2:不条理×不条理=結果オーライ

 

 

『また、あのマナ無しオメガと同じ班かよ。どうせ居ても役に立たないんだから、試合の日、発情期で休んでくんねーかな』

『オメガだけならまだしも、マナ無し?早く役所で支援登録をして来い。俺達じゃ面倒みきれん』

『マナ無しのオメガ?笑わせるな。そんなのウチで雇える訳ないだろ』

 

 何度も、何度も言われて来た。

 そう。無能で低能なマナ無オメガとは、まさに俺の事だ!

 

 この世界は、摩訶不思議な事に、皆が生まれながらにして“前世”の記憶を有して生まれてくる。そんな中で、俺は、一切前世の記憶を持たずに生まれてきてしまった。

 記憶の無い者は“マナ無し”と呼ばれ、この世界では非常に冷遇される。地域によっては冷遇というより“差別”の対象だったりする。

 

記憶がなければ、前世からの技術や能力の継承もない。それどころか、記憶がない事はイコール体内のマナ保有量が、極めて少ない事を指すのである。

この世界で生きて行く為の生活基盤でもある“マナ”が体内に一切ないなんて、どこへ行っても役立たず以外の何者でもない。

 

それだけでも苦労する足枷を付けて生まれてきた状態なのに、俺はそれに輪をかけてオメガ性なんていう、更なる重苦を背負って生まれて来てしまった。

バースは性の第二の性別と言われる、アルファ、ベータ、オメガの三種類の“性”だ。男でオメガ性の俺は、まぁ、所以「孕まされる下等男」なのである。

 

別に、卑下して言ってるんじゃない。普通に、世間ではそう言う認識なのだ。

オメガは定期的に訪れる発情期のせいで、優性主のアルファを惑わせたり、定期的に一週間は体の自由が利かなくなったりと、ともかく社会説活を営む上で、支障が多すぎる。

 

 もう、“マナ無し”も“オメガ性”も俺にとってはウンザリだ!百害あって一利なし!

 

 

 そう、思っていたのだが――。

 

「アウト、どうした?今日はいやに機嫌がいいな?」

「ウィズ!あのな!今日な!職場にシンスさんが来て――」

「……アウト、待て。お前、まさか」

 

 ウィズと出会ってからマナ無しも、オメガも百利……いや、いっぱい利になった!

 マナ無だったからこそ、俺はウィズと出会えたし、オメガだからこそ、俺は大好きで愛しているアルファのウィズの赤ちゃんが産めるのだから!

 

「……発情期か?」

 

 俺は、まだ鍵も掛けぬ店中にも関わらず、勢いよくウィズの体に抱き着くと、本能に従ってウィズの唇に噛みついた。