エピローグ2:審判の時、婚姻の儀③

 

 

 来ると思った。

 

 俺はヴァイスと、そのヴァイスの指を掴んだプラス。そして、その他大勢の聴衆たちの視線が、一気に俺へと向けられるのに、俺は心が「ひゃあ」と悲鳴をあげるのを聞いた。

 やめてくれ!俺はこういう純粋な注目を浴びる事には慣れていないんだ!

 

 それに、俺みたいなちょっとだけマナの増えた、殆どマナ無しに何を求めるっていうんだよ!

 

「僕たち太陽側の譲歩案はこうだ。アウトが形式上、僕たち太陽側からの使者として、プラスを一生監視し続ける事。有事の際は、アウトが全身全霊をかけて、プラスの暴走を止める事……前回のようにね」

「アウトがお前らの使者?どうしてそうなる?」

「一応、アウトは僕と同期をしているからね。こちら側は、僕とアウトを同一存在とみなしているのさ。だからこそ、この条件が成り立つ」

「ヴァイスとアウトが同一存在?っは。ご都合主義も甚だしいな。さすがは既得権益にしがみつく畜生共だ」

「君だって他者の犠牲をもろともせず、幸福に縋りつく蛆虫の癖に。でも、まぁね。だからこそ、そのご都合主義を、キミも利用すべきだと、僕は思うよ」

 

 どうやら、何やら問題があるらしく、その問題を解決できるのが俺らしいのだが……こんなにも当事者の意見を無視して進められる事ってあるだろうか!

 台詞も殆どないのに、役者一覧に名前だけ記載されているような気分だ。

 

「……アウトが一生俺の傍に居れば、俺はお前らに焼かれる事はないか」

「当面はね」

「別に、俺はお前らを先に粉々にしてもいいんだぞ」

「出来るならばご自由に?」

 

 ヴァイスの薄く湛えられた笑みに、プラスは掴んでいたヴァイスの指を離すと、両腕を組んだ。組んで、静かに目を伏せる。

 

「アウトが決めてくれ」

「へ?」

「今の俺は、自業自得で選択権がない。ただ、アウトは何も悪くないんだ。だから、アウトが決めてくれていい。俺の人生の為に、お前が縛られる必要なんてないんだ」

「プラス……」

 

 そんな、らしくない姿でしおらしい事を口にしてくるプラスに、俺は心がきゅうと締め付けられるようだった。しかし、次の瞬間、しおらしかったプラスの姿が一変した。

 

「さぁ、選んでくれ!俺と一生を共にして、俺を生かすか。共にせずに、俺を殺すか」

「……は?」

「だって、つまりはそういう事だろう?アウトに出された選択肢は俺を見捨てるのか、見捨てないのか!ただ、それだけだ!」

「ちくしょう!」

 

 パチンと勢いよく片目を瞬かせて俺に向けられた表情は、最早まるきり、いつものプラスだった。

 

 全く何なんだ!選択肢の人聞きが悪すぎるだろう!

 こんなのは、選択肢とは言わないし、半分脅しじゃないか!しかも、目を瞬かせたプラスの口元は、形の良い笑みを浮かべている。これは完全にプラスが「アウトはチョロイな!」って思っている顔だ。

 

「でも、プラスは悪い事をしたし……」

「あぁ、アウトが俺を選ばなかったら……最期に世界を滅ぼすしかないな」

「……お前」

 

 これは完全に、俺の事を掌でコロコロと転がして楽しんで居る。そして、俺は完全に転がされている!

 

「ねぇ、ヴァイス!本当に、一生!?ほんっとに、一生離れられないの!?」

「そうだよ。その為に、僕は魔用紙を用意したのさ。君たちにはまず、互いのマナで誓約を掛けてもらう」

「……破ったら?」

「誓約を破れば、誓約書も破れる。そうなれば、体内のマナが枯渇して崩死するようになっているよ。だから、マナの感知が出来る距離感以上に離れたら、もう二人はその時点で終わりだね。ついでに、アウトが終われば僕も終わる。三すくみ、これにて終焉なり!ってね」

「嫌過ぎる!!」

「という事は、俺から離れなければ問題ないようだぞ。アウト?」

「嫌過ぎる!!」

「そうは言っても、俺達は夫婦だろう」

「縁別前提だけどな……!?」

 

 あぁっ、どうしよう。俺は魔用紙の上に肘をついて頭を抱えた。

 しかも、先程までは何の文字も書かれていなかったのに、頭を抱えて覗き込んだ今、ハッキリと先程ヴァイスが口にした内容の誓約文書が、紙の上へと浮き上がってきている。

 

「ぐぐぐ」

 

 文章の締めには、俺の名前が既に焼き込まれているため、きっと俺が承諾をするならば、名前の隣に血判を押す事になるのだろう。

 これが、マナによる一般的な契約方法だ。

 ただし、破った時の制裁が一般的じゃ無さ過ぎるけれども。

 

「……そうだ」

 

 俺は頭を抱えた末、恋人のウィズに助けを求める事にした。きっとウィズなら、賢いから、俺にどうしたらいいのか教えてくれる筈だ。

 それに、ウィズは俺の事が一番大事なのだ。だから、ウィズが選んだ選択ならば、俺はその意見が一番好きだと思う。

よし、ウィズに丸投げしよう!

 

「うぃ」

 

 そう、俺がウィズに全ての選択権を丸投げしようとした時だった。