「皆って誰だよ?」
カラン、カラン、カラン、カラン。
そうやって、俺は何度も何度も眼鏡を捨ててはかけた。
今、目の前に居るプラスは、本当に俺の知っているプラスではなさすぎて、かけてもかけてもすぐに新しい眼鏡が必要になる。
でも、ただそれだけ。
俺はプラスにガッカリなんかしない。
「皆は皆だ!この世に存在する神官全員だ!」
「そんな訳ないだろ。皆って言葉で誤魔化そうとするな。この世界の全ての神官に会った事もない癖に、どうしてそんな事を言い切れる?……それに、少なくともウィズやヴァイスはそうじゃない」
捨てた眼鏡がたくさん俺の足元に転がっている。足の踏み場もない程に。
「そんなのお前が知らないだけで、こいつらだって同じだ!弱者を切り捨て、子供を犯す!自分の地位に酔いしれて他人に首を垂れさせる!自分の地位の確認の為だけに、暴力と恐怖で支配して、相手の人生を踏みつける!神官なんて、全員そうだ!俺はベストにそんな風にだけはなって欲しくないんだ!だからっ!ダメなんだ!教会なんて、あんな腐った場所は全部俺がぶっ壊してやる!」
「なぁ、プラス。もし、そんな事をしてみろ。それは俺達をマナ無しってバカにしてきた奴らと同じになるぞ」
「うるさいっ!うるさいうるさいうるさいっ!」
プラスは顔を真っ赤に上気させ、再び胸倉を掴み無理やり俺の体を引き寄せた。またしても、俺の目の前にはプラスの顔。けれど、最初にこの距離で見たプラスの顔と違って、今のプラスの目はユラユラと揺れ、どうしようもなく頼りない。
俺への敵意だけで、今のプラスはどうにか立っている。
「こういう親よく居るよね。僕、何度も見て来たよ」
すると、俺とプラスの真横から、声が聞こえた。そこには、いつ移動したのだろう。そこには、またしても神官の法衣服に身を包んだヴァイスが、両手を背で組みニコリと笑って此方を見ていた。
「ヴァイス……」
「プラスってさ、全然変り者じゃないよね。よく居るその辺の親と、まったく変わらない。もっと面白い奴だと思ってたのに。ガッカリだなぁ」
「……なんだと。お前に、俺の何が、」
「だって、そうじゃないか。プラスは自分と同じ職業をベストが選んで、ベストが同じような苦労をするのが嫌なんだ。親と同じ職業を選ぼうとする子供の親の、これは典型的な反応だよ」
ヴァイスの言葉に、一瞬、俺の思考がピタリと止まった。
親の自分と同じ職業?
——–父さん!俺も父さんみたいな騎士になることにした!
——–いや、アボード。お前が本気なら父さんも止めないんだが……もう少し考えてみないか?他にも格好良い仕事はいっぱいあるぞ?
——–嫌だね!俺はもう決めたんだ!それで、将来は父さんより出世して偉くなる!
俺は真っ白になった頭の中で、そんな家族の一コマが浮かんだ。
チラとプラスに胸倉を掴まれた体勢のまま、俺は視線だけをアボードへと向ける。すると、俺のことを心配そうに、焦ったように見つめてくるアボードと、バチリと目が合った。
「兄さん」
—–アウト。
あぁ、アボードは本当にお父さんそっくりだ。
大きくなって、本当にお父さんみたいな格好良い騎士になるんだから。
たまらないよ。でも、やっぱり此処に居るのはお父さんではなく、アボードだ。
皆に兄貴って言って好かれてるのも、お父さんではなく、アボードだ。
「本当に、大きくなったなぁ」
「……とう、さん?」
アボードの口から、面白い言葉が漏れた。
父さん?俺が?俺なんか、ちっとも父さんには似ていないだろ。でも、どうしてだろう。この世でお父さんの子供として育った、唯一無二の仲間(弟)に、そう言って貰えるのは、なんだかとても、誇らしい。
——-親は子供の先を生きてる!
なぁ、プラス。親と同じ職業に就いたって、それは親と同じ道なんかじゃない。
それはその子だけの道だ。