもう居ない大好きな人を思い出しながら、ボソリと呟くと、それを聞いたウィズが呆けたような声を上げた。

 

「大丈夫だ、ウィズ。俺、一人でちゃんとやれる。だから、」

—–見てて。

「……」

 

 ありがとう。いつも俺の事をたくさん、心配してくれて。想ってくれて。

 愛してくれて。

 

 俺は俺の目に込められるだけの感謝と、愛情と、そして強がりを込めてウィズの目を見る。きっと、お父さんなんて言われてもウィズは嬉しくないと思う。っていうか、ウィズの方が俺よりも年下だし。

 でも、そう思ったんだから仕方がない。

 

「ヴァイス。少し、ベストと話しをさせて」

「どうぞ?その為の四者面談だ」

「あと、最初にハッキリと言っておくけど」

「うん?」

 

 コテリと、なんて事ない顔で首を傾げて頷くヴァイスに、俺は突き出していた手のひらを力強く握り締め、拳に変えた。

 この痕は、ヴァイスからの宣戦布告だ。ヴァイスが俺に「僕はキミと同等の力を持っているんだ」と改めて俺に見せつけているんだ。

 

 だとしたら、俺は受けて立たねばならない。

 なにせ、俺はベストの“お父さん”なんだから。

 

 俺は俺がお父さんにして貰って嬉しかった事を、そのままやる。俺には世界一の“お手本”が居たんだから。

 

——-うちのお父さんは世界で一番のお父さんなんだからね!

 

 イン。あの時は言い返さなかったけどさ。

 俺のお父さんだって、世界一だよ!

 

「神官学窓に入るかどうか、なんでベストに答えを聞いてもいないのに……勝手にヴァイスが決めるなよ」

 

——-アウト、好きにしていいんだ。思ったように生きていい。マナが無くても、世界への扉を、自分で締める事はない。何かあっても、大丈夫だ。

 

 

 お父さんが居る。

 

 

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